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短時間の大雪事例と寒気質量について(1)

強い冬型の気圧配置により、日本海側の地方を中心に局地的に短時間で大雪となる場合があります。その要因は、日本海寒帯気団収束帯(JPCZ)や、筋状の雲域の停滞、Tモードの雲域、小さな低気圧、地形性の降水であったり様々です。また、海水温や大気の安定度、下層収束などの影響も小さくありません。

ここでは、Iwasaki et al. (2014) により定義された寒気質量DPなどをJRA55から算出して、いくつかの記録的な短時間の大雪事例との対応関係を見ていきます。

この記事に掲載した寒気質量などの分布図について、作図スクリプト(Python、MetPyを利用)を最後でダウンロードできるようにしています。興味のある方はご利用ください。

寒気質量と寒気層内の平均風速

Iwasaki et al. (2014) は、温位 280K を特定温位(θt)として冬季北北半球の寒気を解析しています。寒気質量(DP)は地表の気圧(Ps)と特定温位との気圧差で定義されていて、次の通りです。

$$
DP \equiv Ps - p(θt)
$$

冬型の気圧配置による大雪は風速の影響も大きいため、ここでは地表から特定温位面までの気層の鉛直方向に平均した風速(以下、寒気層内の平均風と呼ぶ)を求めることにします。前述の Iwasaki et al. (2014)では、寒気質量フラックスを定義して考察を進めていますが、実況監視など現業利用の観点から風速の方が利用しやすいと考えて、この「寒気層内の平均風」を利用することとしました。

アメダスの6時間降雪量の記録

気象庁ホームページから6時間降雪量の記録をダウンロードし、各都道府県毎のこれまでの一位の記録を表1にまとめました(2022年2月5日現在)。6時間降雪量としたのは、JRA55が6時間ごとのデータを提供しているため、この時間間隔に合わせることにしました。

表1 アメダスの各都道府県別6時間降雪量のこれまでの記録
(2022年2月5日現在)

大雪の災害事例について

記事「大雪解説のために寒気の規模を定量化」の図3を図1として再掲します。この大雪により車両の大規模滞留が発生した事例や、上で示した6時間降雪量の記録をもつ事例と寒気質量との対応関係をみていくことにします。

図1 車両大規模滞留の災害発生と寒気の規模の関連

2010年12月31日の鳥取県の大雪事例

この事例は、図1で「寒気の強さ」が一番強く、「強い寒気の期間」が一番長い事例となります。大晦日から正月にかけて大雪となり、大規模な車両滞留・交通障害・大規模停電など顕著な災害が発生しました。この災害や気象状況を防災科学研究所の雪氷防災研究センターが、防災科学技術研究所主要災害調査 第47号 2012年2月「平成23年豪雪時の降雪特性と雪氷災害の発生」として資料に詳細にまとめています。

図2 2010年12月31日15時のひまわりの可視画像
(高知大学・東京大学・気象庁提供)
画像は高知大学気象情報頁(http://weather.is.kochi-u.ac.jp/)による。

2010年12月31日、鳥取県では6時間降雪量が大山では55cm、米子では45cmを観測しました。図2の通り、衛星画像から日本海西部ではJPCZが明瞭で、鳥取県沿岸部を通って近畿地方北部付近に達しています。

アメダス米子の気温・露点温度・降雪量・積雪量・風の時系列図を図3に示します。8時から22時に強い雪が断続して降り、1日で70cmを超える積雪となっています。風はほぼ西風となっていて、アメダス米子の北側にJPCZが停滞していたと推定できそうです。

図3 アメダス米子の観測値の時系列図(2010年12月31日)
気温(赤)、露点温度(緑)、降雪量(棒)、積雪量(青)、平均風速(矢羽)

2010年12月30日09時から2011年1月1日3時までの、寒気質量(シェード)、寒気層の平均風速(矢羽)、地上気圧の等圧線(黒実線)の図の6時間毎の動画を図4に示します。

図2の衛星画像から寒気の流れ込みによる筋状の雲域は、東シナ海から西日本付近に限られています。東日本や北日本では見られません。寒気質量もこの筋状の雲域に対応するように、高い寒気質量域が、朝鮮半島付近から西日本周辺に流れ込んでいたことがわかります。

米子や大山で強い降雪が降っている期間は、寒気質量はおよそ250hPa、寒気層内の平均風は20から25knotとなっています。

図4 寒気質量(シェード:hPa)の分布図(2010年12月30日9時から2011年1月1日3時の動画)
矢羽は寒気層内の平均風、黒実線は地上気圧の等圧線を示す。

31日9時と15時における衛星画像から判別できるJPCZの位置を、図4の図に赤の実線で示した図を図5に示します。9時ではJPCZは寒気層内の平均風のシアとほぼ一致していて、15時は明瞭ではなくなってきている。また、寒気質量の等値線を横切るように、平均風が吹いていました

図5 2010年12月31日9,15時の寒気質量などの分布(図4と同じ)とJPCZの位置(赤線)

この事例では、6時間降雪量が多くなった要因としては、発達した雲域を伴うJPCZが停滞したことが主要因と考えらます。JPCZ周辺の寒気質量などからみた環境場と、JPCZの強弱などの特徴がみえてこないか、他の事例も調べることにします。

寒気質量などの作図スクリプト

次の「ダウンロード」ボタンを押すことで、図4、図5を作成する際に利用したPythonのスクリプト(Jupyter Notebook用)を取得できます。

データは、JRA55のNetCDF形式を利用しています。京都大学のサイトから、ユーザー申請して強化が得られると、ダウンロードできます。

このコードでの肝は、等圧面データから等温位面データを作成するところにあります。この説明は、記事「JRA-55を使った力学的圏界面の天気図」で、等圧面データから等渦位面データを作る部分と同様のため、解説は省きます。

次回は続きとして、2017年2月10日の福井県の大雪事例などを調べていく予定です。









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