日本海西部を南下した組織化した対流雲域とECMWFのGRIB2 (1/3)
2023年5月23日夜、近畿地方では当初予想されていない雷雨となりました。これをもたらした組織化した対流雲は、スケールが100km程度で孤立しており、数値予報モデルでも予想が難しい現象でした。今回はECMWFのOpen Dataからヨロッパの全球モデル(GRIB2ファイル)をダウンロードし、MetPyを利用して、この対流雲が日本海で発生・発達した頃の総観場・環境場を調べます。
コードについては、ECMWFのOpen DataなどGRIB2の読み込み方についての情報を紹介します。
現象の概要
近畿地方に雷雨をもたらした雲域は、23日6時頃に日本海西部で発生し、発達しながら600km以上南下して近畿地方に到達しました(図1)。
レーダーでは、進行方向に垂直な東西方向にのびる活発な対流活動を捉えており、ボーエコーのような形状となっています(図2)。また、海上を中心に多数の雷が検知されていました(図3)。
地上天気図から、23日3時に朝鮮半島北部にある高気圧がゆっくり南東へ進み、午後は日本海に達しています。23日の日本海西部では、次第に北から高気圧に覆われてくる中、注目している対流雲が発生・発達しました。
500hPa面では深い気圧の谷が日本付近を通過し、23日21時にはカットオフした低気圧が東北地方に解析されています(図5)。この低気圧の南西側には寒気トラフがあって、対流雲との対応が良さそうです。
解析に利用するECMWFのOPEN DATAについて
ECMWFのOpen dataの詳細ついて、ここを参照してください。全球モデルのGRIB2が、このダウンロードサーバーに、最新を除いた13初期値分が保存されています。
00,12Z初期値のGRIB2のファイル名は、240時間先までの予想があり、
YYYYMMDD/HHz/0p4-beta/oper/YYYYMMDDHH0000-FFh-oper-fc.grib2
です。144時間先までは 3時間ごと、150時間以降は 6時間ごとの予想GRIB2データがあります。
06,18Z初期値値のGRIB2のファイル名は、90時間先間ので予想があり、
YYYYMMDD/HHz/0p4-beta/scda/YYYYMMDDHH0000-FFh-scda-fc.grib2
です。3時間ごとの予想GRIB2データがあります。
なお、YYYYMMDDは年月日(UTC)、HHは初期時刻(UTC)、FFは予想時刻です。
このGRIB2に格納されている等圧面は、
1000,925,850,700,500,300,250,200,50hPaの9気圧面です。
要素は8つの物理量で次の通りです。括弧内は、読み込み時に指定する要素のshort nameと単位です。
高度(gh,単位gpm)、風速(u,v:単位m/s)、気温(t,単位K)、
相対湿度(r:単位%)、比湿(q,単位kg/kg)、
相対渦度(vo,単位/s)、発散(d,単位/s)
等圧面以外の要素は、11物理量あります。
地上気圧(sp:単位Pa)、海面校正気圧(msl:単位Pa)、
10m高度風速(10u,10v:単位m/s)、
2m気温(2t:単位K)、土壌気温(st:単位K)、表面温度(skt:単位K)、
降水量(tp:単位m)、可降水量(tcwv:単位kg/m/m)、流出量(ro:単位m)、
海陸マスク(lsm:0 or 1)
500hPa面高度・渦度の天気図
気象庁のFAX天気図(AFXE578の上側の図)と同等、ECMWFの全球モデルの500hPa面の等高度線、相対渦度の図を作図しました(図6)。
この図では注目している対流雲の位置を、赤矢印の先端で示しています。この位置の北ないし北西側にスケールの小さい正渦度極大域があることがわかります。対流雲発生・発達にこの正渦度が影響していた可能性はあるでしょう。
このMetPyを利用したコードは、以前noteの記事にしたGSMの作図コードを利用し、ファイル名の指定や、GRIB2の読み込みをECMWF用に修正したのみなので、コードの解説は省略します。
Jupyter notebookで動作するファイルを、下に添付します。ECMWFのGRIB2ファイルを、./data/ecm/に保存して、初期時間と予想時間を指定すると作図できます。
次回は、ECMWFの予想データを使って、気象庁で作成しているFAX図と同等なものを作図して行きます。
<内容の変更>
図6とこの図の考察を、7月23日11時頃により詳しく書き換えました。