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だから今日は帰らないと殺されるねん

飲み会を開始早々、「今日は早く帰らないといけない」と仲間の一人が言う。

訊けば、数日前に飲み過ぎて電車を乗り過ごし、終点まで奥様にクルマで迎えにきてもらったらしい。さらに、帰宅してから財布の入ったカバンをどこかに忘れたらしく、(結局電車に置き忘れ無事にもどってきた)相当迷惑をかけたそうだ。本人にとっては自業自得のおもしろ失敗談だし、こうして飲み会で話せは100%ウケるエピソードなのだが、奥様にとっては巻き込まれ事故である。子どもを寝かしつけ、やっと落ち着いたところで、旦那からの急を要する知らせに、リラックスタイムを台無しにされ、心配と怒りで深夜にどうにかなりそうだったことだろう。

その奥様に迷惑をかけた友人は「だから今日は帰らないと殺されるねん」とまた笑いを誘う。これを標準語でいうとシャレにならない感じもするが、関西の人がいうと辛辣にならないのがズルいというか、羨ましいといつも思う。そして彼は予告通り、早めに切り上げて帰っていった。

When you’re lost and you’re alone
And you can’t get back again
I will find you

あなたが道を見失って
戻ってこれなくなった時
きっと見つけるわ

Sadeの「By Your Side」は、愛想をつかされたと思っている男性に「捨てるわけないでしょ、あなたの側にいるから」と返す、深い愛の歌だ。

奥様はだた自分の時間が台無しにされて怒っているわけではない。本気で心配しているのだ。もし深酒が原因で今後事故にあったりしないか、そもそもそんなに飲んでたら身体に良くないと、心から彼を思って、早く帰るように言ったのだろう。これが、愛人や飲み屋のお姉ちゃんならそうはいかない。どんどん飲んで、どんどん乗り過ごして面白エピソードを私のために話してと要求する。極端な話、明日彼がいなくなっても、困らないのだから。でも奥様は違う。彼はかけがえのない存在だ。80億人近くいる人類の中でたった一人と思う大切な生き物だ。

彼はそのことを理解している。だから早めに切り上げて真っすぐ帰った。将来のために今、何を成すべきか、彼はそのことを僕に教えてくれた。

これは自戒を込めて書いている。
友よ、今度は僕らの番だ。
僕らがかけがいのない人のために、この歌を奥様に捧げようではないか。


photo by UnsplashPaul Einerhandが撮影した写真


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