Pro ToolsとATEMをクロック・リファレンスの同期をとって、映像と音声の波形の精度を検証
映像やオーディオのデジタル分野において「同期」というと、クロック・リファレンスとポジショナルク・リファレンスの2つがあります。
ポジショナル・リファレンスとは位置情報のことでタイムコードを指します。時間軸における現在位置を「時間/分/秒/フレーム」の単位で伝えます。
一方、クロック・リファレンスは再生速度のことです。適切にクロック・リファレンスの同期を保つと、複数のデバイスを同じポジションから再生スタートした場合、まったく同じスピードで再生させることができます。クロックのマスターは1つにする必要があります。音楽機材を扱う方なら「Word Clock」を使用したことがあるでしょうか。
さて、私のシステムはざっくりいうと以下のような感じです(実際はもう少し複雑です)。
音声はPro Toolsで扱い、その音声を映像スイッチャーのATEMに入力、最終的に完成映像を映像レコーダーで録画します。ただ、映像や音声に修正などが生じた場合は、映像編集ソフトで編集を行いますが、その際、Pro Toolsで記録した「音声ファイル」と、映像レコーダーで録画した「映像ファイル」が正確に同期してあるととても有効です。
今までは、Pro ToolsとATEMはそれぞれのクロックで自走させていましたが、今回以下の方法でクロックの同期を取ってみました。使用したのは、オーディオ・ディエンベデッド機能を搭載したビデオコンバーターです。HDMI to SDIでもSDI to HDMIでもどちらでも構いません。
映像スイッチャーATEMをクロックマスターにして、プログラムアウトをビデオコンバーターに入力、コンバーターでオーディオをディエンベデッド(分離)してAES/EBUの音声信号を取り出し、Pro Toolsに入力します。Pro ToolsではこのAES/EBU信号をクロックソースとしてだけ使用します。AES/EBUデジタルオーディオケーブルは、インピーダンス110Ωのものを使用してください。
説明が長くなりました、検証結果です。今回検証に用いたのは約50分間のトーク番組の音声です。映像レコーダー録画した同録映像と、Pro Toolsから書き出した音声ファイルの同期精度を調べます。
先日の実験はAdobe Premiere Proの「タイムコードで同期」の機能を使用しましたが、今回は「オーディオで同期」の機能を使います。上の青い波形が映像レコーダーの同録映像、下の緑の波形がPro Toolsでエクスポートしたオーディオファイルです。以下がオーディオを基準にして同期をかけた状態です。1分ちょっと時点から音が開始していますが、タイミングが揃っているのがわかります。
フレーム精度最大値まで波形を拡大してみます。ピッタリ合っているように見えますが……
「オーディオユニット時間で表示」というモードに変更すると、さらに細かい精度で波形を見ることができます。
オーディオ精度で波形を拡大して見ると、以下でハイライトさせた“ひと山”分だけ波形がずれていることがわかります。
緑色のオーディオの波形を左に少し動かして、縦を揃えます。ほぼ合いました。
さらに波形を拡大していきます。サンプル精度でもほぼ合っています。
サンプル精度最大値まで波形を拡大して、「ゼロクロスポイント」の位置まで揃えます。ゼロクロスポイントとは、波形と中央線の交差する場所のことを言います。
これでサンプル精度で映像ファイルとオーディオファイルの冒頭部分のタイミングが合いました。次に、約52分経過した、音声の終了部分を見てみます。
見る限り、ぴったり合っていますね。フレーム精度最大まで拡大してみても、一致しているのがわかります。
再び、「オーディオユニット時間で表示」モードにして、さらに細かい精度で波形を見ます。サンプル精度でもほぼぴったり。
波形レベルまで拡大してもズレてない!
サンプル精度最大まで波形を拡大して、ゼロクロスポイントの位置を確認します。判定が難しいところですが、赤い点線をゼロクロスポイントとするのであれば……
誤差、なんと、0~2サンプル!!!!!
「フレーム」じゃないですよ。「ミリセック」じゃないですよ。「サンプル」です。サンプリング周波数48kHzで記録しましたので、1サンプルとは、1秒間を4万8,000個に分けた最小単位です。
別々の機械で記録した50分尺のデータでこの精度ですので、これはもう、合っていると扱って問題ないでしょう。「だんだんズレてくる」という話をよく聞きますが、クロック・リファレンスの同期を保つと、驚異的にズレませんでした。
使用したビデオコンバーターは、中古で5000円でした。
映像スイッチャーとDAWを一緒に運用する場合は、あとで音声のトラックダウンをやり直したり、MAすることを考えると、クロックの同期をとっておくと精度の高い編集が可能でしょう。