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八木良平~ウクライナのピアノ曲~動画公開&楽曲解説

2024年2月15日、東京渋谷区・古賀政男音楽博物館 けやきホールにて開催した 八木良平のピアノリサイタル「Shiro Consort ~ウクライナのピアノ曲~」より、本編で演奏した曲を1曲ずつ切り出した映像が公開になりました。

プログラムより八木氏本人による楽曲解説を掲載します。また、コンサートに寄せた八木氏のメッセージも掲載します。


ヴィクトル・コセンコ:ガヴォット

ヴィクトル・コセンコ(1896~1938)は「ウクライナのショパン」と呼ばれ、ピアノ作品を多く残した。

自身が優れたピアニストであり、その作品はいずれも高度なピアノ書法で書かれ、3度、6度の重音、オクターブ以上の跳躍など「ウクライナのショパン」と呼ばれるに相応しいものである。「ガヴォット」は「古風な舞踏の形式による11の練習曲Op.19」の7曲目にあたる作品で重音の練習曲となっている。

ネスター・ニジャンコフスキー:ワルツ

ネスター・ニジャンコフスキー(1893~1940)はウィーン大学で歴史学の博士号を取り、その後プラハ音楽院を卒業したピアニスト、音楽評論家。

「ウクライナの主題による前奏曲とフーガ」「コロミイカ(ウクライナのテンポの速い舞曲)」など民族色の強い作品が残されている。「ワルツ」哀愁とほのかな民族色を孕んだ小品。

クレメンティ・コルチャマレフ:左手のための前奏曲

クレメンティ・コルチャマレフ(1899~1958)はドニプロペトロウシクに生まれモスクワに没した作曲家。ウクライナの映画音楽作曲家としても知られている。

ドナルド・パターソン「片手のピアノ曲」ではスクリャービン、ラフマニノフに連なるピアノ曲として紹介されている。左手のための作品は同じくウクライナの作曲家フェリクス・ブルーメンフェルトの「左手のための練習曲」があるが、スタイルはスクリャービンのに近い。

アレクサンドル・ツファスマン:抒情的なワルツ

アレクサンドル・ツファスマン(1906~1971)はウクライナのザポリージャに生まれたピアニスト、作曲家。ジャズピアニストとして活躍しソヴィエトのジャズを牽引した。

近年ではクラシック作曲家としての評価も進み、「オーケストラとピアノのためのジャズ組曲」はプレトニョフによって録音されている。「抒情的なワルツ」は「ジャズ組曲」2曲目を作曲本人がピアノソロに編曲したものである。

イホール・シャモ:ウクライナ組曲

イホール・シャモー「ウクライナ組曲」
(I. Duma, II. Vesnyanka, III. Melodie,  IV. Tanz)

イホール・シャモー(1925~1985)はキエフに生まれキエフ音楽院を卒業、大祖国戦争に従軍した。その後劇場用作品はじめ多くの作品を残した。キエフ市の公式市歌「私のキーウ(キエフ)」の作曲家として知られウクライナではよく知られた作曲家である。

「ウクライナ組曲」は4曲からなる作品。第1曲「Duma」はドゥムカのこと。ウクライナではDumaは盲目の吟遊歌人コブザーリが,バンドゥーラを弾きながら歌う叙事詩。バンドゥーラはリュートとチターを合わせたようなウクライナの民族楽器。バンドゥーラを思わせる音型に朗誦風の旋律が歌われる。

CC 表示-継承 3.0
著作者: Beerco666
ja.wikipedia.バンドゥーラから

第2曲「Vesnyanka」ヴェスニアンカはウクライナの古いダンス。速いテンポの春の踊りでその起源はキリスト教伝来以前に遡るという。

第3曲「Melodie」はゆったりとしたウクライナの旋律が歌われる。第1曲に比べ息の長い旋律があらわれる。

第4曲「Tanz」は急速な舞曲。多分にウクライナの民族色が聴かれる。バルトーク風でもあるが響きはソフトである。

(八木良平)

ウクライナのピアノ音楽・八木良平(メッセージ)

本日は「ウクライナのピアノ音楽」ご来場頂きありがとうございます。

本日演奏する作品はかつては「ソヴィエトの音楽」として紹介されて来たものでした。それはウクライナだけでなくアルメニアのハチャトゥリアン、ババジャニアン、ジョージアのツィンツァーゼなど現在ではその国の民族色を示す作曲家もソヴィエトの音楽として一括りにされていました。

コセンコの盟友であったミコラ・リセンコ(1842~1912)はウクライナ語で多くの歌曲を作りオペラもウクライナ語で書きました。ソヴィエト時代リセンコは国粋主義者とみなされ投獄されています。チャイコフスキーはリセンコのオペラ「タラス・ブルバ」を高く評価しモスクワでの上演を計画しますがその時の条件「ロシア語への翻訳上演」をリセンコ本人が拒否し実現していません。

チャイコフスキー自身もウクライナのコサック「チャイク家」の出身で「ピアノ協奏曲1番」でウクライナ民謡「出てこい、出てこい、イヴァンカ」を引用しています。

ソヴィエト政権下では社会主義リアリズムが唯一の芸術文化の「創造的方法」と見做されました。そこから逸脱した作品は容赦なく批判され中でもポリス・リャトシンスキー(1895~1968)とレフコ・レヴュツキ(1898~1977)は厳しい批判と迫害にさらされます。リャトシンスキーのピアノ協奏曲「スラブ」にはウクライナの民族色が深く刻まれています。

そんな中1938年までポーランド領であった西部は自由でヴァシル・バルヴィンスキー(1888~1963)、アナトリー・コス=アナトルスキー(1909~1983)等が活躍しました。

二次大戦後はヴァレンティン・シルベストロフ(1937~)、ミロスラフ・スコリク(1938~2020)が活躍しピアニストのレパートリーとして演奏されています。近年ではニコライ・カプスチン(1937~2020)が世界的にブームとなり日本でも楽譜が出版されました。

私がウクライナの音楽を意識したのは3年前偶然コセンコの作品を取り上げた時です。ウクライナの作曲家独特の響きや旋律の一端を紹介出来れば思います。

2024年2月15日(木) 八木良平ピアノリサイタル
「Shiro Consort ~ウクライナのピアノ曲~」プログラムより

Shiro Consort ~ウクライナのピアノ曲~
出演:八木良平(ピアノ)
2024年2月15日 古賀政男音楽博物館 けやきホール

  • ヴィクトル・コセンコ:ガヴォット

  • ネスター・ニジャンコフスキー:ワルツ

  • クレメンティ・コルチャマレフ:左手のための前奏曲

  • アレクサンドル・ツファスマン:抒情的なワルツ

  • イホール・シャモ:ウクライナ組曲(I. Duma, II. Vesnyanka, III. Melodie,  IV. Tanz)

ピアノ:八木良平

フォトギャラリー(写真/南出 卓)

コンサート全編映像

コンサート全編映像も公開しております。コンサートの全貌をぜひお楽しみください。

アンコール曲について

当日演奏されたアンコール曲については別の記事を公開しています。

再生リスト

アンコール曲含め、すべての演奏曲を連続再生できる、再生リスト「Shiro Consort ~ウクライナのピアノ曲~ 八木良平」も公開中です。

https://youtube.com/playlist?list=PLbt2lMpT3BEwPEqvRcTQ1Y7zJC8acvMKv&si=ham31QD4jb2kkXkk

アーティスト情報

八木良平(Ryohei Yagi)

大阪音楽大学器楽学科ピアノ専攻卒業。故三善晃、故杉谷 昭子、金澤攝、生駒三都、戸田優佳の各氏とのピアノデュオ の演奏、室内楽などでも活躍。 1996年フェニックス・エヴォリューション・シリーズにおいて 「武満徹追悼演奏会」を企画、演奏。第10回「万里の長城杯」国際音楽コンクール一般の部A第1位。

2013年より神戸元町のクラシックサロン・アマデウスのオーナーとして演奏、 企画を行っている。

神戸・元町 クラシックサロン・アマデウス
http://classicsalon-amadeus.com/

録音・撮影

白金ピアノスタジオ(Shirokane Piano Studio)

東京・港区白金にあるピアノ演奏の録音と撮影に特化した音楽スタジオ。1906年製のグランド・ピアノ「ベヒシュタイン Model B」とPro Tools HDXシステムを中心とした録音機材、撮影用の映像機器を常設し、音楽レコーディングおよび動画撮影が可能。ドルビーアトモス仕様の空間オーディオ作品も制作できる。

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