リモート×スクラム:新たな働き方のプロトコル
2020年を機に多くの人にとってリモートワークやリモート会議・授業などが現実的になった。当初はスクラムはリモートでは成立しないと言う人もいた。今のリモートアジャイルについて、私自身がフルリモートでスクラム開発を行っている立場で改めて考える。
リモートアジャイルの課題:コミュニケーションの壁を乗り越える
スクラムやアジャイルでもウォーターフォールでも、プロジェクトを遂行し、プロダクト・サービス等で顧客に価値を提供するという本質は同じ。
顧客への価値提供という観点から見たスクラムの最大のメリットは、顧客とのフィードバックループを短縮し、顧客が本当に求めるものを迅速に提供できる点にある。一方、短期的な価値に目が向きがちになり、俯瞰的・長期的な視点が欠けてしまう懸念もある。
フィードバックループを効果的に回していくためには、コミュニケーションが重要になる。スクラムイベントやXP・モブプロでのプロトタイピングなどによる的確で明確なコミュニケーションを通じて、アウトカムの確度や精度を上げていく。
リモートでの課題の一つはコミュニケーションコストだ。
スクラムのメリットを最大限に引き出す:リモートワークならではの工夫
コミュニケーションコストは、種々の「通じ合えなさ」への対策コストと言える。例えば、海外のステークホルダーとのコミュニケーションは、言語の問題もあり、コミュニケーションコストが高めになることは認知しやすいだろう。
コロナ前によくあった光景としては、ホワイトボードやメモ用紙に四角や丸や矢印などを書きながら議論して詳細仕様や実装を固めていく様子。議論開始時には少々曖昧な表現だったイメージがその場の議論で固まっていく。
行き詰まった時にも、誰かとちょっと話して糸口を見つけたり、逆に煮詰まっている風なメンバーに声をかけたり、ということもやりやすかった。
リモートでも同じようなことはできるが、気楽さは全く異なる。ましてや、出会って1週間のメンバーと「ちょっと話す」のはかなりハードルが高い。それでも、みんながリモートにフィットしてからのコミュニケーションには、それはそれで良さがある。Teams、Slack、Discordなどの同期・非同期コミュニケーションツールや会議動画のアーカイブ・・・もはや対面だけの世界には戻れないくらいの便利さもある。
「通じ合えなさ」を克服:コミュニケーションコストを下げる具体的な方法
ノンバーバルコミュニケーションで通じていた、文脈や暗黙的な部分が一部失われ、時間的・空間的な制約が課されたことで、種々の「通じ合えなさ」が新たに顕在化したというのが2020年からの状態と言えそう。この「通じ合えなさ」を埋めるために、言語化・可視化の必然性が上がり、フィットした結果がリモートのちょうど良い距離感につながっているのかもしれない。
伝えたいことをテキストや図で整理して共有する人が増え、口伝やホワイトボード描きっぱなし率が下がった:PowerPoint, Miro, Markdownでのメモ, etc.
多くの会議でレコーディングやトランスクリプトを残し、欠席者にも共有:Teams, YouTube, etc.
社内チャットやブログの活用で相手の様子・事情もある程度わかるため、相手に必要な時間を考慮する人が増えた:Teams, Discord, Slack, Engage, etc.
モブプログラミング・モブワークを行うとき、声をかけて参加できる人・参加できる時間でわーっと始めてサッと終わるのもリモートだとやりやすい:Teams, etc.で会議を開きっぱなして画面共有しながらモブワーク
オンオフのバランス:リモートワークと対面のメリットを活かす
業務によってはリモート対応が難しいものもあるが、リモートで時間と空間の制約を最小限にできるというのは今後も外せないメリットになる。様々なスキルやプロフェッショナリティを持つメンバーと場所や時間の制約を感じずにコミュニケーションして仕事を進めていくことができるのは、リモートの強みだ。
もちろん、対面のメリットは大きい。オフラインでの集中レビューイベントやワークショップなどで集まる機会を作ると、チームのプロジェクトゴールへのイメージもより鮮やかに共有できるようになる。
現状の結論: チームの状況に合わせて、フルリモートでスクラム開発を行う自由を謳歌したい❤️
改善案: リモートワークでのスクラム開発を成功させるために、チーム全体でコミュニケーションの質を高め、お互いを尊重し合いながら、柔軟に働き方を工夫していきたい
Have a happy scrum and dev life!!
読者の皆様も、リモートアジャイルに取り組む際に、本記事が少しでも参考になれば幸いです。
本記事は、シン・アジャイルコミュニティの【ほぼ月刊】シンアジャマガジン Vol. 8のトピック「リモートアジャイルで感じる課題と対策」への寄稿です。
Vol. 8には、本稿では触れていないリモートアジャイルの考察記事もあり、おすすめです。