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人はなぜチープな事業計画をたて、ニーズのないプロダクトを創るのか

この記事は「paiza Advent Calendar 2023」の最終日の記事です。
最終日はpaiza株式会社で社長をやっている片山がお送りいたします。
タイトルはほぼ釣りです。

ちなみに、paizaはITエンジニア向け国内最大の転職・就職・学習プラットフォームです。(paiza.jp)

記事概要

  1. 絵にかいた餅は大した価値はなく、実行し成果が出せて初めて価値がある

  2. 実行プロセスやプロダクトが良くても、市場ニーズがなければ価値はない

  3. 計画は粗くてもいいから一筆書きで描き切ることが重要

  4. 一筆書きで書いたら実際に動いてすぐ更新すべし

つまり実行が出来る計画を描き、実際に実行し、発見があれば即修正しながら成果を出せ、というごく当たり前な内容です。
ただそれがとても難しいので、どのあたりでつまづきやすいのか、経験を元にまとめてみました、という記事です。

計画は荒くてもいいから一筆書きで書き、高速にPDCAをまわす

11月中旬に私用で高知に行くことがありました。その行きと帰り飛行機の座席モニターで見れる動画に、たまたま前職でつながりのある新規事業のプロである守屋実さんの動画「New School MOVIE 新規事業は今、生み出すべき」を発見し、思わず見てしまいました。

【守屋実が伝授】やらないと失敗する「新規事業創出術」
ラクスル、ケアプロなど、これまで50以上の新規事業を世に生み出してきた新規事業家・守屋実。今回は「実戦・新規事業創出」として、事業を成功へと導く方法を全2回で学んでいく。
現在、年間12万社ほどの会社が生まれているというが、創業して5年後には約85%が廃業している厳しい現実がある。
どれだけ計画的に、念入りに進めても、新規事業の創出はなかなかうまくいかないものだ。
しかし新規事業のプロフェッショナルである守屋のメソッドを学べば、その高い壁を超えるチャンスは生まれる。
豊富な経験に基づく、具体的な成功への道標をぜひご覧いただきたい。

【守屋実が伝授】やらないと失敗する「新規事業創出術」
https://newspicks.com/movie-series/110?movieId=2651

守屋さんとは在籍期間はかぶっていないものの、前職のエムアウトでつながりがあり、paizaの事業アドバイスなども何回かいただいていていました。ちなみに前職のエムアウトは、新規事業立ち上げを専業でやってる、VCのようなインキュベータのような、とてもユニークな会社で、自分で事業やる以外にも、隣で事業ができたり潰れたりする様子が見れたりする、とても刺激的な環境でした。

この動画はざっくり言ってしまうと「新規事業は考えてるだけじゃ進まない、一歩目を踏み出さないと二歩目はない、とにかくやれよ」という内容です。その一方で「机上の空論では成功しない、経験値に基づくリアルなノウハウが必要」ともいってて、そりゃそうだな、なのですが、スタートアップや、新規事業やってる人、やろうと思ってる人にとってはメチャ面白い内容なのでおすすめです。

45分×2本のボリュームなのですが、その中でもこれは新規事業やスタートアップ、戦略立案や施策検討時に役立つなと思ったのが次のくだり。

「一筆書きの高速回転」

これは、新規事業のビジネスモデルを、市場のニーズから、ニーズの背景、サービス設計、マネタイズ方法、顧客獲得・デリバリー方法、競合優位性、実現する体制、必要な資金、スケジュールを、解像度が粗くてもいいから一筆書きでざっと描き切って、想定顧客や業界関係者にぶつけ、毎日書き換えるぐらい高速に、一筆書きで更新する、というものです。

「一筆書き」すべきは、12 個の手順である。最初の内は、まったくもって解像度が低くてもかまわない。特に、「体制」「資金」「経営計画書」などは、前の要素が変動すれば変わってしまうことなので、本当に粗くてかまわない。それよりも、とにかく一気に書き上げてほしい。最初は10分程度で一通り考えるだけでもかまわない。こだわるのは、一筆書きで一気に書き上げることだ。そして、12個のうちのどれかの解像度が上がるたびに、改めて一筆書きをしてほしい。そうすることで、どんどん景色は変わり、ビジネスモデルは研ぎ澄まされたものとなっていく。

ビジネスモデルの12個の手順
1. 満たされていない顧客のニーズを探る
2. 1. のニーズを満たす商品やサービスを考える
3. 1. がどうしてこれまで満たされないままで放置されていたのかを考える
4. 2. がどうしてこれまで提供されてこなかったのかを考える
5. 商品やサービスを顧客にとって便利な方法で届ける
6. 商品やサービスをより良くするためのフィードバックをもらい改善する
7. 新たな顧客のニーズを探る
8. そのニーズを満たす商品やサービスを考える
9. 他社との競争に備える
10. これらを実現するための最適な体制を考える
11. これらを実現するための必要な資金を考える
12. これら一連を経営計画としてまとめる

新規事業に「論理的で正しい経営計画」はいらない、まず顧客にぶつけよ https://gendai.media/articles/-/82792?page=7

よくある失敗パターン

大企業等での新規事業検討でよくあるのが、「こういう顧客ニーズがある、社会課題がある、それを解決しよう、では誰かそれを考えてください」で終わってしまうケース。良くても「こういう商品を作りましょう、では誰かそれを考えてください」までだったりというのが、良くある失敗というか、物事が進まないパターンだと動画の中でいわれていました。

これは自分自身も同じことをしたことがあります。結局詳細描いて、自分でやってかないと進まないんですよね。

また以前の職場で別部署にいた大企業の経営企画系出身者が「顧客ニーズがこうで、こういう商品を投下しよう、市場規模はこのぐらいだから売上はこのぐらいはいくだろう」という絵は描くものの、実現プロセスがチープすぎて盛大にこけるという事例を、別々の人で、複数件目撃したりもしました。(このパターンは本当にびっくりするぐらい多いです)

また逆のパターンもあります。実行が強い人が新規事業をやろうとすると、ソリューションファーストで、サービスやプロダクトを思いつてしまって、仲間内でメチャ盛り上がってプロダクトを作るのだけど、リリースしたら市場にニーズは全くなかった、というのもありがちです。

市場規模や構造的な課題といった抽象レイヤーでの思考と、どう具体的に実現するかという具体レイヤーを行ったり来たりしながら事業構想は練っていかないと片手落ちになりがちです。なので、粗くてもいいから全部を一気に考えて、想定顧客や業界関係者にぶつけながら解像度を上げて方向修正する「一筆書きの高速回転」は、とても理にかなっているなと思います。

具体事例で考えてみよう

せっかくなので、もう少し具体的な事例ベースでこのやり方を考えてみましょう。
(ここからは、エビデンスがあるものもありますが、筆者の仮説も多分に交じっているので、一つの考察として読んでください。)

新規事業やスタートアップはもちろんのこと、事業戦略立案や施策検討のスタート時は、自分たちがどういった課題を解決するのかを決めることが最も重要です。自分たちのやろうとしてることは何なのか?何の課題を解決しようとしているのか?が決まらなければ何も進みません。

例えば弊社paizaが取り組んでるITエンジニア領域でいうと、2030年にはIT人材が79万人不足するという課題があります。またこの課題は人口減少フェーズにある日本において、ITによって生産性をあげることは極めて大きな課題です。paizaはこの課題を解決したいと思っています。

ここで良くある失敗パターンが

「ではエンジニアを増やすサービスをやろう、スクールとか。市場規模はこのぐらいなので、市場占有率〇%ぐらいはいけるだろう、とすると売上○○億円ぐらい。いいじゃんやろうよ!」

という感じで満足してしまい、一向に進まなかったり、この状態で大規模に投資してスタートしてしまうパターン。市場規模等の調査等にしっかり時間かけて検討はするが、誰が顧客なのか、どういう課題があるのか、なぜその課題が今まで解決されないのかなど、色々見えてないまま走り出してしまうと、あとから色々分かって失敗しがちです。

なぜIT人材は79万人も不足するのか?

前述の失敗をしないように、もう一歩課題を深めてみましょう。

なぜIT人材が79万人も不足するのでしょうか? 
これは一体誰の課題で何を解決しらいいのでしょうか?
国の問題なのか企業の問題なのか個人の問題なのか、結構領域が広く、複雑性の高い問題です。

まず大前提として、日本は人口が減少してるので、ほっとくとIT人材も減りそうです。とはいえITは成長産業なので目指す人は多少増えそうです。調べてみるとわかりますが、IT人材は毎年多少ではありますが増えています。

ではなぜ目指す人がもっと増えないのでしょう? 給与が安いから? IT人材の待遇はこの10年でかなり向上しています(直近3年でも企業の求人票における提示年収が平均33.8万円上昇しています※1)。求人倍率も10倍を超え、全職種のなかで最も人手不足で売り手市場です。
※1「プログラミング言語に関する調査(2023年版)」の結果を発表。平均年収が高い言語、転職で企業ニーズが高い言語など https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000152.000012063.html

となると教育体制を増強しつつ、目指す人を増やすしかなさそうです。とはいえ教育体制を作っても目指す人が増えなければ商売にはなりません

さらに調べていくとわかるのですが、IT人材の中でも、その中心となるITエンジニアに限ると、男女比は8:2だったりします。女性ITエンジニアが圧倒的に少ないのです。しかし、仮に男性のITエンジニアの絶対数がおなじまま、男女比率が5:5になれば、かなりIT人材不足の課題が解決しそうです。

現在IT人材は約120万人といわれているので、先ほどのITエンジニアの比率を乱暴に適用してみると男性96万人、女性24万人です。女性ITエンジニアが増えて5:5になったとすると、男性96万人、女性96万人で全体で192万人。ざっくりとはIT人材120万人に対して79万人足りないという話なので、120万人+79万人=199万人になればいいので、だいぶいい線まで行きます。

ここまで分析すると「これです!これやりましょう!」となりがちです。

やるのとてもよいことなのですが、どうやって?が重要です。絵に描いた餅のままでは何の価値もありません。実行可能な計画に落とし込めなければ、実現はできません。

実現するための障壁を考えてみよう

では、なぜ女性がITエンジニアを目指す人が少ないのでしょう。ヒアリングしたり調べていくとざっくりと2つほどの障壁がありそうです。

  1. ITエンジニアに女性がすくないから抵抗感がある、イメージがわかない

  2. 高校の文理選択で文系を選ぶとITに触れなくなり、目指さなくなる

1は女性ITエンジニアが増えないと、目指す人も増えないという、鶏と卵的な課題です。
2は解決の余地がありそうです。2を深堀すると、1と似た問題で、身近な先生や両親のどちらかが理系大学出身だと理系を選択しやすいという結果が、内閣府の調査資料にありました。

・母親の学歴が女性の大学進学率に与える影響は、相当強い
・大学収容力、自県大学進学率、同地域ブロック内大学進学率との相関は、女性において、地元で進学できるかどうかが、大学進学に影響を与えている
・一人当たり県民所得も比較的相関係数が高い
※筆者要約

女子生徒等の理工系分野への進路選択に おける地域性についての調査研究 https://www.gender.go.jp/research/kenkyu/pdf/riko_sentaku_research_r03_honpen.pdf

とすると、文系でもプログラミングに楽しく触れる機会を作るというのと、ロールモデルとなる人を見せていく、というのが良さそうです。

ここまで分析すると、またしても「これです!これやりましょう!」となりがちです。

でもこれはビジネスとして成立する形が組めなければ、国単位の大きな課題でもあるため解決が難しいのです。
どうしたら安価or無料でプログラミング教育を提供する仕組み作れるか?
どうしたらロールモデルを学生に見せる形でビジネスとして成立させられるか?

これらを一筆書きで描けなければなりません。

どのようなサービスで、どうビジネスとして成立させるか?

実行の部分は本当にいろいろな方法論や試行錯誤があるので少し端おりますが、教育でのマネタイズは難易度が高く時間もかかりがちなので、ITエンジニアが増えることで受益者となる企業側でのマネタイズを考えた方がよさそうです。

新卒ITエンジニア採用の部分でマネタイズし、その集客として、プログラミング教育の無償化を実現してみたらどうでしょう。なんとなく良さそうなプランです。しかし、そのためには新卒のサービスと学習コンテンツが必要です。これは相当のコストと時間と根性が必要なので大変悩ましい問題です。

ただ幸いなことに、我々が運営しているpaizaにはITエンジニア就職サービス「paiza新卒」https://paiza.jp/student)と、約2,000本の動画と約4,000問の練習問題があるオンラインプログラミング学習サービスの「paizaラーニング」https://paiza.jp/works)があります。

そんなこともあり、実は2019年に、学校であれば完全に無償でpaizaラーニングが使える「paizaラーニング学校フリーパス」https://paiza.jp/works/lp/free_pass)を始めました。
(すでにお気づきの方もいると思いますが、この記事はpaiza代表によるpaizaの宣伝記事です。)

こう書くとすごく簡単で、絵に描いたように見えますが、学習サービスは最初は非常に粗いところからスタートしています。当初は転職サービス+学習サービス、という事業展開を一筆書きの中で描いていました。これは、ITエンジニアに対しての価値貢献で考えるうえで、転職先を見つけるという事と同時に、自分のスキルをあげることも重要だという考え方からです。

ただ色々やっていくうちに、一筆書きを何回も何回も更新した結果、学習サービスは単体でマネタイズしつつ、学校には無償で配り⇒新卒⇒中途につなげていく、という流れになりました。
ちなみに、学習サービス始めてからここにたどり着いて、ある程度事業として成立するまでに実に7年かかりました。アイデアだけでは大した価値はない、というのはこのことです。強い思いと胆力は非常に重要です。

学習サービスも、最初の100動画ぐらいまでは、自ら自宅で画面収録しながらナレーションも収録し、動画編集を自作自演でやっていました。自宅で収録していると、物音が入るとやり直しになります。奥さんには収録中のトイレを禁止をしていたら、しまいにはキレられて自宅で収録できなくなってしまったので、土日のたびに駅前の音楽スタジオを借りて収録をしていました。
今でもごくわずかにその痕跡が学習サービスに残っています。

こういうことをやっていくと、本当にいろいろなことが分かります。(自宅で収録すると奥さんにキレられるとか…。)
それはさておき、実行プロセスの解像度が圧倒的に上がります。この経験をベースに、プロの声優さんに依頼するフローを作ったり、台本を作る流れを作ったり、制作体制を作ったりということを、コケることなく段階的にすすめることが出来ました。

大企業の経営企画系出身とかの人で良くある失敗パターンは、こういった実行フェーズをほぼ経験しておらず、すべてが机上の空論になっており、思った通りに行かなくて、そのリカバリーもできずに時間とコストを莫大に浪費して大ゴケする流れです。専門家を雇おうにも自分でやったことがないので選球眼がなく、ハズレの専門家を引きがちです…。このパターンも何回も目にします。

ロールモデルはどうなった?

女性でITエンジニアを目指す人が増えるためには、ロールモデルを見せてあげることも重要です。そういう機会を作りながら、それをビジネスとして成立させるにはどうしたらいいのでしょうか。これに関しては、正直我々もまだ一筆書きを書いては試しという状況です。

一つのアイデアとしては、企業広報や、採用ブランディングに絡められないか、というのはありそうです。そのあたりは今後のpaizaのチャレンジポイントだと思っています。

そんな中でもサイバーエージェント様と一緒に京都女子大学様で2023年7月に実施した「文理は関係ない! これからの時代に知っておくべき IT業界と女性のキャリア」というイベントは、一筆書きを更新するためにまずはやってみたものでしたが、一つ大きな手ごたえを感じることが出来ました。今後もこういったチャレンジをしていければと思っていますので、一緒にやりたいという企業様、大学様、ITエンジニアの方がいらっしゃったら是非お声がけください!

まとめ

だらだらと書いてしまいましたが、まとめます。

  • 絵にかいた餅は大した価値はなく、実行し成果が出せて初めて価値がある。

  • 実行プロセスやプロダクトが良くても、市場ニーズがなければ価値はない。

  • 計画は粗くてもいいから描き切ることが重要。

  • そしてそれを実行したり、顧客に会いに行ってみたり、業界関係者に聞きにいき、そこで得られた知見をベースに計画をもう一度さっと書き直すことを高速にやり続けるのが重要。

  • やり続けるための「強い思い」と胆力もすごく重要

という事かと思います。

これは新規事業はスタートアップだけでなく、プロダクトの施策をやることも同じだし、何かの計画や戦略を考える際も同じだと思います。特定のアイデア、ソリューションにこだわりすぎるのでなく、試してどんどん変えていくのが重要だし、絵を書いたり課題設定するだけでなく、実行フェーズを描くこと、そしてそれを実行していって修正し続けるのが重要です。

つまり本記事のタイトルに有る「チープな事業計画や、ニーズのないプロダクトができてしまう」理由は、一筆書きでざっと描くことができていない&これらのプロセスを回せてまわせていないからなんだと思います。

というのを高知に行った際の飛行機の中で守屋さんの動画を見ながら思ったのでした。ここまで読んでいただいた方ありがとうございます。

最後にpaizaと採用の宣伝。この記事読んででpaizaの事業に興味持った方、一緒に働いてみたいと思った方がいたら、ぜひお声がけください。日本を一緒に復活させていきましょう。

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私はITエンジニアだという方、プログラミングスキルを測ってみたいとお持った方

昨年以前のアドベントカレンダーで書いた記事


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