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【産学連携と技術移転の話】インバウンド営業とアウトバウンド営業 -その2

はじめに

 以前、下記記事にて技術移転における契約獲得のルートを営業一般の概念であるインバウンド営業・アウトバウンド営業に分けて考察してみました。

 つい先日まさにインバウンド・アウトバウンドという表現をタイトルに含む技術移転に関する論文を見つけまして、この記事はその感想文です。
 読んでみてどういう内容だったかというと、これまで発行されてきた技術移転に係る戦略と障壁について述べている過去論文を分析し、各障壁に対してインバウンド戦略・アウトバウンド戦略はどうあるべきかというのを整理した論文になっています。

Jaime Roberto Pohlmann, Jose Luis Duarte Ribeiro, Inbound and outbound strategies to overcome technology transfer barriers from university to industry: a compendium for technology transfer offices, May 2022Technology Analysis and Strategic Management 36(3):1-13

気になった点をピックアップ

①学内マーケティングの重要性

 「技術移転にフィットしない大学の組織文化」「技術移転機関のコンピテンスに対する学内からの理解獲得不足」という問題に対するインバウンド側の戦略として、学内マーケティングが挙げられていました。学内マーケティングとは、研究者をはじめとした関係者から技術移転活動や技術移転機関自体への興味・関心を得るための作業です。
 技術移転においては商材たる研究成果・発明を研究者から預けてもらわないと始まらないため、これはいわば重要な「仕入れ作業」といえるでしょう。また、実際には仕入れた研究を売れる技術にしていく「加工作業」も重要で、この加工作業のためにはなるべく早期から研究に入り込んでおく必要があります
 では学内マーケティングとは具体的に何をすればいいでしょう。技術移転の活動の全体像やそのために必要な学内手続きの周知等、当然やっておくべきことは勿論として、個人的には技術移転機関のブランディングってとても大事だなと感じています。別に技術移転の成功が必須の達成目標ではない研究者にとって、その活動に参加していくことに利点があり、成果が期待できることを示さなければ協力を得られません。おおよそどの研究者も産学連携の難しさというのは感じているでしょうし、その先の技術上市化となればなおさらで、「お、こいつらに任せれば一味違うかもしれない」と思ってもらわないとその後の十分な連携は望めません。
 ブランディングのために思いつく具体的行動としては、一つ目に過去の成功プロジェクトの広報が出来ると思います。「技術移転紹介イベント」のようなイメージですね。どうやって技術移転に成功したのか、その結果研究者にはどういった恩恵があったのか、それを現場レベルの粒度で(もちろん秘密保持関係もあり中々簡単ではないのだが)話せるのは、技術移転機関ならではだと思います。この成功プロジェクト紹介、色々な業界・技術領域について年一回、半年に一回とコンスタントに新しい話が出来れば、研究者からの期待感も上がっていくと思われます。
 二つ目に、ビジネス上の基礎的部分を当たり前にこなすということです。これ、ごく当たり前ながら、大学の職員って残念ながらこれが全くできていない人が散見される(自戒も込めて)ので、しっかりとこなすだけでいい意味で目立つことが出来ます。具体的には、メールのレスポンスを圧倒的に早くする、日本語をいつも正確・丁寧に使う、書面はいつも細部にこだわって見やすいデザインで作成する、会議後にはかならず議事録を作成してフォローアップする、などなど。マインドセット部分でも、研究者は自分のお客様なのだ、という認識を強く持つことも大事だと思います。また大学事務職員への攻撃のようになってしまいますが、なぜか立場を勘違いしているかのようなふるまいの人も多いんですよね。例えば、研究活動に必要なある手続きをする際に、研究者がお願いをする立場で、事務職員が渋々受けつつ不親切な要求を突きつけ、研究者がそれに平身低頭応えている、みたいな。もちろん大学事務職員が研究者より下の立場とは言いませんが、研究者の研究活動という生産活動があるからこそ自分は仕事がもらえてるんだということは理解すべきだと思っています。

②技術移転人材の業界知見不足

 "market language"に沿った人材が確保できていない、との課題が挙げられていました。下記の記事でも触れていますが、私は技術移転機関の担当者それぞれが得意とする専門業界があった方がいいと思っています。この人は製薬業界のライセンス経験が豊富です!みたいな。技術移転業界には、研究機関や民間企業からの中途人材が多くいますが、その人材が過去に蓄積した業界知識をうまく活用しきれていないんじゃないかと感じています。また、色々な業界の案件に触れることで色々なケースのディールを経験できて知見が広がる、といううのは大賛成ながら、あえて特定の業界に特化して専門領域を作っていくことも大事だと思っています。こうして業界専門人材を各業界に対して作っていければ、技術移転機関としてもより深みのある仕事ができるようになりますし、個人レベルで見ても中途半端に専門性のない人材になってしまうことを避けられてキャリア上も安心なのではないかと。


③産業界が大学の成果活用の進め方について知見不足

 技術移転現場では、大企業と連携するパターンと、中小企業と連携するパターンとで全く進め方が変わります。大企業と連携するパターンでは、企業側も大学との連携に慣れていることが多く、研究開発 →製造 → 販路開拓と一連で機能を有しているため一度転がり始めれば上市化までの見立ては立てやすいです。一方で、ある程度大きな売上規模が見込めない限りは連携がスタートできないため、ことアウトバウンド観点では対象となり得る研究成果はとても限られるのが現状かと思います。
 中小企業との連携は、期待される売上規模が小さくてもスタートできる点で大学との連携は実は相性がいいです。難しいのは、一社では製造機能を有していなかったり、販路開拓機能を有していなかったりと上市までに必要な全機能を有していないことも多く、それぞれの機能を有する複数社を繋げての複数者間プロジェクトにしないといけないケースが多いということです。最近感じるのは、こうやって将来のバリューチェーンを見越して適切なパートナーを探してプロジェクト設立を行うという、中小企業との連携こそ技術移転担当者の、少なくともアウトバウンド営業冥利に尽きるのではないかと。

おわりに

 今回は、とある論文を読んで気になった点をピックアップして感想を書いてみました。インバウンドとアウトバウンドについて現場レベルで目新しいというような粒度の小さい情報は無かったものの、課題感やそれに対する大枠としての対策については網羅的に挙げられていました。技術移転現場にいらっしゃる方にとってはどれも実感のある内容ではないかと思いますので、ご興味の方ぜひ読んでみて下さい。

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