インナーテラスのすすめ<体感編>
ぼくの自邸は、2022年4月に築40年の中古マンションを購入し、リノベーションしたもの。来客からは「今まで見てきた中で一番いい家!」と言っていただくことも少なくありません。
何人もの方にそう言ってもらえる理由の一つには、インナーテラスがあると思っています。
均質的なマンション区画に、豊かな空間をつくるために
今ではこの家の象徴的空間となっているインナーテラス、実は計画当初には頭の中にありませんでした。
均質的なマンション区画の中で、いかに豊かな空間をつくれるかということに腐心していて、回遊性のある(家の中をぐるぐる回れる動線のある)プランや、ロフトのある3次元的な案をこねくり回しては、あーではないこーではない、とやっていました。
本来なら着工している予定の時期になっても、まだ納得のいく解が得られず、設計は難航していました。それが、あるとき、インナーテラスを設けるという着想を得たことで、一挙に収束へ向かったのです。
なぜインナーテラスを設けることが解になったのか?分析すると、2つの大きな理由が挙げられます。
今回は、そのうちの1つ、「インナーテラスの体感的メリット」について書いていきます。
豊かさを決定づける要素とは
元の間取りは4LDK(約70㎡)。小さな洋室が2つと、LDKにくっついた和室が2つ。部屋数は多いものの、壁も多く、ずいぶん窮屈な雰囲気でした。※リノベの詳細は別記事で後日書きます。
一方、リノベ後の間取りは、ほぼひとつながりの空間なので、従来の枠組みでは表現しにくいのですが、無理やり当てはめると「2LDK+S」と言えます。
不動産業界では、こうした数字ばかりが気にされ、部屋数の少ない家は人気の低い物件となります。ですが、空間の豊かさを決定づける要素は、当然ながらそんな数字ではありません。
数字の上ではただの一部屋であるインナーテラス、それが与える影響を見てみましょう。
物理的な奥行 / 心理的な奥行
インナーテラスは、家の中で一番目立って気持ち良さそうな場所に配置していますが、特に役割を与えておらず、絶対に必要な部屋ではありません。
でも、この ”なくてもいい空間” が、家全体に豊かさをもたらしています。豊かさとは、3次元的な奥行き感であったり、心理的な開放感といったことを含みます。
まず、ガラス張りの建具の向こう側に空間が続いていることで、物理的な奥行きを感じます。何一つ置かれていない大空間よりも、一脚のイスが置かれた大空間の方が高さや奥行が際立つことと同様に、ダイニングやリビング空間に深みをもたらしています。
そして「生活に必要な空間はここまでだけど、それとは別にインナーテラスもある」という無意識は、心理的な奥行き(ゆとり)を生み出すのに一役買っています。生活費かつかつと見せかけて、実はへそくり持ってるもんね、みたいな心の余裕をイメージするとよいかもしれません。笑
フレキシブルであること
ぼくはインナーテラスで観葉植物を育てています。室内にたくさんの植物が並んでいるのはとても気持ちがよいものです。
DIYやキャンプのアイテムを整備する空間としても使っていますし、テーブルを持ち込んでアウトドアリビングのように使うこともあります。
洗濯物は基本、乾燥機を使ってますが、大事な衣類はインナーテラスに干して乾かします。
目的を決めず、いろいろな用途にフレキシブルに使える場所があるというのは、先ほどの心理的な奥行の話と近いですが、心にゆとりを与えているはずです。
境界をぼやけさせる縁側的余白空間
上述の内容に加えて、今回設けたインナーテラスは、外部と内部の境界に位置しています。
窓を開け放ってここで食事をとるだけでも、ピクニックをしているような気分を味わえ、屋内空間と屋外空間のいいとこどりをしたような場所になっています。
戸建住宅でいうところの「縁側」に近い空間ですね。建築的には、中間領域と呼ばれたりするものです。
限られた面積にパズルのように機能を詰め込む現代的な考え方では、縁側は排除されがちですが、日本の伝統建築の空間の豊かさは、縁側にこそあると言っても過言ではありません。
機能ばかりを求めていくと、リノベ前のように、せせこましくなってしまいます。おおらかな空間をつくるためには、意識的に余白空間を確保すべきでしょう。
実際、インナーテラスを設ける前の空間は、どれだけ回遊性を取り入れたり、ロフト空間をつくってみても、マンション特有の閉そく感を打破できる感じがしませんでした。
インナーテラスという中間領域が、内外の境界をぼやけさせ、広がりを生み出したのだと思います。
マンションに限らず、戸建住宅でも、オフィス空間でも、インナーテラス(あるいは縁側)的な空間をつくることを強くオススメします◎
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今回の話はここまで。次回は、インナーテラスがもたらすもう一つの利点(オススメの理由2)を解説していきます。