女王蜂「鉄壁」に敬意を表して。|音楽エッセイ|
女王蜂というバンドをご存じだろうか。唯一無二の表現者アヴちゃんがヴォーカルを務める、ロックバンドだ。「女王蜂、好きなんですよね」と言うと、しばしばこんな言葉が返ってくる。
「え? 女王蜂が好きなんですか?」
「はい。好きです。大好きです」
心の中で、ため息をつく。ああ、この人、女王蜂の魅力が分からないなんて。
このエッセイが終わるころに、読んでくださるあなたの気持ちが、少しでも動いてくれたなら、私の任務は完了だ。
2022年に公開された、アニメ映画「犬王」。主演の犬王役を演じたのが、女王蜂を率いるアヴちゃんだ。私は一瞬のうちに、犬王に恋をした。自分ではどうしようもない「穢れ」と共に生まれた犬王が、能楽を極めながら、穢れを祓っていく。幼少期の犬王が、都を縦横無尽に走り跳びまわるシーンに、心を奪われた。アヴちゃんの犬王は、人間を超越していて、自由で、とてつもなく優しくて、強かった。
さて、タイトルにある楽曲「鉄壁」に話を移そう。
YouTubeで公開されている、THE FIRST TAKE。
女王蜂が奏でる「鉄壁」。
まさに、魂の音楽である。
紺色の輝くドレスを纏うアヴちゃんは、静かに目を閉じ、歌の世界に入っていく。その佇まいの美しさに、見惚れる。
残酷な境遇を、茨に塞がれた道を、真正面から、傷つきながら、生き抜いてきたのだろう。順境に恵まれた人間には決して紡ぎ出せない、言葉と声だ。奪われ、壊される日々の中で、「これ以上 あたしが愛したすべてのものに どうか不幸が 訪れませんように」と祈り続ける。その強さに、涙があふれる。
アヴちゃんは叫ぶ。
「何一つ 臆することなどはない」と。
ベース、ドラムが演奏に加わり、曲はドラマチックに展開していく。
泣きじゃくり、崩れ落ち、認めてくれる人も傍になく、たった一人で闘ってきたのだろうか。それでも、自分を愛したいと願い、愛したもののために、アヴちゃんは祈りつづける。
もがき、苦しみ、それでも生き抜いていくことを讃えるように、自らの魂を燃やして歌う。
血が通っている、生きている、本物の音楽。なんて尊いのだろう。素晴らしいのだろう。綺麗な歌、整った歌なら、いくらでも存在する。しかしそれらは私の心の一番奥の部屋までは、届かない。
女王蜂の音楽は、誠実だ。自分の心に絶対に嘘をつかない、自分を決して裏切らない誠実さがある。
生きていることの素晴らしさを、誰にも奪わせてはいけない。たとえ、生きるということそのものが、絶望の中から発生したことだとしても。
この曲「鉄壁」は、この先、私の人生の伴走者として、いつも私の傍で、私を励まし続けてくれるだろう。
もがき苦しむアヴちゃんの瞳は、どこまでも、深く深く、澄んでいる。
さて、このエッセイは少しでも、あなたの心を動かすことができただろうか。
こっちへおいでよ?