青は扉|すーこさまのための小説|企画【あなたのための短編小説、書きます】

こんにちは、樹立夏です。
私設企画【あなたのための短編小説、書きます】season2第一弾、すーこさまからのお題「青」から小説を作りました。

それでは、本編をどうぞ!
***

題:青は扉

 初夏の午後、森に散歩に出かけた。
いつもの小道を抜け、小さな清流を目指す。
鳥たちが、美しい調べで歌いあっているのは、夏の歌だろうか。自然と笑みがこぼれる。

 流れの傍らに、見たことのない絵があった。イーゼルに置かれた、抽象画。青の絵だ。この青は、空の青だろうか。それとも、海の青だろうか。不思議な絵に、吸い込まれるように近づいた。
 
 青は、夜明けの色だ。絵の醸し出す優しい雰囲気に、覚えがあった。

 もしかしたら。そっと手を伸ばし、絵に触れる。すっと、視界が青になる。ああ、やっぱり。青の絵は扉。扉の向こうの世界が、私を招いてくれた。

 私は、波打ち際にいた。雲一つなく晴れた、青い空と、ダイヤモンドをちりばめたような、青い海。海と空の境界は、ずっとずっと先で溶け合っていた。後ろを振り返ると、少し小柄の可愛らしい女性が、にっこりとほほ笑んでいた。
 
 ああ、私はこの人を知っている。

「舞さん、ですよね? 葵さんと、きらりさんの、共通のご友人の」
「はい」
 舞さんは、頷くと、純真そうに、再びにっこりと笑った。
「緊張してます?」
 舞さんの目が、くるくると動く。
「ええ。かなり。スピーチって、したことがなくて。せめて、晴れの日を台無しにしないようにしないと」
「大丈夫ですよ。だって」
 舞さんは、私の目をまっすぐに見つめた。
「今私たちがいるこの世界を創っているのは、すーこさんですから」
「そうですよね! すーこさんの世界に招いて頂いたんだから、大船に乗ったつもりで、どーんと構えないと」
 少し、緊張感は和らいだ。
「あの、舞さん」
「なんでしょう?」
「本番の前に、ここで練習していいですか? 読者代表のスピーチ」
 舞さんの表情が華やいだ。
「わあ! 聞きたいです!」
 私は、呼吸を整えると、用意してきた原稿を広げた。

 葵さん、きらりさん、並びにご両家の皆さま、本日は、誠におめでとうございます。葵さんのお父様、藍さんも、きっとこの場におられ、共にお二人を祝福してくださっていることと思います。
 作者であるすーこさんが創られた、この優しい世界で、お二人の物語に心を震わせた読者の一人として、拙いながらもお祝いの言葉を述べさせていただきます。
 茜さんと藍さんの運命的な出会い。互いに惹かれ合ったお二人が、葵さんのご両親となりました。藍さんとの悲しい別れが訪れても、茜さんと葵さんは、二人三脚で悲しみを乗り越えて、今を生きていらっしゃいます。
 藍さんの面影を残す葵さんは、とにかく優しいお人柄で、たびたび読者である私たちの涙を誘いました。小学校に咲くスミレに欠かさず水をやり続け、茜さんを励まし続けた葵さん。そんな葵さんときらりさんは、小学校で出会います。友達付き合いが苦手だったと仰るきらりさんの心を、葵さんの優しさが、融かしていったのですね。仲良しになった葵さんときらりさんは、読者の私たちの心まで、温かく融かしてくれました。
 そしてついに、お二人は結ばれ、ご結婚されます。ほんとうに、ほんとうにおめでとう。
 ご結婚の知らせが届いたとき、私はまるで親戚のおばちゃんのように、お二人を祝福させていただきました。他の読者の皆様からも、お祝いのメッセージが多数、寄せられましたね。
 皆に愛される、葵さんときらりさん。茜さん、藍さん、光さん。そして、そんな優しい人々を創り出してくださった、作者のすーこさん。いつも、私たち読者の心を温めてくれて、ほんとうに、ありがとう。
 読者代表の私の、今のこの気持ちを、お祝いの言葉とさせていただきます。本日は、ほんとうに、おめでとうございます。

 ふーっと息を吐く。
「どうでしょう?」
 おそるおそる舞さんの方を見る。
「長かったかな? それとも、言葉足らず?」
 舞さんは、きらきらとした目で、いたずらっぽく、意味ありげに微笑んだ。

「え? なになに?」
「じゃじゃーん!」
 
 舞さんの後ろに隠れていたのは、なんと、すーこさんご本人だったのだ!
「えーっ! すーこさん! うっわあ、恥ずかし!」
 すーこさんは、すーこさんが生み出したキャラクターのように、優しく微笑んだ。

「さあ、行きましょう! お式、始まりますよ!」
 すーこさんが指さす先には、それはそれは美しい、白い教会があった。
 青い海と空が、世界が、二人を祝福していた。


 青い絵の中から、現実に戻る。小川のせせらぎが、心地よい。空を見上げると、やはり、青かった。

 青は、平和の色。

 今日も、すーこさんの優しい物語に支えられ、私は足に力を込めて、歩き出す。

<終>

***

 すーこさま、すーこさまのためだけの小説、いかがでしょうか?
「シロクマ文芸部」にてすーこさまがご執筆された、葵君の家族の物語(シリーズ!)にたびたび涙を誘われた者として、すーこさまの世界観を壊さずに、このシリーズに敬意を表したいと思い、この物語を作りました。

 以前、すーこさまへのコメントにて、「読者代表として、葵君ときらりちゃんの結婚式で、お祝いのスピーチがしたい!」とお伝えしたことがあったんです。今回、叶えさせていただきました!

 葵君ときらりちゃんの結婚式のシーンは、一読者の私が書くのは越権行為なので、NG。であれば、葵君ときらりちゃんの共通のご友人、舞ちゃんに登場いただき、スピーチの練習をさせていただこう、と考えました。そして、最後には、すーこさんご本人にもご登場いただきました……!

 ここまで想像して書いたら、むしろ気持ち悪いんじゃないか……と毎度心配になりながらも、いや、このシーンは削れない! と思い、結局書きたいことをすべて盛り込みました。

 お気に召していただけましたら、幸いに存じます。

 引き続き、お題を頂いた小説の執筆を進めてまいります。
 よろしくお願い申し上げます。

 ↓すーこさんがご執筆された、葵君の家族の物語はこちら↓


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