青は扉|すーこさまのための小説|企画【あなたのための短編小説、書きます】
こんにちは、樹立夏です。
私設企画【あなたのための短編小説、書きます】season2第一弾、すーこさまからのお題「青」から小説を作りました。
それでは、本編をどうぞ!
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題:青は扉
初夏の午後、森に散歩に出かけた。
いつもの小道を抜け、小さな清流を目指す。
鳥たちが、美しい調べで歌いあっているのは、夏の歌だろうか。自然と笑みがこぼれる。
流れの傍らに、見たことのない絵があった。イーゼルに置かれた、抽象画。青の絵だ。この青は、空の青だろうか。それとも、海の青だろうか。不思議な絵に、吸い込まれるように近づいた。
青は、夜明けの色だ。絵の醸し出す優しい雰囲気に、覚えがあった。
もしかしたら。そっと手を伸ばし、絵に触れる。すっと、視界が青になる。ああ、やっぱり。青の絵は扉。扉の向こうの世界が、私を招いてくれた。
私は、波打ち際にいた。雲一つなく晴れた、青い空と、ダイヤモンドをちりばめたような、青い海。海と空の境界は、ずっとずっと先で溶け合っていた。後ろを振り返ると、少し小柄の可愛らしい女性が、にっこりとほほ笑んでいた。
ああ、私はこの人を知っている。
「舞さん、ですよね? 葵さんと、きらりさんの、共通のご友人の」
「はい」
舞さんは、頷くと、純真そうに、再びにっこりと笑った。
「緊張してます?」
舞さんの目が、くるくると動く。
「ええ。かなり。スピーチって、したことがなくて。せめて、晴れの日を台無しにしないようにしないと」
「大丈夫ですよ。だって」
舞さんは、私の目をまっすぐに見つめた。
「今私たちがいるこの世界を創っているのは、すーこさんですから」
「そうですよね! すーこさんの世界に招いて頂いたんだから、大船に乗ったつもりで、どーんと構えないと」
少し、緊張感は和らいだ。
「あの、舞さん」
「なんでしょう?」
「本番の前に、ここで練習していいですか? 読者代表のスピーチ」
舞さんの表情が華やいだ。
「わあ! 聞きたいです!」
私は、呼吸を整えると、用意してきた原稿を広げた。
ふーっと息を吐く。
「どうでしょう?」
おそるおそる舞さんの方を見る。
「長かったかな? それとも、言葉足らず?」
舞さんは、きらきらとした目で、いたずらっぽく、意味ありげに微笑んだ。
「え? なになに?」
「じゃじゃーん!」
舞さんの後ろに隠れていたのは、なんと、すーこさんご本人だったのだ!
「えーっ! すーこさん! うっわあ、恥ずかし!」
すーこさんは、すーこさんが生み出したキャラクターのように、優しく微笑んだ。
「さあ、行きましょう! お式、始まりますよ!」
すーこさんが指さす先には、それはそれは美しい、白い教会があった。
青い海と空が、世界が、二人を祝福していた。
青い絵の中から、現実に戻る。小川のせせらぎが、心地よい。空を見上げると、やはり、青かった。
青は、平和の色。
今日も、すーこさんの優しい物語に支えられ、私は足に力を込めて、歩き出す。
<終>
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すーこさま、すーこさまのためだけの小説、いかがでしょうか?
「シロクマ文芸部」にてすーこさまがご執筆された、葵君の家族の物語(シリーズ!)にたびたび涙を誘われた者として、すーこさまの世界観を壊さずに、このシリーズに敬意を表したいと思い、この物語を作りました。
以前、すーこさまへのコメントにて、「読者代表として、葵君ときらりちゃんの結婚式で、お祝いのスピーチがしたい!」とお伝えしたことがあったんです。今回、叶えさせていただきました!
葵君ときらりちゃんの結婚式のシーンは、一読者の私が書くのは越権行為なので、NG。であれば、葵君ときらりちゃんの共通のご友人、舞ちゃんに登場いただき、スピーチの練習をさせていただこう、と考えました。そして、最後には、すーこさんご本人にもご登場いただきました……!
ここまで想像して書いたら、むしろ気持ち悪いんじゃないか……と毎度心配になりながらも、いや、このシーンは削れない! と思い、結局書きたいことをすべて盛り込みました。
お気に召していただけましたら、幸いに存じます。
引き続き、お題を頂いた小説の執筆を進めてまいります。
よろしくお願い申し上げます。
↓すーこさんがご執筆された、葵君の家族の物語はこちら↓