”夜底に彷徨う残響” ── 彼の独白
置いていかないで、と
ずっと心の底で願っていたのです
なにも、もっていないから
おいていかれてしまうから
おいていかないでほしいから
だから、きたないぶぶんをひっしにかくして
かわりにきれいな “はりぼて” をたてて
きれいなものだけ、みせるようにしてた
そう。それで、それだけで
ずっと、うまくいっていたのに
ただそれだけで、よかったのに……
私が、
この汚泥だらけのこの私が、
“はりぼて”ではなく、ほんとうの私を見てほしいと、
願ってしまったばかりに
ほんとうの私は、不快で要らない汚泥そのものだけれど
それでもそんな私を見てほしい、と、
かれらに叫んでしまったばかりに
世界は、くるりと反転してしまった
私という汚泥は、“はりぼて”を失ったとたん
完璧な、真っ白な世界へ無造作に溶け
世界を汚し、濁し、
──殺し、
色とりどりの花畑にヘドロを生み落としてしまった
完璧で美しい真っ白だった世界を、壊してしまった
ほんとうの私が放つ饐えた腐臭が、汚泥の差す愚臭が
白く完璧な世界をとめどなく壊す
どれだけ みぎれいにしたとしても、染みついた腐臭が取れることはなくて
ずっと求められつづけている “完璧な世界”に
どうしたってどうやったって追いつけないと、
何度も、何度も、思い知らされるのです
ならば、この“ほんとうの私”こそが、きえてなくなればいいのでしょう
元はと言えば、叶わない願いを叫んでしまった、
私のせいなのですから
あとにのこるのは、きれいなはりぼてだけ
それは、私と同じ顔をした、ただの物言わぬ人形だけだけれど
それこそがかれらののぞむ “あのこ”、彼らが望む世界のすべて
私は要らない存在
私こそ、やはり要るべきではない存在なのですね?
『ああ、そうさ
お前は世界を汚すだけの要らないモノ
我らのだいじな“あのこ”と、おなじ顔こそしているのに
完璧じゃない 完璧にすらなれない
そんなお前などに価値はない
ああ、本当に、お前はどうしようもなく要らないモノだね……』
耳奥でそう訴え続ける呪詛の声はいつも
私を責め立て、私を噛みちぎり、私を地べたへ無造作に叩きつけます
たしかに私は 要らない存在
自ら課した名の通りの “碌でなし”
世界を濁し 饐えた腐臭をばらまく汚泥の塊
誰からも求められない、要らないモノ──
呪詛の声は、確信せざる強さで笑います
そっちの方が楽だぞと、いつもいつも笑うのです
私は汚泥。
だからこそ、こんどこそ、
── 静かに 消えてみせるから
だから
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