四神京詞華集/NAMIDA(25)
【いつか大事を成す者ども】
○内裏・朝集堂院(夕)
険しい顔で腕を組んだまま朱柱に身を預け四神の翼と語らうは、かの内裏の麒麟児、橘不比等。
不比等「蝦夷穢麻呂だと?」
珍しく動揺を見せる不比等を見て、二翼こと平外道がさも面白げに言った。
外道「だから俺はとっととあいつを討ち果たして石嗣先生の姫を保護しようつったんですよ。それをこいつが」
三翼こと藤原亜毒が言を遮る。
亜毒「否。職務遂行中である。我らは衛士。坂上兵衛督様が手向かい致すなとの命ならば従うは当然である」
外道「そんな弱腰じゃいつまでたっても革命なんざ出来ねえだろ」
亜毒「弱腰とは貴様、不比等様を侮るか」
外道「お前を侮ってんだよ!」
不比等「止めよ!」
二翼と三翼はともに神妙になる。
不比等の動揺は既に収まっている。
不比等「仮に救い出せたとて鬼は鬼。少なくとも心弱き都人にとってはな。ならば奴の下におる方が安全やもしれぬ。女子に無体を致す事もあるまい。しかし穢麻呂、都に戻っていたとは……」
長身痩躯にして容姿端麗な一翼は目を閉じ思考している。
ひとり貧相な小男、四翼の目はぼんやり中空を泳いでる。
不比等「興福寺に行く。百永なら何か掴んでおろう」
外道「かような大事、問うまで語らぬとは。だから藤原は信用できねえ」
亜毒「その言葉の結び、吾輩に言うておるのか」
外道「そう思いたけりゃそうなんだろうなあ!」
一翼「いい加減にせよ。双方醜いぞ」
小競り合いをしながら不比等の後を追う三つの翼を、四つめの翼は声を殺して笑った。
(つづく)