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遊園地で断捨離した話

先日、近所の人がリフォームをするということで、不要になったキャンプ用品を一式もらった。レトロなランタンやまだ使えそうなガスバーナーなど、アウトドア好きな自分としてはすごく嬉しかった。その中に劣化せずに状態のいいまま残っている古いテントとタープもあった。 暖かくなったら一度広げてみようと思っていた。しかし数日家に置いてるとどうしてもかさばる。やむなくテントとタープを断捨離することにした。


時代が少し過去に飛ぶ。あれはおそらく小学校の時だと思う。つまり二十数年前。大阪の天王寺動物園の周辺が今ほど綺麗に整備されていなかった時代。ホームレスの人たちの家が動物園の周りにわんさかとあった。しかもそこからは、ブルーシートやダンボールの隙間からは、電球やテレビなどの電化製品がチラチラと見える。ラジオの音のようなものも聞こえる。路上生活者がなぜ、コンセントが必要そうな電化製品を使いこなせていたのか、今でもよくは分からない。どこかの電線からうまいこと電気が引けるのだろうか。それとも何かしらの方法で発電でもしていたのだろうか。とにかくサバイバル能力が半端ないなこの人たち。と、子供ながらに感心した記憶がある。そんなこともあってか、私は小さい時からダンボールハウスやブルーシートハウスのようなものに何か憧れを持っていた。子供なら誰しも秘密基地のようなものに憧れを抱く時期があるんじゃないだろうか。自分だけの場所。

しかしここ数年いや数十年だろうか天王寺は、てんしばという公園や、 あべのハルカスなんかもできている。随分綺麗な街になった。つまりそれと同時に、あの時住んでいたホームレスの人たちはどこかに追いやられたのである。あの人たちはどこに行ったんだろう。天王寺の動物園の周りを通るといつもそんな感傷的な気持ちになっていた。


そしてまた時は流れて去年の11月頃。


あの日のことはなぜかよく覚えてる、第七藝術劇場という映画館に行った帰りのことだ。「屋根の上に吹く風は」という映画を観た。この映画のことはまた詳しくノートに書きたいなと思っているので今は割愛。その映画を観た帰り、淀川の河川敷を自転車で走っていた。 今に比べると随分暖かかったのを覚えている。急ぐ用事があったので自転車のスピードを上げて。少し汗ばんで。その時に見つけた。 ホームレスの家を。最近久しく見かけなかったあの天王寺動物園の周りにあったような、ブルーシートや段ボールやベニヤ板のようなものでできているホームレスの家を。


そうつまり、テントとタープをホームレスの人にあげようという話である。


テントとタープを自転車のカゴに入れて家を出発した。前輪が重い。二つで軽く5キロくらいは あるんじゃないだろうか。この寒い中、やや汗をかきながら淀川に向けて自転車をこぐ。途中の坂道で自転車を降りて押そうかと思ったが、なんだか負けたような気がしてそのまま立ち漕ぎで。汗をかきながら目的地まで向かった。

いつもそうやってホームレスに何か物をあげてるのか、と思われるとそれは誤解なので一応言っておくが、自分はホームレスと言われる人たちと関わったことがあまりない。あまりないといえば嘘になるけど。BIG ISSUEと言う雑誌をたまに買うくらいで、そういう方達の家を訪ねたことはもちろんない。どんな家の作りになっているのだろうかすごく興味がある。

目的地に着いた。

淀川の河川敷沿いはランニングコースにもなっていてしっかり舗装されている。しかしホームレスの人達の家は舗装されている場所ではなく、より川に近い場所、つまり草が生い茂ったような場所である。その境目にはホームレスの人たちが通りやすいように。そのためだけにベニヤや何か木の板のようなものが橋のようにかかっていた。ウェルカムと言わんばかりに。私を歓迎はしていないだろうが。してくれているような。テーマパークの入り口に入る時のあのドキドキした感じ。USJ の入り口にある地球儀を彷彿とさせるような。そんな感じだった。

そこに入るときドキドキした気持ちとワクワクした気持ちがあった。足を一歩踏み入れる時はまさに遊園地に行く時のような気分だ。

ついに遊園地に入った。

いざ中に足を踏み入れると人影がない。人の気配がない。すいませんと小さな声で呼びかけても何の返事もない。チリンチリンと自転車のベルを鳴らし、「すいませーん」と呼びかけた。それでもやはり反応はない。仕方がないのでさらに奥に進んでいくことにした。そこにはまあせめて一人や二人住んでいるのだろうと勝手な予想をしていたが、そこには村があった。まさに村だった。ざっと見積もって10人か。それは言い過ぎか。でも6人か7人は住んでいるだろう。それぞれの家には個性があった。母屋があって炊事場があったり、洗濯物を干すスペースがあったり。色や作りや、材質も違う。基礎工事のようなものが施されている家もあった。奥の方には焚火をするであろうスペースや、野菜が植わっている畑もあった。昼寝用だろうか、簡易ベッドもあった。どこかの発展途上国の村のような雰囲気が漂っていた。

しばらくしてやっと人影を見つけることができた。さっきすいませんと言いながら通り過ぎた家から足が見えた。おそらく彼は私を警戒して出てこなかったのだろう。通り過ぎた後にわざと後ろ振り向くと彼の足がチラリと見えた。折り返してもう一度すみませんと言った。そうすると彼が出てきた。彼と目が合った。おそらく彼は50代前後だと思われる。繁華街の立ち飲み屋で普通にビールや日本酒を飲んでいてもおかしくないようなこざっぱりとした服を着ていた。「テント持ってきたんですけどいりませんか」と声をかけると「いや、いらんな。俺らコレあるから」と言って自分の立派な木でできた家を指差した。確かにそれもそうだここ数年間何度か台風や大雨などあったがおそらく彼はその家と共に、災害のようなものから生き延びてきたのだろう。過去には川が増水して大変だったこともあったはずだ。

「誰か他に欲しそうな人いないですか」と聞くと、「あっちの方の人やったらほしいんとちゃうか」と彼は向こうを指差して言った。
「ありがとうございます」そう言って別れを告げた。


しかしその「あっちの方」というのが問題だ。

あきらかにその村の雰囲気とは少し違う。

「あっちの方」には結界が張られていた。白いビニールテープがたくさん張り巡らされ、そこに赤いリボンのようなものがたくさん括り付けられていた。「不法投棄禁止」や「ダニやノミがいます」などたくさんの張り紙が書かれていた。怖い。正直怖い。こっちのこざっぱりしたおっちゃんの家とは明らかに雰囲気が違う。しかし私は遊園地に来たのだ。そうかこれはお化け屋敷か。そして意を決して中に入って行った。母屋のようなところに着くまでの通路が変に長い。ビニールテープが長く張り巡らされた道に沿って歩いていかなければならない。タワーオブテラーに乗るまでの道のような。わざわざドキドキ感を向上させるための道のような。おどろおどろしいような。


しかしながらここで引き下がるわけにはいかない。だって遊園地に来たのだから。


そのお化け屋敷に入っていくまでの道でビニールテープにくくられた赤いリボンの次に目に入ったのは、たくさんのグラビアアイドル達の水着姿の写真だ。シングルベッドくらいのサイズの大きさの板に、たくさんのグラビアアイドル達の写真が、どのようにかして貼り付けられて、どのようにかして防水加工されて。それが乱立している。乱立とはつまり10枚やそこらではない。グラビアアイドルだけを数えるとざっと200人はいると思う。

そしてそのグラビアアイドルロードを抜けたその先には、立派な母屋があった。もはや2 LDK で更に物干し場がついているくらいの規模感の家だった。入り口もいくつかあった。

もう正直怖い。好奇心と恐怖を比べるともちろん恐怖が勝っていた。

でもこの重いテントとタープをまた自転車で持って帰るのも大変だし、不法投棄禁止といたるところに手書きで書かれているからには放置して帰るのも何か悪い気がする。

意を決して
「すいませーん、、、」と声をかけた。

すると、ぬるりと老人が出てきた。

「なんや」と言われる。

「あのー、、、テントを持ってきたんですけど。いりませんか、、、」と言う。すると「どんなんや見せてみい」とその老人は言った。大きなテントとタープを見せると、「あー。ほんなら、もらおうか」と彼は言った。 特別嬉しいとか、そういった感じではなく、「いらんのやったらもらっとこか」くらいの感じだった。

そしてテントとタープを彼の家の前に置いた。

「ここに何年ぐらい住んでるんですか」と聞くと「だいたい2年ぐらいやなあ」と彼は言った。2年にしてこの家の規模はおかしいだろ。そう感じた私は「2年でこんなに大きい家を作ったんですか」と聞いた。するとと、「いや2年前までは向こうの新御堂の下に住んでたんや。でも役所の奴らが俺を追い出すゆうてな。ほんならどこに住んだらええんやって言ったら、なんか知らんけどここを紹介されてん」と彼は言った。

なんだかよくわからないけど、役所はホームレスを追い出すだけではなく、次の住む場所まで一応は探してくれるらしい。

それ以上話し込むとなんだか長くなりそうな気がしたので「じゃあ。寒いのでにお体に気をつけて。さよなら」みたいなことを言った。

そうすると彼は

「兄ちゃんもなんか困ったら、おじいちゃんとこきいや。大きい家でもベッドでも何でも作ったるから。大丈夫やからな。」と言った


「ありがとうございます。では。」そう言って別れた。


なんだこの気持ちは。

おそらく自分はホームレスの人を助けようとか。親切をしようとか。親切な自分偉いじゃん。って、そんな浅はかな気持ちでテントとタープを持って行ったのだ。 ただの自己満足のために行ったのだ。もはや、動物園のサルでも見に行くか。というような気持ちすらホームレスの人に対して感じていたかもしれない。


しかしながらそこには温かい言葉をかけてくれる老人がいた。
もしかしたら自分がしんどそうな顔をしていたのかもしれない。
だがどう考えても自分の方が普段はいい暮らしをしている。

でもその老人は僕に言った。「何か困ったことあったらおじいちゃんとこきいや。」と。


その遊園地の出口には、いや入口かもしれないが。左右に石が置かれてあり、その上にはおもちゃのピストルが置いてあった。まるで人を警戒しているかのように。

これが今日あった話。
何のフェイクも入れてない本当の話。
どうしてもこれを記しておきたくて。


おっちゃんに勇気付けられた。勇気づけられたなんて簡単な言葉じゃ片付かない。何て言えばいいんだろう。


「兄ちゃんもなんか困ったら、おじいちゃんとこきいや。大きい家でもベッドでも何でも作ったるから。大丈夫やからな。」

そんなことを言える人間に私もなりたい。



終わり


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