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東京モーターショーに見た、電気自動車時代のカーデザイン

これは designing plus nine Adevent Calender 3日目の記事です。

こんにちは。ritarと申します。

現在20歳で、東京大学の工学部に在籍しています。
生来のクルマ好きでして、隔年で開催されているモーターショーに生まれてから毎回行っています。

それにしても今年の東京モーターショー、すごかったですね。
ここ10年くらい右肩下がりだった来場者数が一気に、前回の77万人から100万人超まで回復しました。
若者のクルマ離れが叫ばれてもう十数年が経つでしょうか。このタイミングで来場者数がここまで増えたのは、やはり昨今の自動車業界への注目を感じます。

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人だらけ

今自動車業界は「100年に一度の大変革期」を迎えている、と耳にタコができるほどよく聞きます。具体的には

・C: Connected - つながるクルマ
・A: Autonomous - 自動運転のクルマ
・S: Shared - シェアするクルマ
・E: Electric - 電気で動くクルマ(EV)

"CASE"の波が来ていると言われています。

中でも電気自動車は、ここ数年の間ずっと、もっともホットなトピックと言ってよいでしょう。
世界全体で見ても、電気自動車のシェアは毎年増えています(https://www.iea.org/publications/reports/globalevoutlook2019/)。

今回のモーターショーでも、もちろんたくさんの電気自動車が展示されました。
そこでこの記事では、

・モーターショーに行ってない/行ったけどよくわからなかった
・CASEという言葉を初めて聞いた/聞いたことあるけどあまり詳しくない
・クルマ業界の今後を知りたい

こんな皆さんのために、電動化でどうクルマが変わるのか、生粋のクルマオタクが紹介します。

とはいえ、ただ電気自動車を紹介する文章は他にいくらでもあるので、この記事ではカーデザインに焦点を当て、未来のクルマの見た目を紐解いていきたいと思います。

モーターショーって何なの

そもそもモーターショーというのは、2年に一度開かれている自動車の祭典です。何が展示されるかというと、

・最近発売されたクルマ
・もうすぐ市販される予定のクルマ
・市販予定はまだないけど、会社の方向性を示すクルマ(コンセプトカー)

つまりざっくり言って、「未来のクルマ」が展示されている場所です。

でも未来度にはずいぶん差があります。
これくらい現実的な市販予定車から…

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ダイハツ ロッキー(このあと市販されました)

こんなにぶっ飛んだコンセプトカーまで!

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レクサス LF-30 Electrified

※ちなみに、あるクルマが市販されそうかどうかを見分けるにはコツがあります。ドアミラーです。これからいくつも未来のクルマが出てきますが、ここに着目して未来度を見極めてみてくださいね!

いろんなメーカーが本当にたくさんのクルマを展示するのですが、とりあえずは身近な、もうすぐ市販されそうなクルマを見てみましょう。

市販が近いクルマの電動化事情

東京オリンピックが決まってからというもの、あらゆる会社があらゆる目標の期限を「2020年」に設定していたのは記憶に新しいでしょう。
自動車業界もご多分にもれず、どのメーカーもどう考えても間に合わない目標をたくさん設定しており、もしそれらがすべて正しければ、もう来年にはとんでもない未来のクルマが街に溢れていることになります。

果たして2020年に走っているクルマはどんなものなんでしょうか?
モーターショーに出ていた電気自動車の中でも特に市販が近そうなのがこちらです。

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ホンダ e Prototype

もうひとつどうぞ。

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日産 アリアコンセプト

うーん。とってもかっこいいけど、どちらも意外と普通のクルマの形をしてますね。2020年の目標を立てた人は、きっと全員死んだのでしょう。ご冥福をお祈りします。

「電動化によってカーデザインは自由度が増す」という話がよくなされます。エンジンとかがなくなるからレイアウトが自由になる、というのがその理由です。

上の2つのクルマたちはどちらも、ゴリゴリの電気自動車です。なのにどうして形が大して変わらないのでしょう?

電動化でカーデザインは自由にならない

エンジンがない電気自動車は、普通に考えて自由な形にできるはずですよね。
試しに、まったく新しい形の電気自動車をイチから設計してみましょう。
今のクルマの断面図はこんな形です。

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あまりに前時代的で、石油の古臭い匂いがプンプンしますね。我々は電気自動車でこれに革命を起こすのです。

四角い箱を用意します。これにいろいろつけて電気自動車にしましょう。

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まず載せるのは、電気自動車で一番重くてデカいバッテリー。重いものは下の方に載せないと走ったとき不安定になります。ということで床下に置きましょう。

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続いてモーター。これはタイヤの間に置くと、歯車などの部品が少なくなってよいです。ということでタイヤ付近。
そしてインバーターなどの電子部品ですが、これらはわりとどこにでも置けます。

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ここまでの条件では、わりといろんなレイアウトが可能で自由度が高そうですね。

しかしここで問題になるのが衝突安全性です。
時速100キロでぶつかったときに、クルマの一番前端スレスレに自分が座っていたらたまったものではありません。粉砕です。
というわけで、クルマの一番前にはある程度、人間の空間以外の「なんらかのスペース」を確保しないといけないのです。

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視界も忘れずに確保しましょう。

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するとこんな感じ。

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…あれ?なんだか馴染み深い見た目になってきましたね。

ここでさらに、生産の問題が出てきます。
現状、電気自動車はガソリン自動車と同じ生産ラインで、同じベルトコンベアに乗って生産されます。そのとき、もろもろの部品をエンジンを取り付ける装置と同じ装置でつけられたほうが楽です。インバーターなどの電子部品は、エンジンと同じ形にまとめてしまいましょう。

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これで我々の電気自動車は完成です。さて、どう変わったかというと…。

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…………………。

まったく同じやんけ!!!!!

しかもタチが悪いことに、床下にバッテリーがあるぶん、絶対にガソリン車より床面が高くなってしまいます。これで室内を同じくらい快適にするには、車高を高くしなければなりません。

というわけで、電気自動車を合理的に作ろうと思うと、ガソリン車と似たような形で、しかも車高が高くても不自然じゃないようにしないといけないのです。自由度ゼロ。

ここで、最近発売された電気自動車をいくつか見てみましょう。

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めちゃくちゃ似てますね。

これがもし、例えば衝突安全を気にしなくていいくらい遅い車だったら、ボンネットはいらないので全然違う形にできるはずです。
つまり、使われ方が大して変わってないので、ガソリンが電気になったところで形も大して変わっていないのです。

上に挙げた2台は、近い将来、今までのクルマと同じような使い方で使われることを想定しています。使われ方が同じだから、形も同じ、というわけです。

電気の時代の「カッコいい」デザインとは

さて、カーデザインには「設計」と「表現」の二軸があります。

ここまでは、市販が近いクルマを見つつ設計寄りの話をしてきましたが、ここからは打って変わって表現サイドです。

表現の話をするには、遠い未来のクルマを見るのが一番です。

遠い未来のクルマたちの何がいいかというと、どうせ市販しないからいいだろうと言って、デザイナーが好き勝手に表現をやっているところです。市販しろ。

近未来のクルマをデザインしようとすると、やはり市販という文字が頭にチラついて、上のような制約まみれのデザインになってしまいます(それも面白いのですが)。
コンセプトカーは動く彫刻なので、「これが『美しさ』の塊だッッッ!!!!」というイメージを思う存分表現できるわけです。

特に「思う存分、表現、したなぁ~」と感じるクルマを紹介します。

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冒頭にもお見せした、レクサス LF-30 Electrifiedです。
Electrifiedという名前の通り電気自動車で、CASE時代にレクサスが進んでいくデザインの方向性を示すコンセプトカーになっています。

見るからに全然市販されなさそうですね。
こちらは前の2つと比べて、より強く「今まで見たことない」という印象を受けるのではないでしょうか。

どこが普通のクルマと違うのでしょうか。注目してほしいのはプロポーション。横から見たときの形です。

比べるために、同じメーカーが去年作った、別のコンセプトカーを見てみましょう。こちらは基本的にはガソリン車です。

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レクサス LF-1 Limitless

2台の違いで注目してほしいのは

・上のクルマのほうが、下よりボンネット(フロントガラスより前の、低くて平たい部分)がかなり短い
・上のほうがはドア周りの造形が複雑で、タイヤに近づくにつれて膨らんでいる。

というところです。

デザイナーが、このほうが電気自動車にふさわしい、と思ったからこういう見た目になっているわけです。どうしてでしょう?

パフォーマンスの表現

レクサスは高級車メーカーです。

高級車というのは、買った人が威張れるように、自分も威張る必要があります。
「オレはこんなにすごいんだぞ、オレを買ったご主人さまはすごいんだ」という主張です。健気ですね。

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アストンマーティン DB11

例えば、これはぼくが一番好きなクルマの一つですが、見ただけで「スポーツカーだ」「速そう」と感じます。
その原因は、ボンネットが長いからです。

速いクルマは、たくさんパワーが出るエンジンを積んでいます。
たくさんパワーが出るエンジンは、大きくて重いです。
大きいエンジンを収めるボンネットも、必然的に大きくなります。
ボンネットの高さを上げると前が見えないし、幅を広げると運転が難しくなり空気抵抗も増えるので、ボンネットを前後に長くするしかありません。

このような理由で、多くのスポーツカーはボンネットが長くなっています(もちろん例外もあります)。
見た人は、「今まで見てきた速いクルマのボンネットは長かった。だから同様にボンネットが長いこいつもきっと速いだろう」と無意識のうちに思うわけです。

何が言いたいかというと、長いボンネットは良いエンジン、すなわち高性能の主張ということです。

この視点でもう一度上の2つのコンセプトカーを見てみると

・LF-1(下)は、ボンネットの中にエンジンが入っているので、良いエンジンであることを強調するようにボンネットが長い。
・LF-30(上)は電気自動車。ボンネットの中にエンジンはないので、それを象徴するようにボンネットが短い。モーターは各車輪に配置されているので、良いモーターであることを強調するように車輪に向けて膨らんでいる。

ということが読み取れます。

つまり、高性能であることを主張するために、ガソリン車とは根本的に違う連想ゲームを踏んでいるのです。
パワートレインが変わったことにより、デザインにおいても各要素が主張するメッセージが変化してきています。

ここまでを踏まえて、今回のLF-30のレクサス公式の説明を読んでみましょう。

インホイールモーターを動力とするEVならではの新しいデザイン表現に挑み、LF-30 Electrified独自のエネルギーフローを視覚的に表現しました。具体的には、ボディ4隅のタイヤから発生したエネルギーが、キャビンに向かい、ドライバーへ流れていくようなイメージを持たせた意匠としました。
https://lexus.jp/models/concept-cars/

LF-30 Electrifiedについてはこの記事がとても詳しいので、興味を持った方はぜひ!

まとめ

各自動車メーカーが、電気自動車にどんな想いを込めているのか、想像していただけたでしょうか。

今回は紹介できませんでしたが、ここにシェアリングや自動化の要素が加わると、またまったく違う見た目のものが出てきます(トヨタ ダイハツ スズキ)。こちらもとても面白いので、また機会があればぜひご紹介したいです。

見た目は、意外と多くのことを語ってくれます。

これからクルマを見るとき、作り手がどんなことを考えていたのか、少しでも感じ取っていただけたら嬉しいです。

次回のモーターショーは再来年。それまでにどんなクルマが登場するのか、今後も目が離せません!

読んでいただきありがとうございました。サポートがたまったら執筆時に飲む用のちょっといいお茶を買おうかなと思います!