#1 くだらない夜
夜が好きだ。
25:00は誰も私を邪魔しない。
誰も文句を言わないし、誰も私を見ていない。
初めて一人暮らしを初めた19歳の夏、その心地よさを知った。
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その頃はよく他人に振り回されていた。
信じては裏切られを繰り返し、傷が癒える間もなくまた次を信じ生傷に生傷を重ねていた。
それを世間はバカと呼ぶが、絵本のおとぎ話の中から抜け出せない私は自分の事を純粋だなんて思い込んでいた。
それが取り柄だとすら思っていた。
囚われのシンデレラも、月9のチープな恋愛ドラマのヒロインも、泣いていたのはいつも夜だった。
それを脳内に刷り込まれていた私が泣くのも、いつも夜だった。
寂しい 報われない 辛い 恋しい 悲しい どうせ私なんて もう頑張れない
そんな呪いの言葉を吐きながら、よく泣いていた
泣きながら街を歩いた
誰も私だとは気づかないだろうから、何も構うことなどなかった
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夜は優しい。
誰を否定することもなく、隠していてくれる。
さわやかな春の朝日のように、笑えと圧力をかけてくることも
夏の真っ白な太陽のように、部屋から出ない私を責めたりしない。
そんな保健室の先生の様な、はたまた母の作るお吸い物の様な、やわらかな夜の優しさに甘えていたが。
だけど、
その優しさは結果私の為にはならなかった。
それは、私が、
夜の頼り方を間違えていたから。
保健室の先生も 母のお吸い物も、卑屈な人間の卑屈な言葉を包み込む為にあるわけでもなく、
自分自身の幸せを他人に委ねきった怠惰な人間を慰めるためにあるわけでもない。
自分の足で歩き続けて疲れた人間が、ひととき弱音を吐く為にあるのだ。
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いつしか深夜に泣かなくなった私は、自分で自分の幸せを創れるようになっていた。
自分の幸せの創り方がわかったから、泣かなくなったのかもしれない。
どっちが先だとしても、私は強くなった。
あの日の夜に置いてきてしまったものも多いけど、私が1人で未来に向かう強さを得たことと比べれば
そんなものは中学校の卒業アルバムと同じくらいどうでもいいものだ。
私は、絵本の中にいる王子様任せのキラキラプリンセスでも、ハッピーエンドの脚本付きのドラマヒロインでもない。
私自身を影で支えるスーパーヒーローだ。
私を幸せにできるのは、私だけだ。
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現実、私の母はお吸い物なんて作らないけど
保健室の先生は厳しかったけど(相談を聞くのは引く程入りづらいカウンセリングルームの講師だった)
どこに優しさがあるか、私は知っている。
だから、強く生きていく。
バス停で20分待ってもバスは来なかったけど、それはダイヤを見間違えた私のせい。
今日はまだマシな方の、くだらない夜。
2020.8.18 ツヅク リタ