利他の事例その3(小学生向け)          心温(あたた)まる利他        あなたがこの時、小学4年生の女子ならどうする。

1.遠足(えんそく)とお弁当(べんとう)

あなたは小学4年生の女子です。同じクラスの陽子(ようこ)ちゃんには、お母(かあ)さんがいません。陽子(ようこ)ちゃんが幼稚園(ようちえん)のときに、交通(こうつう)事故(じこ)で亡(な)くなったからです。現在、陽子(ようこ)ちゃんはお父(とう)さんと二人(ふたり)暮(ぐ)らしをしています。

明日(あす)は、小学4年生の遠足(えんそく)の日です。陽子(ようこ)ちゃんのお父さんは昨日(きのう)から仕事(しごと)で九州(きゅうしゅう)に行っていて、しばらく、そこで泊(と)まることになっています。

遠足(えんそく)のお昼のお弁当(べんとう)は作れないからと、お弁当(べんとう)を買(か)うようにお金はもらっていました。陽子(ようこ)ちゃんは遠足の日の朝、学校(がっこう)に行く途中(とちゅう)のコンビニで、お弁当を買おうと思っていました。

でも、陽子(ようこ)ちゃんは朝寝坊(あさねぼう)をして、お弁当(べんとう)を買う時間がありません。なんとか遅刻(ちこく)はしませんでしたが、そのまま遠足(えんそく)に出発(しゅっぱつ)してしまいました。

お昼(ひる)になったとき、お弁当(べんとう)はありません。みんなが芝生(しばふ)の上に座(すわ)り、お弁当を広げ始めたとき、陽子ちゃんは一人(ひとり)下を向いたままです。そのとき、あなたは陽子ちゃんがお弁当を持(も)ってきていないことを気づきました。

2.こんな時、どうする?

あなたはどのような行動(こうどう)をしますか? 見て見ぬ振(ふ)りをしますか?まわりのみんなはお弁当(べんとう)を広げて楽しそうに食べ始めるのに、陽子(ようこ)ちゃんだけが、みんなと目を合わさないように下を向(む)いている姿(すがた)を見て何も思いませんか?

あなたは陽子ちゃんに、「お弁当はどうしたの?忘(わす)れたの?」とやさしく問いかけます。陽子ちゃんは、「お父さんが仕事で出張(しゅっちょう)していて、朝寝坊(あさねぼう)をして、お弁当を買う時間がなかったの。」と、涙(なみだ)ぐみながら言いました。

あなたはそれを聞いて、「わかった。私にまかせておいて。」と言って、ある行動(こうどう)に出ます。さて、どんな行動(こうどう)に出るのでしょうか?利他(りた)を考えて、次の3つから選んでください。利他(りた)とは、他人へ思いやりを持つことです。

①陽子ちゃんがお弁当を持ってきていない事情(じじょう)を先生に伝え、どうするか先生に考えてもらう。
②自分のお弁当を陽子ちゃんと一緒(いっしょ)に食べる。
③その他の考え

①も②も利他(りた)になります。先生にどうするか任(まか)せても構(かま)いません。先生もお弁当を分(わ)けてくれるでしょう。自分のお弁当を陽子(ようこ)ちゃんと分(わ)けるのは、優(やさ)しい心の表(あらわ)れです。でも、それでは足(た)らなくて、お腹(なか)がすきませんか?

3.感動(かんどう)を呼ぶ行い

③の、その他の考えには、次のような考えもあります。あなたは自分のお弁当のふたを開(あ)けて、そのふたに少しおかずとおにぎりを乗(の)せます。そして立ちあがり、クラスのみんなにこう言います。

「みんなー、ちょっと聞(き)いて。陽子ちゃんは事情(じじょう)があって、お弁当を持ってこられなかったの。少しずつみんなのお弁当を分(わ)けてやってほしいの。お願(ねが)い。」と言って、みんなに向かって頭(あたま)を下(さ)げます。

そうすると、クラスのみんなは、「私のもあげる。」「僕(ぼく)のもあげる。」と、あなたのまわりに来て、お弁当のふたに少しずつ、おかずやおむすびを分(わ)けてくれます。すると、あっという間(ま)にふたは一杯(いっぱい)になりました。

それでもまだ「私のも食べて。」と、クラスのみんなは並(なら)んでいます。あなたは「もう一杯(いっぱい)になったから終了(しゅうりょう)」と言って、「あと、誰(だれ)かお箸(はし)を余分(よぶん)に持っていない?」と尋(たず)ねます。

すると、クラスの一人の子が、「お箸(はし)はないけど、フォークならあるよ。これを使って。」と言ってくれました。あなたは笑顔(えがお)で、「みんなありがとう。」と大きな声で言いました。

それを陽子ちゃんに、「みんなの気持ちだから遠慮(えんりょ)なく食べて。」と言って、それを渡(わた)します。陽子ちゃんは泣(な)いています。これはうれし涙(なみだ)です。みんなの気持ちに感動(かんどう)しているのです。

陽子ちゃんは立ちあがり、涙(なみだ)を流しながら「みんなありがとう。」と言いました。そしたら、一人(ひとり)二人(ふたり)と、陽子ちゃんの周(まわ)りに座(すわ)って、「一緒(いっしょ)に食べよう。」と陽子ちゃんに声をかけています。みんなも陽子ちゃんを取り囲(かこ)んで、座(すわ)り始めました。

すると、一人の男の子が歌(うた)を歌い出しました。「カラスなぜなくの、カラスの勝手(かって)でしょう。」と志村(しむら)ケンさんの真似(まね)をしたので、みんな大笑(おおわら)いです。陽子ちゃんもそれにつられて笑っています。その状況(じょうきょう)を見ていたあなたも、なぜか心が温(あたた)かくなってきました。たぶんみんなも同じように感じています。

あなたの行動はすばらしい「利他(りた)の行い」です。そしてこの状況(じょうきょう)で笑いの渦(うず)をまき起(お)こす歌(うた)を歌った男の子の行動も、すばらしい利他(りた)の行いです。利他の行いをしますと、感動(かんどう)が生(う)まれます。すなわち、感動を呼(よ)び起(お)こす行動が利他(りた)なのです。

このケースでは、陽子ちゃんは感謝(かんしゃ)の気持ちで一杯(いっぱい)になっていますし、そんな陽子ちゃんを見て、あるいは笑いを起こした歌を聞いて、あなたや周(まわ)りのみんなの心が温(あたた)かくなりました。

みんなさわやかな、いい気持ちになっています。一つの行動が多くの人にいい影響(えいきょう)を及(およ)ぼすのです。これが利他(りた)の行いのすばらしいところです。あなたも利他の行いに、チャレンジしてみてください。きっと、感動や喜びに出会えることでしょう。 和合実

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