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海とうらぞのとあの人と。
うらぞのちゃんは海が好き。海というか水も好き。ただ海の音を聴いたり、ザブザブと眺めていたりするだけでも好き。自殺するときは海に限るっしょっ!とか意気込んじゃうぐらい海が好き(これは冗談です、メンヘラジョークです)
そして私の愛している人も海が好き。心の底から海が好きで、もし先に死んだら骨は海にマイテクレ〜なんて言っちゃうぐらい海が好き。私もそれにあははと笑って頷いちゃったくらい海が好き。
ある真冬の日です。うらぞのちゃんは横にいる彼に告げました。「海に行きたい」と。結構突然でビックリしたと思います。特に予定もなく、ただなんとなぁく一日を過ごしていて、彼と私は二人でテレビを見たりしていて。あんまりにものんびりとした時間を過ごしていたから、なんとなぁくポロリと言ってしまったんです。「海に行きたい」 って。
こんな真冬に行くなんておかしいだろうなと言った後にちょっぴり後悔したのですが、彼は「行こう」と即答でした。もしかしたらお互い密かに海から呼ばれる声が聞こえていたのかもしれません。せっかく行くならということで、ちょうど余っていた炊き込みご飯でおむすびを作って、瓶詰めの梅酒を買って、私は海の中にザブザブ入る気満々だったので、タオルやジャケットを持って、そこそこの大荷物で海に行きました。
助手席から見る彼はとてもにこやかで、だんだん窓越しに海が見えてきて、それを察した彼が窓を開けて、2人海風に揺られながら海に行きました。
彼は海を眺めたいそうだったので、私はジャブジャブと海の中に足を入れて、貝殻を探して、波にたまに驚いて、腰ぐらいまでびしょ濡れになって、でも楽しくて彼へたまに貝殻を持っていきました。私が振り向くたんびに彼と目があって、彼はニコニコと楽しそうに私と海を見ていました。
タオルで彼から濡れた部分を拭いてもらっている時、本当に気持ちよかった。彼の感触と、海の感触が一緒になって、本当に幸せだった。多分、彼が海を眺めたがったのもそういうわけなのでしょう。
その後、彼は私の戦利品である貝殻を眺めながら、私はその彼と海を眺めながら梅酒をチビチビと呑み、少し火照ってきた身体を休めるように、また海へ入り込み、貝殻をあさり、彼とおむすびを食べ、また梅酒を呑み、ずっと幸せな時間を過ごしていました。
それが大体3年ぐらい前のことです。
今は彼は私の隣にいないから、一人ぼんやりと過ごすようになりました。
たまにはお外に出ようと思い、電車に乗ったはいいがなんでか乗り間違えてしまい、全然検討もつかない場所に着き、その近くの道看板にあの日の海の名前があったので、フラフラと迷い込んだ私。本当に海があって、今日は海に行こうなんて思ってなかったのになぁなんて思った日。
彼は急にいなくなってしまって。本当に急に急にいなくなってしまって。私が二度と手の届かないところに行ってしまって。まさかこんなにも急に、彼が言っていた『死んだら海に骨をマイテケレ〜』なんていうヘラヘラした冗談が本当になるなんて思っていなくて。
私はただぼんやりと海を眺めることしかできませんでした。
ただあの幸せな彼と私の過ごした海だけがそこにありました。あの海が見せた あの彼の顔や想いを思い出しながら私はただ海を眺めていました。
あんまりにもキレイな思い出ばかり海は見せつけてくるもんだから、私は涙が止まらなくなって、それでも海は流れていきました。
きっと、うらぞのちゃんのなかで上書きされてしまった海の思い出です。