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『脱企業経営者のもやもや日記』12.再手術後、伝える手段を喪失
2月12日(土)2回目の手術成功
土曜日ということもあり、先生は通常の出勤状況ではなかった。麻酔医も手術予定が基本的にはない土曜日は不在のはず。
CTを撮影してから僅かな時間で緊急手術が決まったことだけは確かなので、どれほど多くの方に迷惑をかけしたのか、想像もつかない。呂律が回らなくなり、4時間後には手術が実施された。
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もう一度、頭部を開いて出血が止まらない箇所の止血をして元に戻すという手術。今回は血管をバイパスするといったことはないので、約4時間で手術は終わった。
おそらく日付が変わろうとしていたと思う。手術後の記憶は殆どない。ただ手術中、とても幸福なところにいる夢を見ていて、戻りたくないと思ったことろで起こされた。手術スタッフにそのことを話した記憶だけが残っている。
2月13日(日)激痛の再来
手術後の猛烈な痛みが戻ってきた。1回目のときと同様、約24時間は全くと言っていいほど、痛み止めの効果は無かった。痛み止めは効かないからもういらないと伝えたくても、それはできなかった。
言語機能が完全に失われ、筆談すらできない状態に陥っていた。相手の話すことは理解できるのに、こちらから何らかの表現をしようとしても、どうやれば良いのかが分からない。
こういった経験をするまでは、話せないということは相手の言うことが頭で理解できていないのだと思い込んでいた。しかし、そうではなく頭では理解していて返答したいことも分かっているのに、それを表現するすべが分からない場合もあるのだと思い知った。
今回の言語機能障碍は血液が溜まって起こっているのではなく、血流量の変化に脳が対応できていないだけだから、日数が経てば改善してくると執刀医から聞いた。
2回目の手術の結果は良好で、問題の脳内出血も想定の範囲に収まった。
2月14日(月)初めての便秘の苦痛
つらい術後24時間が経過し、ようやく痛みが通常レベルのものに治まってきた。痛み止めが効くようになり、痛みの波はあるものの、弱まっていくことが実感できた。
そうなると、心配をかけた家族とLineがしたくなるだが、NCUは携帯使用禁止なので、一般病棟への転室が待ち遠しくなった。
通常は手術後2、3日で転室できるのだが、2回の手術を受けた結果、もうすでに5日目に入っていた。あとひとつ小さな問題が継続していた。
それは便秘。1回目の手術後から続いていて、この頃になると本当に苦しくなっていた。強めの下剤を調剤してもらっても全く効果がない。
この頃になると1日の半分ぐらい便座の上で過ごしていた。看護師もトイレから出てこないので、心配して様子を見に来たほどだった。
2月15日(火)身の回りのことが出来始めた
2度目の手術後の経過は良好、看護師には痛みの緩和やトイレへの付き添い、頭の洗い方の指導まで、本当に世話になった。
おかげで、何とか身の回りのことができるまで回復した。
2月16日(水)集中治療室から転室
15時ごろになって、NCUから個室に転室した。これで携帯が使えるようになるのと、1階にあるコンビニに行くことができる。
しかし、そんなに甘くはなかった。術後間もないので、病室フロア以外は外出禁止、言語機能障碍は全く回復していなかったので、Lineを送ることもでき無かった。
家族からきたLineを読むことは出来ても返信が書けない。返信ができないということを伝える術もない。
転室した2月16日のLineを振り返ってみると、家族から数十通きていたLineに、こちらから数時間かけて返信したのが、「6階」←病棟の階数、「<」←意味不明、「ケーキ」、「コーヒー」、「明日、」「午後、3時」という6通だった。
頭では言葉のやりとりを理解しているのに、文字に起こせない。これらの文字も自分で入力したのではなく、たまたま過去に使った文字が辞書機能で出てきたからクリックしただけ。言いたいことを表現できないつらさを痛感した。
2月17日(木)言語機能喪失後UFOに辿り着くまで
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言語機能のリハビリに取り組みだしたものの回復の予兆すらなし。引き続き、家族Lineを振り返りると、こんなやり取りがあった。
おそらく、体が元気になってきて塩気のあるものが食べたくなったのだろう。日清焼きそばUFOを買ってきて欲しいと妻にLineで伝えようとしたようだ。
その時、妻に送ったLineはこうだ。「UFO、」、「SFFEP」←未だに謎、「…」、「×」、「SEA」←シーフードヌードルでもいいやと思ったのだろうか?
こんな感じでLineを送っていた。こんな妻とのやりとりで、ようやく日清焼きそばUFOが食べたいということが伝わったのはLineを送り始めて2時間後だった。
ずっとLineと格闘してこのやり取りだけに集中した結果がこれだけ。意思を伝えることの難しさを思い知った。