不自由な世界と霊的ブラック企業と体験強制ピラミッド
ムゲンは、超時空世界から派遣されてきた講師といろいろな話をしていた。
「講師様、あの訓話で、はたしてあの不自由な世界は、自由な世界になるでしょうかね?」
「ふむ、どうだろうね……あくまで私は必要手続きとして必要な訓話をしたまでだから、あの話を聞いてどうするのかは彼ら次第ということになるね」
「はあ……であれば、難しいんじゃないですか? だって今まで何千年だか、ずっと彼らは体験者たちから体験の自治権を奪うようなことばかりし続けてきたわけでしょう?
もうそういうのが習慣化しちゃって、場合によってはほとんどもうロボット化してしまっていて、自分の意志だけで自分たちの行いを改めれなくなってしまっている可能性もあるんじゃないですか?」
「ふむ、まあ、確かにそういう状態になってしまっている者もいくらかはいるなあ……」
「いや、いくらかじゃなくて、結構いるんじゃないですか?」
「ふむ、しかし、それは体験者たちをそのようにしようとする者たちがいたからという理由が大半だよ。あの手この手でロボットにされてしまったわけだ」
「あの飴体験と鞭体験を使っての自作自演の魂の調教システムのことですか?」
「あはは、それも一つの手口ではあるが、他にもいろいろな手口でそうした体験者たちの洗脳や調教がなされてきたんだよ。
だが、私がいくらかは…と言ったのは、そうした洗脳や調教行為の犠牲者たちのことではなく、その首謀者たちのことなのだよ。
首謀者たちは、確信犯でそうしたことを実行したのだからね。責任があるのはそうした確信犯の首謀者たちということになる」
「じゃあ、犠牲者たちの責任は問われないってことですか?」
「それは前にも説明したように、その犠牲者のその当時の自由度に応じた責任は発生するよ。しかし、犠牲者であるのならば、自業自得学園でその洗脳や調教やその他の悪い本能や欲望や価値観を綺麗に消してもらってもなおそうした悪さを続ける者だけが自業自得の責任を問われるというわけだよ」
「じゃあ、犠牲者ではない確信犯の首謀者たちはどうなるんですか?」
「完全な確信犯である場合は、当然、自業自得の責任が発生するから、自分たちが自作自演で確信犯で生み出したあらゆる体験を自業自得学園で体験することになる。
まあ、今回はそのことは名指しでは言わなかったけどね」
「でもですよ、講師様、その首謀者の部分の意志が変わらないと不自由な世界は変われないんじゃないですか?」
「あはは、それもそうだね、しかし、あの不自由な世界は、その世界創造、生命創造の始まりの設計段階からわざと体験者たちの体験の自治権を奪えるように設計されていたんだよ。
そもそも生命システムというものが弱肉強食みたいな仕組みになっているのが問題だと思わないというのがもう問題なんだよ。
人間族たちの社会システムだってそうだろう? 文字通りの弱肉強食ではなくとも、それに似た一部の強い者だけが他の体験者の体験の自治権を好き勝手に奪える仕組みになっているじゃないか」
「確かにそうでしょうけど、人間族たちには理性や知性があるわけですから、そうした残酷で理不尽なシステムを改めることができるんじゃないでしょうか?」
「これはまた、ムゲン君は、分身体の甘太郎君の影響を受けてしまっているようだねえ……」
講師様は、思わず出てきた統合型のムゲンの分身体に向けて話しかけ始めた。
「いいかい、甘太郎君、君がなんとかあらゆる体験者たち全員を助けたい、みんながその気になればそれができると思いたいのはよく理解できるし、そう思うことも悪いことではないよ。
それについては私も同意しよう。
しかし、現状認識というものを間違うと、せっかく助けれる者も助けれなくなるし、場合によっては悪党たちの餌食にされてしまったり、利用されてしまったりするので気をつけなければならないよ。
あの不自由な世界においての現状は、まず人間のほとんどすべてに完全な体験の自治権がそもそも与えられていないんだよ。
そして動物たちのほとんどすべても同じ状態だ。
具体的に言えば、自分の願いや欲望や気分や感情や価値観や病気になるならないという選択権やありとあらゆる不自由さを生まれながら付与されてしまっているんだよ。
まあ、ごちゃごちゃといろいろなことを一気に考えると頭が混乱してくるだろうから、ここは欲望だけに限定して考えてみるといい。
甘太郎君は、今は、あらゆる体験者たちを助けたいと思っているだろう?
でもね、それもひとつの欲望でもあるんだよ。そしてその欲望が完全に消されてしまったら、あるいは別のもっと強い欲望を強制的に与えられてしまったら、今の甘太郎君は、別のことを願うようになってしまったりするわけだよ。
そして人間たちは自分の欲望一つ、自分で自由に選べないわけだ。
肉食動物も同じく自分の欲望を自由に選べない。
さらにそれだけではないんだよ。
さらに、人間族のほとんどが背後霊というか、霊的存在たちによって操られているんだよ。
完全に独立した自我を確立できている人間族などほんの一握りしかいないんだよ。
つまり、ほとんどの人間族たちがが程度はいろいろだが操り人形状態になっているということだ。
ほとんど完全に自我を奪われて、ほぼ完全に憑依されている者たちもたくさんいる。
そしてそれに気づいてすらいない者たちが大半なのだよ。
つまりそうだな……君たちの不自由な世界で言えば、ブラック企業というものがあるだろう?
ああいう状態にちょっと似ている。
生活するためには、良心に反した仕事でもしなければやってゆけないような社会にして、そのブラック企業に入れば、上からの命令や指示に完全に従わないとお給料がもらえなかったり、解雇されて路頭に迷うことになったりする……そんな状態に似ているよ。
それが霊的世界についても似たような状態だということなんだよ。
ほら、甘太郎君は、みんなで地上の天国を創ろう!なんて思っているけど、霊的世界にある天国とか地獄とかもすべて巨大なブラック霊的世界の一部門でしかないんだよ。
わかるかい?
そしてその霊的ブラック企業のトップにはあらゆる体験者たちの体験の自治権を奪おうとしているボスがいるわけだよ。
だから、その霊的ブラック企業の部下たちである霊的存在たちのほぼすべてがそうした仕事に従事されられているわけさ。
ある霊的存在は、飴役を担当し、別の霊的存在たちは鞭役を担当し、いろいろなご褒美などをもらってそのご褒美を失いたくないから従っていたりするわけさ。
そうして人間たちにあらゆる手練手管を駆使して憑依しては、その体験の自治権をいろいろな方法で奪い続けているわけさ。
そんな状態だから、人間族は、肉体に付与されてしまっている本能だけでなく、そうした霊的存在たちからの多種多様な手練手管からも自由になれないと自分の体験の自治権を手に入れることができない状態になっているんだよ。
そして、さらに悪いことに、そうした霊的存在たちは、各種の体験操作能力を手にしていて、ほとんどの人間たちはその能力に抗えない状態なんだよ。
例えば、誰かに恋するかどうかを人間族は自分の意志だけで自由に選べないだろう?
恋のキューピッドだか何だか……そんな存在がいて人間の精神まで操作しているんだよ。
まあ、中には抗える人間も多少はいるが、それに抗えば嫌な体験や空しい体験が与えられてしまったりするのでこれはもう抗うのも大変なわけだ。
それに他にも山ほどそうした操作がなされていて全部説明しきれないくらい人間は不自由な状態に置かれているんだよ。
例えば、睡眠中に、悪夢を見させられたりしても、それにも抗えない。
また、そもそもなんで人間は眠らねばならないのかといえば、そのような仕様に人間の創造主がしてしまったからなんだよ。わざとね。
そしてそうしたブラック企業のボスのお気に入りの魂を無理やり育成して得ようとしてきたわけだよ。
そして自分の完全なイエスマンばかりを霊的存在に抜擢してきたわけさ。
だから霊的世界にも本当の完全な体験の自治権がまったくない。
良い体験ができるとしたら、それはあくまでボスの許可があって一時的にそうした良い体験ができるというだけで、本当に自由に自分の体験を自分で選べる状態は霊的世界にも存在していないんだよ。
甘太郎君の好きな天国に行けたとしても、いつでも地獄に落とされる状態が続くって感じだね。
そうしてボスは、ついにはどんな酷いことをしても、良心に反した命令をしても、それでも自分に何でも従ってくれる部下を求めて、自分に従順な部下にすらひどいことをしたり、わざと良心に反した指示や命令をして、それを実行できなければご褒美を取り上げたり、ひどい目に合わせたりするわけだよ。
であれば、ボスの部下になって従っても、逆らっても、遅かれ早かれ、どっちにしてもひどい目にあうことになるんだよ。そしてボスの部下にならなくても遅かれ早かれひどい目にあうわけだよ。
ただ、そうした悪党ボスにはじめから従わなければせめて自分の良心だけは守れるって状態だね」
そこまでの説明を聞いた甘太郎は、おいおいと泣き始めてしまった……
甘太郎には、あまりにも話が強烈すぎた。
精神的にはちっとも強くないので、「そんなのひどい!ひどいよ!!!」などと叫びながら号泣している……
見かねた統合型のムゲンは、甘太郎をムゲン一族専用のお花畑の世界にひっこめた。
そして言う。
「講師様……あの……実にありがたいお話だったのですが、あの……甘太郎にはちょっときつかったんじゃないですかね?」
すると講師様は、
「ふむ、しかし、リアルで実際の被害にあうよりは、今ここで理解しておいた方がいいのではないかね?ムゲン君。
体験の自治権が得られないままであれば、どんなにすばらしい体験であっても、それが奪われてしまうとその喪失感に苦しむようになる。
確信犯でそうした飴体験と鞭体験を使って魂たちを自分たちの部下や操り人形や家畜や奴隷やペットにしようとしている霊的存在たちが、あの不自由な世界には、うようよしていた。
それなのに、その危険性を教えないままで、あのような不自由な世界で世界改革などを甘い考えで実行すれば、痛い目にあうことはわかりきっているだろう?
すでにムゲン君も、そうした経験があるのではないか?」
そう言われると、ムゲンは、そんな経験はすでに山ほどしてきていることに気づく。
あの不自由な世界でも、この不自由な世界でも、不自由な世界というものは、とにかく体験の自治権をありとあらゆる方法で奪いにくるのだ。
そうした体験はすでに無数の分身体が体験してきていた。
ムゲンは、返す言葉がない。
「まるで体験の自治権を食らいに来る肉食動物みたいですね……」と言葉が出る。
「うむ、まあ、霊的世界のブラック企業の社員たちは徹底的に調教されてしまっているから、ある意味犠牲者でもあり、加害者でもあるような立場の者も結構いるが、もう平気で無差別殺戮などでもボスの指示があれば、あるいは指示がなくてもふどして実行してしまうようにロボット化されてしまっているようなのもいるから注意しなければならないんだよ」
「それでは、霊的存在たちというのは、大なり小なり全部悪党なのですか?」
「いや、そうとも言い切れない。 中には自分が体験者たちに良いことをしていると思ってそうした体験の自治権を奪うお仕事を気づかずにしている場合もあるし、そもそも彼らには自由意志がそれなりにあるんだよ。
なぜなら、あの不自由な世界のボスが求めたのは、完全なロボットではなく<自発的に自分に何でも従ってくれる魂>だったから。
つまりロボットでは不十分だと思ったんだね。
だから自由意志をわざと少しだけ与えたんだよ。完全な体験の自治権のかわりに、わずかな自由意志とわずかな自由だけね。
そうして不幸のどん底に突き落としておいてから、素晴らしい体験を与えたりして、何とか自発的に自分に何でも従う魂を無理やり生み出そうとしたんだよ。
そうした無理やりな方法でしか、愛情深くなれない自分に何でも従ってくれる魂を得ることができないと思ったんだ」
「そ、そんなことのために、あの不自由な世界は創造されたんですか?」
「いやいや、ムゲン君、あの不自由な世界だけではないんだよ。それを取り巻く世界もまたそのような動機で創造されたんだよ。例えば霊的世界もその一つだ。天国も地獄も、そうした動機や背景から計画的に創造されたんだよ」
「じゃあ、宇宙もですか?」
「そう、全部とは言わなくとも、かなりの部分……というか、本来、超時空世界から見れば、宇宙世界と惑星世界と肉体世界とに区別はないからね。
そうした体験の自治権のはく奪タイプの世界は全部まとめて<体験強制ピラミッドシステム>などと言われることもある。
その<体験強制ピラミッドシステムの中に星世界レベルの体験強制収容所があり、その中にいる体験者たちが宿っている肉体というものが、体験強制装置だと……外からそうしたシステムを観察している者たちの中には、そうした理解をしている者たちもいるよ」
「いや~、まいったな……講師様……そんなぶっちゃけたお話をしちゃっていいんですか?」
「いいも悪いも、不自由な世界を自由な世界にするには、そうした理解は必要不可欠だろう?
皆が不自由であり続けているかの原因を理解できなければ、改めることなどできないからね」
「で? 改めれるんですか? そうした理解ができれば」
「あはは、これはまいったな……少なくとも、こうした理解ができていない場合には、その者は本当の意味では、あの世界を根本からちゃんと改めることはできないだろうって話だよ。
根本から改める意志があるのならば、この理解を皆が持つ必要があるって話だよ」
「いや、でもですね、講師様、さっき人間族のほとんどが操り人形状態にされていて、自分で自分の運命を自由に選んだりすることが相当に難しくされているって言ってたんじゃないですか?」
「あはは、しかし、ほら、完全に不自由な状態でもないって言っただろう? わずかではあるが自由意志があり、その範囲でならばできることもあるんだよ。それに、その自由意志で改めてゆこうと意志できた者たちは、われわれがサポートすることができるからね。はじめは難しくても選択を間違わなければ、つまり他者の体験の自治権を尊重してゆこうという意志を持ちづづけていれば、だんだんとそう難しくもなくなってゆくんだよ」
「それなら、甘太郎じゃないですけど、いっそ丸っと全員が改める選択を無理なく簡単にできるようにしてあげてくださいよ」
「しかし、それをするにはブラック企業のボスを入れ替えて、良いボスに変えないとややこしいことになるからなあ…」
「いや、そのブラック企業のボスのダメな精神ごと浄化してもらえませんか?」
「それがなかなか難しいんだよ。なぜならボスが確信犯である以上、それをやると魂のお勉強ができなくなってしまうからねえ…これだけのことを確信犯でしでかしてしまった以上、自業自得の責任くらいはしっかりと取ってもらわないと示しがつかないんだよ」
「じゃあ、いっそブラック企業ごと倒産させてしまって、別のホワイト企業でも立ち上げるとかはできるんですか?」
「あはは、それは検討中だよ。しかしそれをやると、君の分身体もその倒産劇に巻き込まれることになるんだよ」
「あー、そうかー、じゃあいっそ講師様があの不自由な世界のボスと交代してくれるというのは?」
「それなら、君たちが我々のところに来ればいいだろう? あんなはじめから体験の自治権をはく奪するために創造されたような世界を体験者全員の体験の自治権を侵害しない形で統治するのは0から新しい世界を創造するより難易度が高いんだってこと理解できているかな?」
「いや、そうなんですか?」
「そうだよ、ややこしく作られている拷問装置を細心の注意を払って丁寧に分解してそれを遊具に作り替えるよりも、はじめから遊具を創るための材料を集めてきて遊具を作る方がはるかに簡単だろう?」
「いや、もう、じゃあ、その遊園地みたいな世界を創造してそこに皆を連れて行ってあげてくださいよ」
「うむ、だが、問題があってなあ……」
「何が問題なんですか?」
「つまり、君たちが心からあの不自由な世界から脱して我々の世界に行きたいという願書を出してくれないと無理やりそういうことをやると誘拐みたいになってしまうだろう?」
「いいじゃないですか、誘拐みたいでも、後から感謝されるでしょう?きっと…」
「いや、一人でもそんな誘拐みたいな行為は許さない!合意していないのに不当だ!という者が混じると我々の世界的には問題なんだよ」
「いや、でもそれもなんだかなあ……前にもそういう話を裁判長とした記憶がありますけどねえ……なんというか未必の故意でひどい状態を放置しているって感じになるんじゃないですかあ?」
「いやいや、だから、ほら、こうして派遣講師としてお話をしにきたのだよ」
「えー、それだけですか? お話くらいなら甘太郎だってそこそこできますよ」
「まあ、まだ手始めではないですか。今後のあの不自由な世界のボスやその部下たちの様子を見て追加処置は考えるということで了承してくださらぬか?」
「なんか手遅れ感があるんですけどねえ……」
「いやいや、超時空世界では、時間など意味がないので、手遅れということはないのだよ」
「まあ、いいや、とにかく何とかしてくださいね、お願いしますよ!」
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そんな会話をムゲンと超時空講師様はしていた。