最高法規から超時空世界に発生したビッグバン
まだ幼いムゲンの分身体たちが質問をしてきた。
ムゲンの分身体の中には赤ん坊状態から成長してゆくタイプもいるのだ。
そういう分身体は、自分が分身体であるという自覚すらない。
あどけなく、
「ねえねえ、さいこうほうきって意味わかんない」
などと言ってくる。
「あー、君たちはまだ幼いからよくわからないかもしれないけどね、最高法規っていうのは誰かに迷惑かけずに自由自在にやりたい放題みたいな感じかな」
「えー!やりたいほうだい~? でも、前にすきかってにやったらダメだよとか、おねーちゃんにいわれたよ~」
などと言う。
どうやら全知ちゃんからの指導があったようだ。
そこで統合タイプのムゲンは威厳をもって言う。
「ふむふむ、君たちはラッキーだぞ。 いいかい、君たちは今新世界の設計について学ぶチャンスを得たのだからな」
「しんせかい~? なにそれ~? たべれるの~?」
幼い分身体たちは、新世界の設計図に興味深々だ。
「だめだよ、理解しないまま食べたらおなかを壊すかもしれないぞ」
「え~!りかい~、よくわかんない~」
ムゲンは、どう説明していいのか、ちょっと途方に暮れてしまう。
幼い分身体たちは、まあ、生まれたばかりの赤ん坊みたいなものなのだ。
しばらくいろいろなことを教えてあげないと理想世界の設計図の内容を理解できない。
仕方がないのでムゲンは、基礎教育をすることにした。
とりあえず教育には無人島がいいだろうと思い、何もない無人島に幼い分身体たちを連れて行くことにした。
自主独立の精神を学ぶための超時空無人島ツアーというものがあったのでそれに参加することにしたのだ。
無人島とはいっても、超時空世界での無人島なので本当に何もない。
まったく何もないのだ。
無人島なのだから、島があるのかと思いきや、何もない。無だ。ムムム……
図鑑で見たヤシガニでもいるんじゃないかと期待していた子供たちが、がっかりしてしまっている。
「ねえねえ、なにもないよ~、つまらない~」
などとムゲンに異議申し立てをしはじめた。
超時空城の裁判所に訴えられては困るので、ムゲンは授業をすることにした。
「君たち、では授業をはじめよう……まずはじめに復習だ。
★目指すべき新世界の方向は、
「あらゆる体験者が自らの意志だけで自らの体験のすべてを完全に自由にコントロールできるようにし、自らが選んだ体験を心から楽しみ続けれる状態にしてゆくこと」
この価値観を新世界の最高法規とすること
まあ、今の君たちには意味不明かもしれないけど、君たちにもわかるように体験授業をはじめよう」
幼い分身体たちは、うんうんと頷いている。
「この無人島というか、何もない時空間には、何もないと思うかもしれないけど、君たちは存在しているんだよ」
「え~?意味わかんない~」
「うんうん、でもね、わかんない~とか思っているのは誰なんだい?」
「え~、誰なの?」
「君たちは、わかりたいって思っているんだろう?」
「うん、わかりたい~」
「じゃあ、とにかくわかりたい~と思ってる君たちはここに存在しているってことなんだよ、わかるかな?」
「うん、なんとなく~」
「なんとなくか~……、しょうがないなあ……じゃあ、ほらここにモフモフのウサギさんのぬいぐるみがある、欲しいかい?」
ムゲンは、かわいいウサギさんのモフモフのぬいるぐみを思念を使って出現させてみた。
「あ~、ほしい、ほしい、ちょうだい、それ」
幼い分身体たちは、我先にとモフモフのぬいぐるみを手に入れようとしはじめた。
「ほらほら、いくらでもあるから奪い合いとかしないように」
ムゲンは無数のモフモフぬいぐるみを空想力で出現させる。
子供たちは、キャッキャとぬいぐるみとの遭遇を楽しんでくれている。
「じゃあ、次は地獄の門番のケルベロス君を出現させてみよう……」
すると、たちまちモフモフのウサギのぬいぐるみが、冥府の門番ケルベロスに変化してしまった。
ミニサイズではあるが、子供たちにとっては恐ろしいと感じる仕様にしたので、子供たちはパニックになってケルベロス君から脱兎のごとく逃げ出しはじめた。
中にはエグエグと泣き出し始めた子供も出始めたので、ムゲンはまたウサギさんのモフモフぬいぐるみにもどしてやった。
そして聞く、
「君たちは、どちらのぬいぐるみが好きかな?」
子供たちは、口をそろえて「うさぎさん~!!!」と叫ぶ……
しかし、中に一人だけ「ケルベロスちゃん!」と言う子もいた。
予想外の返答にムゲンは一瞬混乱したがすぐに立ち直る。
「ね、じゃあ聞くけど、君たちは好きな方のぬいぐるみを選びたいだろう?」
「うんうん、えらびたい~」
「そうそう、つまりね、最高法規にある体験を自由に選べるようにするっていう意味は、君たちが好きなのを選べるようにするってことなんだよ」
「あ~、そうか~、それならわかる~」
どうやら子供たちは少しは理解してくれたようだ。
「でね、好きなのを選ぶのが君たち体験者ってことなんだよ」
「たいけんしゃ? なにそれ?」
まだちゃんと理解はできてはいないようだ。
「君たちは、好きなのを選びたいんだろう? で、嫌いなのは選びたくないんだろう?」
「うんうん、えらびたい~」
「そうそう、その好きなのを選びたいって思っているのが体験者なんだよ」
「あ~そうか~」
子供たちは、ようやく理解しはじめたらしい。
「じゃあ、好きなのを選びたいって思っていればみんなたいけんしゃなの?」
「そうそう」
ムゲンはここぞと想像できうるかぎりの多種多様なぬいぐるみを一気にその無の空間に出現させた。
ぬいぐるみの海が出現した……もうぬいぐるみの大海原だ。
超時空世界では、まあ、その下位次元の意識世界もだが、空想できることは何でも現実化できてしまうのだ。
子供たちは、
「うわ~!!! すごい~~~!!!」と大はしゃぎしている。
「ね、選べるのがうさぎさんとケルベロス君だけじゃなくて、こうしてたくさんのぬいぐるみさんたちが自由に選べる方がもっといいだろう?」
「いい、いい、すごい、たのしい~」
ムゲンはしばらく子供たちに無数のぬいぐるみで自由に遊ばせていたが、突然、そのぬいぐるみのすべてを消してしまった。
「あああ~~~!!! ぬいぐるみさんが~!ぬいぐるみさんが~!いなくなっちゃった~!!!」
子供たちは愕然としている。
ひどい!ひどい!とムゲンにその小さな手でグーパンをしてくる子供もいた。
「ほらほら、落ち着いて! これはお勉強なんだから。君たちが好きなぬいぐるみさんを自分で出現させれたらいいだけなんだよ。他の誰かに好きなものを与えてもらっているだけじゃあ、いつか今みたいなことになってしまうから、君たちも自分の好きなものを自由に生み出せるようになるほうがいいだろう?」
子供たちは、ちょっと説明が難しくなったので当惑している。
「ほらほら、じゃあ、まずは自分の好きなぬいぐるみを選んでごらん」
ムゲンは再び無数のぬいぐるみをその空想力で出現させた。
「うわ~!!!」と歓声が上がり、子供たちの顔がパーッと輝く…
みな、自分が好きなぬいぐるみを探しはじめた。
ムゲンは子供たちがそれぞれ自分が好きなぬいぐるみを手にしたのを確認すると、
「じゃあ、今度は、今君たちが手にしている大好きなぬいぐるを君たちの心の中に記憶してごらん」
「きおく? それって、どうすればいいの?」
「あー、じゃあ、その手にしてるぬいぐるみさんをよく観察してみて」
うんうん、と子供たちは、自分が手にしているぬいぐるみのあちこちを観察しはじめた。
「うさぎさんの耳の中は赤いんだ~」
「あ~、ケルベロス君のあそこってこんな感じになってたんだ~」
などと無邪気に自分たちの好きなぬいぐるみを観察し調べている。
頃合いを見てムゲンはいう。
「じゃあ、またぬいぐるみさんを消すからね、パニックにならないようにね」
「え? えー! なんで? なんで消すの~!!!」などと悲鳴があがるが、すでに子供たちの手にあったぬいぐるみたちは消えてしまった。
「あああ~~~~!!!」と子供たちが叫ぶ。
「大丈夫、大丈夫、ここからが本番。さあ、さっき観察したぬいぐるみさんを君たちの想像力で思い出してごらん」
「え~! いきなりそんなことできないよ~! 僕たちまだ子供なんだよ~!」
「いやいや、この練習をやらなきゃいつまでたっても今みたいなことでがっかりしなきゃいけなくなるから、できるようになろう」
子供たちはぐずりながらも、なんとか自分が好きなぬいぐるみを思い出そうとしはじめた。
耳の長さが半分しかないうさぎさんもどきとか、うさぎとケルベロス君が融合したようなのとか、いろいろなのが生まれては消えてゆく……
子供たちの想像力はまだまだ未熟で不安定なのだ。
しかし、そうしたことを繰り返すことで次第に子供たちは自分が好きなぬいぐるみを思い出すことができるようになっていった。
意識だけの世界では、空想できたものはすべて体験できる。
こうして次第に子供たちは、自分の意志だけで自分自身の好きな体験を自ら創造する技も身に着け始めた。
「お目めをもっとぱっちりしようっと……」とかなんとか言って、なんかかわいい感じのケルベロス君なども生まれてきた。
ついにはそのかわいい感じのケロべロス君が話はじめた時は、ムゲンも感心してしまった。
なんだか変わった孫が生まれた気分……
こうしてその無の時空間には、いろいろなぬいぐるみだけでなく、ありとあらゆるものが出現しはじめた。
小さなお家などもあちこちに生まれ、やがて大きなお城なども生まれ、そこにいろいろなドラマが生じ始めた。
体験自由自在のプライベート世界の設計図も提供したので、それぞれが自分の望むもの、望む体験を次第に自由自在に自分の意志だけで生み出しつつも、他の子どもと勢力争いとか領土争いとか好きなものの奪い合いなどをすることもなくなった。
むしろ、互いに生み出した好きなものを見せ合いっこしたりして、それぞれがいいなと思ったイメージを互いに良いとこどりで分かち合って楽しみ始めた。
「あなたのその尻尾かわいいわね」
「いや、君のそのキャラ気に入ったよ」
などと言いながら、それぞれのプライベート世界にそのイメージやキャラを持ち帰っていろいろ好きなようにアレンジして楽しんでいるようだ。
ムゲンは、もうそろそろ独り立ちしても大丈夫かな…という段階になると、彼らに先生役になってもらうことにした。
難関の超時空教員試験を無事パスした子供たちは、今や、立派な先生になった。
こうして次々と「自らの意志だけで自らの体験のすべてを完全に自由にコントロールし楽しめる魂たち」がはじめは鼠算式に、その後は雪だるま式に、ついには雪崩のように、そして爆発的に……超時空世界に増え始めた。
それが本当のビッグバンだと超時空体験図書館には記録されていた。
★「あらゆる体験者が自らの意志だけで自らの体験のすべてを完全に自由にコントロールできるようにし、自らが選んだ体験を心から楽しみ続けれる状態にしてゆくこと」
この最高法規からそうした新世界がはじまったという。