せまりくる自業自得先生たちの群れ……(悪党たちの危機)

その頃、超時空聖体たちは、超時空体の有志のボランティアを多数引き連れながら、悪い本能や欲望や気分や感情や価値観…を植え付けられている魂たちの治療活動をせっせとやっていた。

その全知能力で自業自得学園内に不穏な動きがあることは察知していたが、甘太郎の意識世界改革に必須の魂治療活動に忙しくそちらまでかまう余裕がなかった。

何度もテレパシーによる「学園があまりにも暇すぎるので相談に行きます……」との連絡を受けていたが、まあ猫の手も借りたい忙しさだったので来たいなら来なさい、ただしお仕事を手伝ってもらいますよ……とだけ返事をしていた。

ほどなくして、自業自得学園の先生たちが修学旅行の生徒たちのように集団でやってきた。

自業自得学園の先生たちは、もともとは超時空体だったが、まだ超時空聖体になれない者たちだった。

彼らは超時空聖体たちが自らの犠牲をものともせずにあらゆる体験者にとって良い行為を選択し続けることはまだできず、自業自得の体験を体験者に提供する強制力を発動してしまうタイプだった。

ただし、彼らがその能力をあらゆる体験者に発動してしまうと、すでに悪党だらけになってしまっていた不自由な世界群全体がとんでもない状態になってしまうことがわかっていたので超時空聖体たちが、 彼ら用の教育的世界として自業自得学園世界を創造し提供していたのだ。

自業自得の体験を強制的に他者に与えれる能力は、誰もが良い意志を持っているような世界では良い結果を増幅するが、悪い意志を持っている者だらけの世界では、悪い結果を増幅してしまって魂たちが滅びてしまうのだ。

自分以外は「苦しめばいい」「死ねばいい」「奴隷になればいい」…そんな悪党たちの意志に自業自得をもたらすとそのまま魂たちは苦しんだり、死んだり、奴隷にならねばならなくなるのだ。

他者に自業自得体験を強制的に与える能力は、ある意味、罪を問えない無敵能力に近かったが、魂たちを救う能力としては片手落ちだったのだ。

それは良い意志も悪い意志も、そのまま相手に反射してしまう鏡のような能力だったのだ。

だから相手が超時空聖体たちならば、問題はなかったが、残酷で暴力的な悪党が相手なら悪党たちを自滅させてしまう。

特に「他者を支配する力さえ必要十分にあれば他者にどんな酷いことをしてもいいのだ……」などという価値観を本気で持ってしまっている悪党たちは、その支配する力を使えば使うほど、酷い体験を味わうことになり、そのまま自滅してしまうのだ。

しかし、それでは魂たちの込み入った事情に慈愛慈悲をもって情状酌量し配慮することができないために、ある時点において超時空聖体たちが不自由な世界とは別の自業自得学園世界を創造することになったのだ。

そのために自業自得学園では、自業自得の体験はしても、魂として消滅することがないようにされていた。
それは何度でもやり直しの再チャレンジができるようにと、体験者たちが自分の意志や選択の結果を自ら体験することで、自らその意志や選択を改めてもらうための仕組みだった。

しかし、甘太郎が、いくら自業自得の体験を繰り返しても、悪い意志や選択がどうしても自力で改められない魂たちにとっては、そのシステムは永遠の拷問体験強制システムとなる……と中止させたのだ。

その結果、ありとあらゆる世界のあらゆる刑務所や監獄や牢屋や強制収容所……が超時空聖体たちの手で治療所や楽園に創り変えられていった。

これは、その意識世界改革の真っ最中におけるとある出来事。

そんな事情が背後にあったために、自業自得学園の先生たちは、まずは超時空聖体たちに挨拶にやってきたわけだ。

へたに不自由な世界群の悪党たちに遭遇すると、超時空聖体たちや甘太郎にお仕事を妨害してしまうかもしれない…ということを先生たちは理解していた……

「超時空聖体様! ご連絡していた通り、あまりにも自業自得学園世界が暇になったので皆でお仕事のお手伝いをしに来ました!」

自業自得学園の先生たちの代表が超時空聖体にテレパシーでそのように伝える。

「あらあら、みんな全員で来ちゃったの? これはまあ、ちょっとどうしましょう!」

「だって~学園にいてもすることないんだもの~」

先生の一体が、甘えた声でそんなことを言っている。

自業自得学園の先生たちは、超時空聖体たちに対してはデレデレなのが多い。

「ちょっとお前、人格変わっちゃってるぞ」

「何よ! 良い意志と悪い意志に応じて人格を変えるのは自業自得学園の先生なら当然のことでしょう?」

「みんなの超時空聖体様なんだから、独り占めしようとするなよ」

「何よ! あんたも超時空聖体様を独占したいと心の底では思ってるんじゃない!」

「まあまあ、皆さん、このお仕事が終わったら、ご希望なら分身体となってみんなと遊んであげますから、そんなことで言い合いしないでくださいね」

超時空聖体がそんなことを言うと先生たちは拍手喝采して大喜びだ。

「超時空聖体様、ところで自業自得学園は、ひょっとして閉鎖されるんですか?」

先生の代表が質問しはじめる。

「ん-、そうね、閉鎖というかとりあえず一時休止かな……ただ、どうしても必要になる場合があればいつでも再開できるようにして置く予定なんです」

「なんでまたそんなことになったんですか?」

別の先生が質問する。

「それはねえ、ほらこの甘太郎さんが超時空体験図書館様に認められて、意識世界の大改革をすることになったからなんです」

超時空聖体がそう答える。

先生たちは皆で甘太郎を見る。

「こ、こんにちは……僕が甘太郎です。なんとかあらゆる世界のみんな全員を救いたいので皆さまどうかよろしくお願いいたします」

甘太郎は、はにかみながら先生たちに挨拶をする。

「みんな全員って……悪党たちまで救うつもりなの?」

先生の一体が甘太郎に質問しはじめる。

「はい。悪い本能や欲望や気分や感情や価値観や…を超時空聖体様たちの治療で取り除いてもらって救いたいと思っています」

「あら、それならあたしたちの自業自得体験強制能力を使ってくれればいいのに……」

「いえ、その能力だけでは、自分の意志で自分の願いや欲望や…をどうしても改めれない魂たちを救うことができないですから」

「でもねえ、甘太郎ちゃん、何の罪もない魂に酷いことを確信犯でする魂たちには自業自得体験を味わってもらうという教育的指導が必要なんじゃない?」

生徒中毒の先生の一体が、甘太郎に質問する。

「そ、それはですね……その、まずは本当の自由をそういう魂たちにも提供してあげたいんです」

「本当の自由?」

「はい、他の魂に酷いことをしたくなる本能とか欲望とか気分とか感情とか価値観とか…そうしたものから完全に自由にしてあげたいんです。自業自得のお勉強はその本当の自由を得た後にすべきじゃないかと……」

「あらあら、なるほど、そういうことなんだ……」

先生はその甘太郎の説明で問題点を理解したようだ。

何千億年も自業自得体験を味わい続けていた生徒たちをその先生は思い出していた。

「確かに、ああなるとちょっと残酷かもねえ……」

「で、ですから、できるだけ自業自得体験の強制は、本当の自由を提供されている魂にだけ限定して発動させて欲しいのです」

「わかったわ、そういうことなら協力するわ。私たちにはそうした治療をすることが難しいからあくまで超時空聖体様たちの治療行為の後のお手伝いということにすればいいのよね」

「ご理解してくださり、ありがとうございます」

「でも、もし甘太郎ちゃんや甘太郎ちゃんみたいにみんな全員を救いたいと本気で願っている魂たちが酷いことをされたら自業自得の体験を与えてもいいんでしょう?」

「え? ぼ、僕はどうなってもいいので、みんな全員を救ってほしいのですが……」

「えー? だって甘太郎ちゃんが酷い目にあってしまって最悪殺されちゃったりしたら意識世界改革もできなくなっちゃうじゃない」

「ぼ、僕はですね、ほら超時空体験図書館住まいですから、殺されちゃったりしないと思うんですが……」

「じゃあ、甘太郎ちゃんと同じ志を持っている不自由な世界の魂たちは?」

「そ、それは確かに、守ってあげて欲しいです」

「そうでしょう? 甘太郎ちゃんだけ守ればいいってわけじゃないんでしょう?」

「そ、それはそうですが、一体、何をしようというのでしょう?」

「だから、あたしたちが守護者として守ってあげようって話よ」

「超時空聖体様たちが守ってくれるみたいなんですけど」

「でも見ると、超時空聖体様たちは魂たちの治療に忙しそうじゃない。それに超時空聖体様たちって優しすぎて悪党たちの扱いが苦手なのよね」

「そ、そうなんでしょうか?」

「そうよ、だから悪党たちへの教育をあたしたちに任せてくれてたんだから。そうですよね、超時空聖体様」

そんなことを言われた超時空聖体は、複雑な表情で言う。

「適材適所としてあらゆる体験者のために自業自得学園が必要だと思っての采配でしたが、甘太郎さんの出現で意識世界の統治方法が変わったのですよ」

「へー、そうなんだ、超時空聖体様のこれまでの意識世界の統治方法を変えてしまうなんてすごいわね、甘太郎ちゃん!」

「ぼ、ぼくは別にそんなつもりじゃなかったんですけど、なぜだかそういうことになっちゃいまして……」

甘太郎自身は、なぜ超時空聖体たちがそう判断したのかをあまり深く理解できていないようだ。

「まあ、いいわ、そういうことなら、絶対に甘太郎ちゃんみたいな魂は守らなきゃいけないわよね、じゃないと意識世界改革ができなくなっちゃうもの、超時空聖体様、私たちが甘太郎ちゃんみたいな魂を守るための守護者のお仕事をしてもいいでしょう?」

超時空聖体は、ちょっと考えるそぶりを見せたが、

「甘太郎ちゃんのような魂を守護するお仕事は、本来なら私たちがやるべきお仕事なんですけど、今は意識世界存亡の危機ですので、私たちは治療に大忙しなので、守護者のお仕事をしてもらえるのなら、助かるかもしれませんが……」

などと応じる。

「ほらね、忙しくて自業自得学園が暇すぎて暇地獄になっていると連絡してもちっとも遊びに来てくれないくらいなんだから、そう言うと思ったわ」

超時空聖体は、苦笑して、

「じゃあ、こうしましょう。まずは私の分身体が酷いことをしている魂たちに必要な治療や説得や注意や警告をしますから、それでもどうしても他の魂たちに酷いことをしようとする魂たちだけお任せできますか?」

「それは私たちが自業自得体験強制能力を使ってもいいということでいいのですか?超時空聖体様」

「あくまで教育的な配慮をもって、罪もないのに酷いことをされている魂たちを守るため…という目的限定でなら……許可します」

「そーよね、何でも許されるとなってしまったら、やりたい放題やるのが出てきちゃうものね」

「くれぐれも、教育的な目的限定でお願いしますよ。それでもどうしてもダメな場合には、そうした者たち用の特別世界を創造してそこに送ります」

「特別世界! 超時空聖体様、それはどんな世界なんですか?」

「そ、それは………いろいろなケースがあると思いますから、これから、個々別々の魂に応じて最適な世界をじっくり考えます」

「わ~、超時空聖体様があたしたちからの質問に即答できないなんてめずらしい~」

そんな対話などがあり、自業自得学園の先生たちは、その超時空体の特殊能力を使って不当に攻撃されてしまっている魂たちの守護者となった。

自業自得学園の先生たちは、その結果、ありとあらゆる魂たちの守護霊となった。

悪いことをする魂たちには自業自得の体験を教育的に与え、良いことをする魂たちには良い果報を与えるお仕事だ。

その結果、今までは悪党行為に対する自業自得体験は自業自得学園送りになってからまとめて体験する仕組みだったのが、現場でリアルタイムで自業自得体験を与えられるようになった。

その方が間違った選択にすぐに気づけるようになるので、悪党たちにとっても良いことだろうと判断されたのだ。

それに対して甘太郎が、何とか治療を優先してくださいと強く主張したが、何とかしようとしても何ともならない…つまりは治療がどうしてもできない悪党たちについては、その悪党行為を止めさせるための強制力の行使は、その治療ができるようになるまでは認めるしかないと超時空聖体たちは判断した。

それは不自由な状態に「されて」しまっている動物族たちや人間族たちならその呪縛を解くことでほぼ治療が可能だったが、その動物族や人間族たちの創造者や憑依霊や支配者の一部は、あまりにも長く長く悪党行為をし続けてきたために、またその他者に対する支配能力をありとあらゆる方法を駆使して徹底的に高め続けてきたために、いかに超時空聖体たちでもその治療が困難な存在が不自由な世界群には一部存在していたからだ。

こうして……わざと、あるいは未必の故意で不自由な世界に魂を投げ込むタイプのスパルタ式の魂のお勉強の時代は終わったが、罪のない魂を守護するための自業自得体験の強制能力はそれなりに必要だということになった。

こうして不自由な世界の悪党たちは、自業自得学園が一時休止となった代わりに、倫理的に罪のない魂たちに対して悪党行為を選択するとリアルタイムで自業自得の体験が発生するようになった。

こうして暇になった自業自得学園の先生たちの群れが不自由な世界群に来訪したことによって治療不可能状態の悪党たちの危機が訪れた。

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