過労死 労働時間の把握と安全配慮義務
労災認定基準
厚生労働省は「脳・心臓疾患の労災認定基準」を作成しています。
認定基準によれば、発症前一か月間に概ね100時間以上または
発症前二か月間ないし六か月間にわたって一か月あたり概ね80時間以上の
残業が認められる場合には、業務と疾病発症の関連性が強い、
つまり労災と認められる可能性が高い旨を規定しています。
尚、ここで言う残業は一週間に40時間を超える労働を指します。
皆様は、この基準を見て、どう思われましたか?
バブル入社の私は、損害保険会社に勤務していた時は、
明らかに労災認定基準の残業をしていました。
これぐらいの残業時間は普通にあるのではないかと思うのは私だけでしょうか?
労働時間の管理
私が代理店の経営者をしていた時の悩みが労働時間の把握です。
内務の事務担当はタイムカードで管理すれば良いのですが、
営業担当は事務所の外で活動しているのでタイムカードで管理できません。また、仕事柄、土日も関係なく契約者から事故の連絡もくるので、かなりの時間残業していたと思われます。私は、労災の認定基準を知っていましたから、営業担当が脳・心臓疾患で倒れないように祈る毎日でした。
経営者は、従業員の労働時間を知る義務があります。工場労働や事務仕事は管理しやすいですが、営業担当とかは実際の労働時間を把握するには工夫が必要です。「営業担当だから労働時間が把握できない」は理由になりません。
そして、経営者は従業員が心身ともに安全に働く環境を作る安全配慮義務があります。労働時間の制約も安全配慮義務の一つです。
厚生労働省の認定基準を超えて従業員が脳・心臓疾患で亡くなった場合は、
労災認定されるだけでなく、従業員の家族から会社・経営者様は
安全配慮義務違反で損害賠償請求をされる可能性が極めて高いです。
〇〇法律事務所が狙っている
労災で払われる保険金は最低補償部分なので、慰謝料と遺失利益が足りません。〇〇法律事務所は、過労死が労災認定されればテクニカルアウトで
会社・役員から賠償金が取れるので、過労死が労災認定された家族に
「高額の賠償金が取れます。弁護士報酬は成功報酬で構いません。」
と言う営業電話をかけます。
成功報酬ならと家族が承諾して訴状が会社・役員に届きます。
実際に過労死案件ではありませんが、労災での死亡事故を起こした知り合いの損害保険募集人の会社に傷害保険で数千万円お支払いして、示談も終わっているのに、訴状が届きました。
後からわかった事ですが、地方紙に労災死亡記事が載り、
それを見た〇〇法律事務所が家族に営業電話をかけてきたそうです。
会社・経営者は安全配慮義務違反で賠償金を支払わなければなりません。
その金額は1億円を超える可能性もあります。
賠償金の金額の算定方法については私のnote『損害保険の命の値段』をご参考にして下さい。
使用者賠償責任保険
そのような事態から会社を守る損害保険が使用者賠償責任保険です。
この保険は、安全配慮義務違反で訴えられた会社・経営者に訴訟費用・賠償金を保険金として支払います。この保険は上乗せ労災(業務災害補償保険)の特約として付保することが一般的ですが単独で加入することも可能です。
この保険の保険金額ですが、支払限度額を1億円で設定している会社・経営者が多いのですが、昨今の賠償金額の上昇等を考えれば、3億円から5億円
設定することをお勧めします。保険料は3倍5倍にはなりません。
既に使用者賠償責任保険に加入の会社・経営者様は保険金額の確認・見直しを、未だに加入していない会社・経営者は加入のご検討をお勧めします。