損保職人の私が生命保険販売が苦手だった理由
1996年橋本内閣で金融ビックバンが行われて、金融の自由化が進展しました。その時、私が所属していた損害保険会社も子会社で生命保険会社を設立。その後は、月に2回の生命保険と損害保険の営業成績の締切りをする悪夢のような日々が続きました。
損害保険と生命保険、同じ保険と付くので損害保険代理店網でも売れると経営者は考えたのでしょう。しかし、損害保険と生命保険は同じ保険とは付きますが、全くの別物です。
損害保険と生命保険の、どちらが専門性が高く難しい仕事か?
これは、歴史が証明しています。損害保険会社が作った子会社の生命保険会社は今も存続していますが、生命保険会社が作った損害保険会社は、今は、ありません。全て撤退したか身売りしたのです。
この違いは、なんなんでしょう。
損害保険と生命保険の最大の違いは、損害保険の場合は、事故発生時に相手方がいる賠償責任保険があり、保険金の支払いが約束した金額、死亡なら幾ら、入院なら幾らと確定している生命保険と違い過失割合等も決めなくてはならず複雑になり、さらに、賠償責任保険の場合の賠償額は時価となり、事故の相手方が満足のいく結果が得られない可能性が高いのです。詳しくは私のnote「必ず揉める企業賠償事故 その理由と対策」をご参考にして下さい。
https://notenote.com/risk_m/n/n06dfcc2a4069
次に、販売時点で、損害保険は「ニーズが顕在化」していて、生命保険は「ニーズが顕在化していない」ので「ニーズ喚起が必要」な点です。
例えば、自動車を購入すれば、任意の自動車保険を契約するのは当たり前ですよね。自分で賠償しきれない事故を起こす可能性がゼロでないことを知っているので自動車購入者は自動車保険に加入します。
家を買えば、火事や水災、盗難被害があると困るので火災保険を契約します。
損害保険は、何故、加入しないといけないかの説明をする必要が無い「ニーズが顕在化」しているのです。
一方、生命保険は、お子様がいる世帯で、収入の担い手に生命保険を掛けるのにニーズ喚起はいりませんが、法人向けの生命保険では、何故、法人が役員や従業員に生命保険をかけなくてはいけないのかの「ニーズ喚起」が必要になります。保険加入の「ニーズ喚起」のストーリーが私には納得できなくて生命保険の販売が出来ませんでした。
もう一つ、損害保険と生命保険の違いは、保険期間の長さです。損害保険は、ほとんどの契約が1年、長くて5年ですが、生命保険は長いと30年とか、それ以上になります。それだけの長期間を、どの様に契約したら最適であるかの答えを私は持ち合わせていません。なので、自信を持って生命保険を販売することが出来なかったのです。
例えば、先ほどの一家の収入の担い手に掛ける死亡補償ですが、更新型生命保険、長期平準定型保険、低減生命保険、収入保障保険どれが、最適な保険なのでしょうか?必要補償額が時間とともに減るので、低減生命保険や収入保障保険が合理的とされる営業トークが多いですが、これらの保険はインフレに無力です。過去30年間がデフレだったから、この先もデフレだと誰が断言できるのでしょうか?その事が予測可能な人は保険販売はしていません。
私は、まじめに考えれば考える程、最適な生命保険の提案の答えが出ません。このことが、損保職人の私が生命保険販売が苦手だった理由です。