「睡眠は、楽しい。陸上競技と同じように」(青学・原晋監督×高橋尚子 スペシャル対談)
健康の三大要素(食事・運動・睡眠)のうち、睡眠はもっとも自分でコントロールすることが難しいとされています。特にアスリートは、常に大きなプレッシャーにさらされ、満足な睡眠が得られないことも。
そこでライズTOKYOは、睡眠からアスリートを支えるべく「健康睡眠プロジェクト」を立ち上げ、睡眠について考える機会を創出しています。
健康睡眠プロジェクトの名誉監督を務める青山学院大学陸上競技部・原晋監督と、ライズ製品開発アドバイザーの高橋尚子さん。ライズTOKYO株式会社代表取締役社長・宮崎誠司氏を交え、現場レベルで感じた睡眠の重要性や、睡眠の質を高める高反発マットレスについて、お聞きしました。
始まりは「え、マットレス?」
ー宮崎さんは、どのような経緯でお二人と知り合ったのですか?
宮崎誠司(以下、宮崎):尚子さん(高橋)は、実は岐阜県立商業高校の後輩なんです。ちょうど入れ替わりで、僕が卒業した後に尚子さんが入ってきたので、当時は接点がなくて。2014年に初めてお会いして、2016年からライズから開発アドバイザーをやっていただいています。
高橋尚子(以下、高橋):私は元選手という立場で、睡眠の重要性を実感していました。練習、食事、睡眠の三大要素は、どれが欠けてもパフォーマンスが崩れてしまいます。宮崎さんは「寝ている時間も人生なんだ」とおっしゃっていて。より良い寝具を、多くの方たちに安く提供したいという思いに打たれて、ご一緒させていただきました。
宮崎:原さんとは、2019年の5月に初めてお会いしました。箱根駅伝で5連覇を逃して、まだ新チームのコンディションが上がっていない時だったと思います。私たちのマットレスを導入している合宿所に、原さんが来られると聞いて、ぜひお会いしたいなと。最初はオーラがすごくて近づきづらかったですが、話してみると優しい方でした(笑)。
合宿所のマットレスは、せんべい布団のようなものが多くて。アスリートはハードなトレーニングをするので、疲労回復のためには睡眠が重要です。原さんにはマットレスの重要性や、ライズのマットレスの良さをお話ししました。その中で「じゃあ一回使ってみよう」と言っていただいて、青学の町田寮に導入することになりました。
高橋:原さんは、宮崎さんと初めてお会いした時の印象はいかがでしたか?
原晋(以下、原):箱根駅伝を「絶対優勝」と言われた中で敗れて、その後に新チームが始動して4カ月が経った時でした。まだチームがバラバラの状態で、4年生もピリッとしなくて、イライラしていたんです。そんな時に初めてお会いして、最初は「え〜、マットレス〜?」と(笑)。でも、合宿所の監督部屋で寝ていた時に、いつもより違う感覚があったんです。妙に寝つきが良くて、これは部内で試してみたいと思いました。マットレスにこだわりを持ち始めた瞬間でしたね。
青山学院大学陸上競技部・原晋監督
宮崎:監督部屋には一番良いマットレスを置いていました。他の部屋にもスリープオアシスを用意して、選手が部屋でストレッチをしていた時に「マットレスのおじさんです!」と挨拶に行きました。「昨日このマットレスで寝て、翌日に体調が良かった人?」と聞いたら、みんなが笑顔で手を上げてくれたんです。合宿所には良いマットレスが必要なのだと、改めて感じました。
高橋:恩師の故・小出義雄監督も、寮の備品を選ぶ時に一番悩んでいたのがマットレスでした。若い時は私も「え、マットレス?」と思いましたが、睡眠は毎日欠かせないことですし、監督は細やかな配慮もしてくれているのだと徐々に気づきました。原さんの話を聞いていると、青学が強い理由は、監督が選手の走ることだけでなく、生活もサポートされているからだと感じます。
コロナ禍で陸上界に高い成果。規則正しい生活が鍵
ー新型コロナウイルスの影響で、スポーツ界は大きな打撃を受けました。青学の陸上競技部にも影響があったと思いますが、一番変わったことは?
原:当たり前のように行なわれていた試合や練習が、当たり前ではなかったと気づけたことです。
これまでは年間に十数試合も大会があって、「今日は悪くても、次がんばれば良い」と考える選手は多かったと思います。でも、昨年2020年は春先に試合ができなくて、7月にようやく初めての大会を迎えました。私自身はもちろん、選手も一戦一戦の大切さを感じたのではないかと。
「皆さんに支えられている」と、口では簡単に言えます。とはいえ、本当に心の底から感謝ができていたかというと、そうではなかったのかもしれません。コロナ禍では、大会が開催されることへの感謝を強く感じました。
高橋:コロナ禍の日本陸上競技界では、数少ない大会の中でも日本記録が出たり、非常に高い成果が見られますよね。
原:軒並み自己ベストですもんね。男子の長距離で言えば、5,000mで13分台、10,000mで28分台が当たり前になってしまいました。
高橋:過酷な状況をどう捉えるかが、結果に結びつくこともあるんですね。
製品開発アドバイザー・高橋尚子氏
原:「このチーム、ブレーキないじゃん!」と感じるチームが増えました。なぜかというと、コロナ禍で半強制的に規則正しい生活が強いられたから。その結果として、みんなのパフォーマンスが上がっているんです。長距離の選手は基本的に規則正しい生活をしていましたが、それがもっと充実したのだと思います。
「睡眠スポーツ」ではなく「スポーツ睡眠」
ー宮崎さんは、ライズをスポーツ界の方々とともに発信することに、どのような意義を感じているのでしょうか?
宮崎:寝具業界は古い業界なんです。僕らの世代が子供だった時に、百貨店などで寝具売り場に行くことは、ほぼありませんでした。今でも寝具は百貨店や専門店にあることが多く、入りづらさがあります。しかも機能性のある寝具は、少し高いイメージですよね。
ライズを含めた多くの寝具メーカーが、機能性と価格のバランスの良さを実現し始めています。でも、この業界にはまだまだ入りづらさがあります。そこで、スポーツを入り口にしたらどうかと。スポーツと睡眠の関係性は、非常に高いですよね。疲労回復やリカバリーという観点から、今後のコンディショニングの最先端は睡眠になると思います。
「睡眠スポーツ」ではなく「スポーツ睡眠」。睡眠から入ってしまうとハードルがあるので、スポーツから入っていくのが大事です。
原:今の話を聞いて、新しいビジネスモデルを考えました(笑)。マットレスだけでなく、パジャマにも注目したらどうでしょうか。私自身はパジャマをあまり持っていないですし、シャツとパンツでだらしなく寝る方も多いと思います。快適なパジャマと快適なマットレスがあれば、もっと疲労がとれるのではないかと。
宮崎:ビジネスの世界でも、パジャマに鉱石を入れて疲労回復に繋げるという動きはありますよ。
原:睡眠は毎日のことですからね。最近は家事を軽減するために、食器洗い乾燥機が普及してきています。もっと昔でいえば川で洗濯していたのに、自動洗濯機を使うのが当たり前になって(笑)。睡眠も日々の生活の一部なので、もっと重要視されるべきです。
高橋:8時間睡眠だと、1日の3分の1ですからね。
宮崎:人生の中で一番長くしている行動は、睡眠なので。
原:そうですよ。合宿所には、もっと良いマットレスがあると嬉しいです。
睡眠は“楽しい”。寝心地よりも起き心地を
原:日本の陸上競技界では、ようやく私の訴えてきたことが実現し始めています。青学のライバルは駒沢、早稲田、東洋、明治……。それはたしかですが、真のライバルは野球界やサッカー界ではないかと。2015年に箱根駅伝で総合初優勝して以降、言い続けてきました。
陸上競技がもっと魅力があって、楽しいコンテンツにならないと、身体能力の高い子が野球界やサッカー界に流れてしまいます。そうすると、記録が伸びないんです。この考え方の原点には、Qちゃん(高橋)の「陸上競技は楽しいものだ」という発信がベースにあります。私も監督として箱根駅伝を制してから、そのような発信を強めてきました。
最近は、大学駅伝で1年生が区間新記録を出したり、高校生でも5,000mで13分台、10,000mで28分台に到達しています。それは、身体能力の高い子が陸上競技界に入ってきているからではないかと。今までは、小中学校でサッカーをしていた子が、高校でも当たり前のようにサッカーを続けていました。最近は、レギュラーにはなれないけど走るのは好きな子が、陸上競技という楽しい畑を見つけ始めていると思います。
宮崎:私は睡眠も陸上競技と同じように、楽しいものだと考えています。食事・運動・睡眠の3大要素の中で、食事は美味しいと感じられて、運動は成果が出れば嬉しい。睡眠は行動中の意識はないですが、寝る前は楽しいじゃないですか。今日も疲れたけど、暖かい布団に入ってようやく寝れる、と。
でも、起きた時は「もっと寝たい」「寝たのに疲れている」と、ネガティブな感情が湧いてしまいます。私たちはスポーツ睡眠というメソッドを提唱する中で、寝心地よりも起き心地にこだわりたいと考えています。起きた時に爽快だと嬉しくて、つまり睡眠は楽しい。お二人が陸上競技を楽しいものだと発信するように、私も皆さんに睡眠の楽しさを届けて、多くの方を幸せにしたいです。
ライズTOKYO株式会社代表取締役社長・宮崎誠司氏