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ザクロ

昔、おばあちゃんが聞かせてくれた。
「ザクロは、昔、鬼子母神が人間の子どもを食べることができなくなった代わりに食べるようになった。ザクロは人間の味がするんだよ。」

小さい頃、祖母がよく僕に聞かせてくれた鬼子母神の話をいつもこの秋の初めザクロがスーパーに並ぶ頃に思い出す。

「鬼子母神様は、昔は自分の子供を守るために人間の子供を食べてしまっていたんだ。それがお釈迦様の怒りに触れて、自分の子どもを隠されて、食べていた子どもの親の気持ちをしり改心して、子どもを食べる代わりにザクロが人間の血と肉の味に似ているとお釈迦様から渡せて、それで我慢をしていたという話そして、鬼子母神様は、その後は子ども達を守る仏様になったんだとさ」

もっとリアルに最初は怖がらせた話だった気がするが、祖母の家の庭になっていたザクロを食べる時、祖母がその話をしてくれた。
僕は祖母が大好きだった。

3年前、僕が大学2年の頃、家からでて一人暮らしをしていた時に、突然携帯電話が鳴った。
家族から電話が来ることはほとんどなく、たいていの連絡はLINEを通じて文字だけのやりとりだったのが、この日は電話がなるものだから、変な胸騒ぎがしたのを覚えている。

「おばあちゃんが階段から落ちて重症なの…もしかしたら、今夜が山場だって!!」
電話は妹からだった。

急いで準備をしてバイクに跨る。
バイクで高速道路を走って、大体3時間ぐらいでおばあちゃんの病院につくはずだ。
僕は、おばあちゃんの病院に向かった。

夜中2時…
病院についた僕は、救急受付に話をして待合を案内してもらった。
つくやいなや父親が「おばあちゃんが呼んでる。すぐ部屋に行きなさい」
おばあちゃんは生きていた。よかった。
安堵の表情を浮かべたのもつかの間、今度は母が口を開いた。
「もう…なんも施すことはできないの。あとは自然に息を引き取るのを待つだけなんだって。」
『そんな…』
ドアの向こうに居るおばあちゃんに僕はすぐ向かった。

色々な管が体につけられ、頭に包帯を撒いたまるでミイラにでもなったのだろうか?と思うぐらいの人の形をした人形にみえた。
「お、おばあちゃん…」

「匠海。よく来てくれたね。私はもう後少しでおじいちゃんのところにいけるらしい。」
僕は言葉がでなかった。
「最後にお前に謝らなければならないことがあるんだ。」
「なにばあちゃん」

しばらく沈黙があった後、ゆっくりと話し始めた。

「実は、昔お前には妹がいたんだって話したことがあっただろう」
「あぁ、なんかそんな話を聞いて、そのあと母さんに確認したらおまえに妹なんているわけないじゃないか!!と怒られた記憶があるよ。」
「そう、お前の母さんは絶対にその事を口にすることはなかった。」
「なんで?本当にいたの?」
「あぁ…いたさ。でもね。その子は生まれてきちゃいけなかった子だったんだ」
「どうゆうこと?」
「その子は、お前と母親が違うんだよ。お前の父さんと別の女性との間に生まれた子なんだ。ある日、その女性が生んだけど私は育てる事ができないからと、突然、生まれてまだ1ヶ月も経っていない子を私のところに置いていったんだ。
最初は児童相談所に通報して、預かってもらうと思ったんだが、お前たち家族には共通した特徴があるだろう?」
「あぁ」
父さんと俺と妹には右耳の後ろあたりに星型のホクロがある。
「それと同じものが、その子にもあったんだよ。」

それを聞かされた時、一瞬時間が止まった気がした。
かならずホクロは遺伝するわけじゃない。
ただ、このホクロは俺たち家族がつながっている証だと勝手に思っていた。

「まぁ、ホクロは必ず遺伝するわけじゃないから」
そう僕は言ったけど、祖母の表情は曇っていった。
「今思えば、そうかもしれないと思えるんだけど、あの時、私は冷静じゃなかった。どうしても、お前の父さんの事を信じて上げることはできなかったんだ。」

父親は実は婿養子に迎えられていて、祖母と血がつながっているのは母親の方だ。本来であれば、我が子の事を信じるのがと思うが、やはり婿である以上そこまでの信頼はできなかったのだろう。

「で、その女の子はどうしたの?」

僕はその子を見たことがない。一度だけ小さい頃に、祖母から聞いたあの日から暫くの間、気にはなっていたが母親に聞くこともできず、祖母もその後はその子について語ることがなかったので、僕も気にしないようになっていた。結局、どこかの施設にでも預けたのだろうか?そんな事を思いながら聞いてみた。

しばらく黙ったままの祖母。
そして口を開いた。

「私が殺した…」

耳を疑った。

「私が首を絞めてこの手で殺したんだ」

何を祖母は言っているのかと思った。
でも言葉を出すことができなかった。

「殺した…って。冗談でしょ。」

「いや、冗談じゃないよ。私がまだ生まれて間もないあの子を殺したんだ」

言葉がでなかった。

「警察に行こうと思った。でも、江里が止めたんだ。私は、その子を庭に埋めた。小さいまだ手のひらに乗るぐらいの子を埋めるのは容易かった。そして、しばらくして、その子はまだ出生届が出ていない、ましてや母親も病院で産んだわけじゃなかったらしいことがわかった。だから、私たちはこの事を一生隠していこうと心に決めたんだ。でも、どうしてもお前に妹が生まれるってわかった時、心苦しくなって一度だけ口にしたことがある。でも、それだけだ。私はもう死ぬ。だから最後にこれだけはお前に伝えておかないとって思って…」

『これだけでも十分衝撃的で声も出ないのにさらに何かあるのか?』

「その子を埋めたあと、少ししたら…ザクロが生えてきたんだ」

ピー…

それを言い終えたあと祖母は息を引き取った。

僕は、あの赤いザクロの実を美味しく食べていた自分を思い出し嘔吐した…

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