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CambiaTesta

大学の夏休みも終わりキャンパスにも学生が戻ってきた。
今年は多分、人生の中で一番暑い夏だった。
とはいえ、僕は研究室にずっと篭って研究をしていたので、今年も海にも行かなかったし、友達と旅行に行くこともなかった。
お盆の13日から16日までは完全にセキュリティの関係で立ち入り禁止になるので、今年は久しぶりに実家に帰省したぐらいだった。

実家に帰ると「なんだそのボサボサの髪の毛は!」と母親に怒られ、お小遣いをもらって小さい頃から通っている床屋に行ってバッサリ短くしてきた。
「おお、一真くん久しぶりやねぇ。時々は、こっちに帰ってきているのかい?」
床屋のおじさんは、僕が初めて髪の毛を切った時からずっと切ってくれているからなんでも知っている。
「3年ぶりかなぁ」
「そっかー、それにしてもせっかくのいい男がこんなボサボサじゃ、勿体無いぞ。学校の近くだったらおしゃれな美容室いっぱいあるだろうに。そこで、かっこよく決めて彼女の1人でも連れてきてくれよ。」
笑いながらそんなことを話してきた。
「はぁ。」
そっけない返事をしながら、彼女たとえできてもここには連れてこないけどなんて思っていたら少し面白くなって笑ってしまった。

夜、庭から地区の花火大会が観れるのでビールを飲みながら家族で鑑賞していると、妹が変なことを言ってきた。
「お兄ちゃん、大学の近所に今度できる美容室、すっごい話題なんだよ。知ってる?」
「は?なんでお前が俺の大学の近所の美容室事情なんて気にしてるんだよ。」
「だって、私も今年受験して来年はお兄ちゃんの大学に行こうかなって思ってるんだもん。」
「まぢかよ。大学来ても一緒には住まないからな。」
「当たり前でしょ、私だって大学に行ったら彼氏とかできたら、お兄ちゃんいたら邪魔だもん。」
「お前はアホか。そんなのは受かってから考えろ。」
「ふんだ。あ、でもそうそうさっきの話だけど、その美容院ものすごくて、理想の顔に変えてくれるって話だよ。」
「整形?顔ってそうそう変わるもんじゃないだろう」
「話によるとね、お兄ちゃんの大学のところが2号店になるらしいんだけど、1号店がすごい話題になっていて、まるで別人になっちゃう人もいるんだって。でも、整形じゃないんだってよ。一度、お兄ちゃん行ってきてよ。」
「行かねーよ。今日、沢田さんのところで短くしたから春まで行く必要ないわ。」
「はぁ、何言ってるの?普通は毎月行くもんだよ。」
「行かねぇよ。バカ。」

帰省から帰ってきたらポストにチラシが入っていた。
チラシってなんで配るんだろう。どうせ見ないでゴミ箱に捨てちゃうのに。
ガサっと取り出すと1枚のチラシが目に入った。

「世間で話題!!あなたの理想の顔に変身させて見せます!! サロンCambiaTesta」

「かんびあてすた?これのことか?」
なんか不思議な名前だ。

それからまた僕は研究室に篭ってしまったので、そんなことはすっかり忘れていた。

夏休みが終わって講義が始まると、研究室以外の仲間たちとも会うことが増えた。
「なぁ、あの潔子見たか?」
「潔子?あぁ、去年ミスコン出て準優勝だった子の事?」
「そう!なんかすげー変わって、夏前とは別人みたいだって話題でさー。夏休みの間に整形でもやったんじゃないか?って話題になってるんだよ。」
「あんまり興味ないからなぁ。」
そんな話をしていたら、カフェテリアの外を歩いている潔子がいた。
彼女、実は同じ高校で隣のクラスだった。特に話す必要もないので周りは知らないけど。
彼女の姿を見てびっくりした。本当に別人だ。

「おい、ところで一真、頭切ったじゃねーか」
「ん?頭じゃねーよ髪の毛な」
「何くだらねぇ返ししてくるんだよ。小学生か」
「スッキリして、後ろからは誰かだ最初わからなかったよ。」
「だろうな。髪切ったの、多分1年ぶりだから」
そう、それまではめんどくさい髪の毛は自分で切るかゴムでまとめていたから。

そのあと、噂が耳に入ってきた。新しくできたCambiaTestaに行くと別人になれるって話が。

秋になり、僕は研究結果を学会で発表する機会をもらうことができた。
流石に発表会にはこのボサボサの頭ではまずいだろうと思って、妹に言われたこともあるし、あのCambiaTestaに行って見ることにした。

「いらっしゃいませ」
「すみません、予約の取り方がわからなかったので直接きたんですけど、大丈夫ですか?」
「はい。ちょうど今の時間は空いているので大丈夫ですよ。どぞこちらへ。」
いかにもカリスマ美容師という感じがする男性がエスコートしてくれて椅子に座った。
「当店は初めてのご利用になりますか?」
「はい。」
「当店は、お客さまの理想の顔にすることをコンセプトにしております。料金設定が3種類ありまして…」と説明をしてくれた。
その中で "フルオーダーメイド" というのが目についた。
「このフルオーダーメイドというのは?」
男性は「はい、このメニューは顔からヘアまで全てをお客様のお望みの顔に変える事ができるメニューになりまして、今とても人気があり多くの方がご利用いただいております。」
メニューの下に「※効果は3ヶ月です」と注意書きがあった。
「3ヶ月?」
「はい。このメニューは顔をそっくり入れ替えますので3ヶ月後にメンテナンスを必ず行う必要があります。」
「整形ですか?」
「いえ整形ではありませんが、詳しい内容は別の誓約書にサインを頂いた場合のみお教えできるようになっております。」
「そうなんですか。でも、これ人気なんですよね。」
「はいとても人気があります。」
「じゃあ、これお願いします。」
その後、誓約書の説明を聞いたがなんのことがさっぱり意味がわからなかったが、顔が変わるということだけがわかった。
サインをしたら別室に案内された。
椅子に座ると目の前には…

大量の首から上の顔が並んでいた…

3ヶ月後…
「一真様、ご来店ありがとうございます。本日はメンテナンスですか?変更ですか?」
「そうですね。来月実家に帰るので頭を切りにきました。」
一真の顔とは思えない真面目そうな研究者の顔が微笑んだ先に一真の顔が微笑んでいるように見えた。

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