クラウドファンディングと行動経済学
先日、35日間のプロジェクト期間を終え、82名の方から総額866,000円の寄付を集めることが出来ました。目標の430万円に対しては20%の達成と遠く及びませんでしたが、人の温かみに接した事や、教育現場の方とのお知り合いが出来、課題感を深められた事が何よりも印象に残った期間でした。
一方で、目標は達成したかったのが本音です。
そこで今回は改善点とともに「より多くの人にもっと寄付を募るにはどうすれば良かったか?」を考えたいと思います。
改善点① リターンの選択肢
まず、リターンの選択肢について、一人当たりの寄付額が増えにくいよう設計されていました。以下が私が考えていた当初のリターンです。
・絵本 + ありがとうの手紙 【1万円】
・絵本 + ありがとうの手紙 + オリジナルカレンダー 【1万5千円】
・絵本 + ありがとうの手紙 + オリジナルカレンダー + ズームセッション 【2万5千円】
この3つにしたのは3つ意図があります。まず1つ目は、選択肢は少なくしたかったのです。行動経済学では「人は選択肢が少ない方が、選択後の満足度が高い(Less is more/ cognitive overload)」といった考えがあります。選択肢が多すぎると返って何を選んだらよいか分からない、といった経験ありませんか?多すぎる結果取捨選択に時間がかかり、結局選んだものもこれで本当に良かったのかと考え、選択肢が少なかった場合と比べて満足度が低い研究結果があります。
そして2つ目は、ズームセッションのリターンは敢えて高額にして、1万5千円のリターンを妥協点に見せて一番人気リターンと見込んでいました。「人は元来欲していなくてもお得だと思うものを選択する(comromise option)」、から考えました。2万5千円は高すぎるし、ただ5000円追加したらオリジナルカレンダーが付いてくる、それなら1万5千円にしよう!と人は選ぶと考えました。
そして3つ目はお金のある人は2万5千円を選びまたマニュアルで追加するだろうと考えました。他のプロジェクトサイトをみると数十万円を超える高額リターンがいくつかありました。ただ、私は選択肢を絞るため、さらなる高額リターンの設定はせず、個人の意思と行動に委ねました。
そして、私はこのプロジェクト公開直前に以下のリターンを追加します。
・ありがとうのメール 【2千円】
意図としては、子どもがいないと絵本はいらないかもしれない。絵本なしの安価なリターンを1つ用意し、もっと寄付をしたい人にはマニュアルで設定してもらおうと考えました。
さて結果はどうでしょう?それは開始数時間で明らかでした。
開始数時間での支援額あたりの支援者数↓
【2千円】 6名 ※マニュアル追加なし
【1万円】 15名
【1万5千円】 2名
【2万5千円】 4名 ※マニュアル追加1名
想定していた分布と
この2千円のリターンがまず誤りでした。それは2点あります。
まず1点目は、この2千円があることにより、1万円のリターンが妥協点(compromise option)となり一番人気になりました。
また、期待していたマニュアル追加も実際にした方は1名でした。そう、人々はデフォルト(規定値)を好み、その変更を好まないという考え方があります(Status-quo bias)。例で有名なのは臓器提供の意思表示カードです。ヨーロッパの国を対象に行われた研究だと、ある国々はほぼ100%に近い提供可の意思表示がある一方、ある国々は4~30%と低い提供可の意志提供
チェックボックスとともに「臓器提供を希望するならチェックをしてください」と「臓器提供を希望しないならチェックをしてください」といった設問だと、前者を採用する国は4~30%、後者を採用する国はほぼ100%に近い提供可の意思表示があることが分かっています。
改善点② 目標金額
さて、今回クラウドファンディングの場をお借りしたCAMPFIREさんのサイトを訪問するとこのようなグリッド表示数々のプロジェクトを一覧で見ることが出来ます。
さて、これを見た際に、そのページを見たいと思いますか?
ちなみに、お伝えしなくとももう理解されているかと思いますが各グリッドにある黄色~赤色のバナーが、目標達成金額に対する達成度を表しています。
恐らくほとんどの人がバナーが真っ赤な達成済み、もう少しで達成するプロジェクトをクリックするのではないかと思います。この行動は、最近の経営学のクラウドファンディングを対象にした研究で明らかになっています。
「人は目標に達成しそうな、あるいはすでに達成したプロジェクトに寄付をする傾向にある(Goal-directed motication)」とのことです。
ちなみに、プロジェクト公開後にクラウドファンディングで資金を集めた方とお話しする機会があったのですが、目標金額は友人・知人から得られるであろう想定総支援金額が全体の80%程度で見積もるのが通説だそうです(辛)
今回寄付いただいた方はほぼ、95%程度は友人・知人です。集まった金額が80万円程度でしたので、100万円前後の目標設定にすべきだったという事です。
ちなみに私のプロジェクトは上記イメージの一番左下にあります。
得ている金額は他のバナーが真っ赤な達成済みと同じだったりそれ以上だったりしますが、目に留まった方、いますか?
改善点③ リターンの金額
他にも同時期に絵本のプロジェクトがありました。
ほとんどのプロジェクトの1冊の絵本のリターンが3500円~5000円程度でした。
そこを私はなぜか強気に1万円と設定しました。すべては目標金額に釣られて高くなってしまったのですが、、。結果、サイトへ訪問された友人でない方からの支援を受ける事チャンスを減らしていました。
この3つの改善点、私はプロジェクト開始1~2日で気づきました。
しかし、既存のリターンの修正・削除、目標金額の変更はできません。
そこで私がとった策は、【2万5千円】以上の高額リターンを追加することです。先に述べた妥協の選択(Compromise option)の効果と、絵本が要らない人向けに、2000円ではなく他の選択肢を選べるようにしました。
この結果、その後寄付頂いた方の中に数名この高額リターンを選んでくれた方がいたため、リターンを追加した効果はあったのかなと思います。
さて、以上が私なりの考察です。
後から考えたら、想定内でなかったのか、、(泣)といった感じですが、公開直前の私はそれより告知することに頭がいっぱいでそこまで及びませんでした。何事も経験と失敗の繰り返しですね。
実はこの内容、先日大学の授業でもプレゼン(個人で30分!)をしました。
後期の授業も終盤に入り、9月からの授業で得た「行動経済学の知見をどのように過去あるいは現在、未来の仕事に活かすか」といったのがお題でした。
教授には本を作る・さらにはクラウドファンディングをするという生徒は初めて!ということで、その新鮮と実践的な内容にクラスメートからも好評を得ることができました。
自分としては、絶賛進行中のプロジェクトだったため、自分の言葉で話しやすい、また客観的に振り返る事ができ、よい機会でした。
また、セカンドチャンス?に向けてもみんなから私の考察以外にも考えを聞けて、それもまたラッキーな副産物でした。