
夫婦
「ねえ」
妻が言った。
「あなたはわたしの肌をどう思う?」
「肌?」
僕の書斎のソファで足を組んで横になっている妻は、
よく伸びる自分の足をしげしげと触りながら続ける。
「そう、肌。自分のもののように思う?それとも全き他人のもののようかしら」
「ー考えたこともなかった。」
僕は正直に言う。
「あなたに触れているとまるで自分に触れているような感覚になることがあるの。自分と相手の境がつかないような、あなたにはそれがないの?」
「そうだね、安心はするけれど自分の肌だと思ったことはないかな」
「ーそう」
妻は話に飽きたのかお気に入りのジャズを検索して流し始めた。
「ーなんだか、さみしい」
ぽつりと妻が呟く。
僕は机からソファに移動して妻を抱きしめる。
「どうして?」
「空っぽなの。何もかもが」
「空っぽ」
「そう、何にもないの」
妻は泣いていたが僕には何故泣いているのか分からない。
彼女の身体は冷たくて、それは全き他人の身体だった。
Fin
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