Comment partager les sentiments avec d’autres(Ⅱ)

日仏会館のスピーチに向けて書いたもの。今、率直に社会に対して思うこと。

<私は今年で21歳になりました。日本人女性の平均寿命は87歳なので、私はちょうどその4分の１を生きてきたことになります。ですから人生まだこれからですが、これまで積み上げてきたささやかな軌跡においては、思い出深い人も何人か存在しました。彼らのことを思い出すと気がつくのが、彼らと話す時、私たちは違いよりは「心の共有」によって語り合っていたということです。

　他人と感情を共有するのは、骨の折れることです。使用する言語が違うかもしれないし、相手と自分の知能のレベルが同じとは限りません。では、そうした相手に不定形な自分の気持ちを伝えるのに必要なものは何でしょうか。それは、付け焼き刃の語学力でも、相手を説き伏せる力でもありません。大切なのは、紡ぎ出される言葉に人の心を慰撫し、深いところに訴えかけるような切実さが宿っているかどうかではないでしょうか。そうすれば、自ずと相手はこちらに心を開いてくれるし、相手から言葉を引き出すことも可能になるのです。そのようにしてお互いの持ち物に光を照らし、そこにある特別な魅力を見つけること、それが、私がここでいう「心の共有」の意味するところです。

「良い旅をしていますね。今の時代本を読む人は少ないし、本を読んで行動を起こせる人はもっと少ないから、私の本がきっかけでこうして旅をしてくれているなら、著者としてはとても嬉しいです」

これは今年の春、私が最も尊敬するジャーナリストの方から受け取ったメッセージです。彼女のユーラシア・アフリカ周遊に関するエッセイに出会って以来、私にとって彼女の物語が人生の指標となりました。このメッセージを受け取った時も、ちょうど彼女の文章に突き動かされるように旅をしており、そこで得た感動を共有しているところでした。私がここまで彼女の物語に感銘を受ける理由は、彼女は物事と関わるとき常に等身大であるからでしょう。彼女の範囲のなかで考えたことや経験したことを素直に綴るから嘘や背伸びがないし、そこで紡ぎ出される言葉は彼女自身の手で掴み取られているものだから、その情感のようなものがこちらにも伝わり、そこに自然と共感が生まれるのだと思います。

中でも印象的なのは、彼女がエチオピアを旅行した時のエピソードです。彼女が乗っていたエチオピアからケニアに向かう列車が故障してしまい、日没後の荒涼とした平原に乗り合わせた人々と共に置き去りにされてしまいます。その夜のことを、彼女はこのように記しています。
「…夜の闇は少年たちの大きな瞳を相対的に際立たせた。名前を呼ぶと、彼らは控えめに、しかし確実に返事をした。少年たちは私の頬や髪の毛に温かい指でそっと触れ、「ビューティフル」と呟いた。アメリカ留学時代に、過労による動悸に苦しめられた事がある。当時、私は他人のはおろか、自分の心臓の音なんか聞こうともしていなかった。そんな小さな音にいちいち足を止めるほど私は暇ではなかったのだ。その時の記憶がふと呼び起こされた。何もない土地で、私はそっと散らばった音の破片を拾っていた。何もないということがある種の芸術性を持ち、ゆとりに満ちた子供の動作が心の琴線に静かに触れた。」

それまでの私にとって、主な情報源はメディアでした。そして私は、メディアがアフリカを報じる時、その多くは「アフリカ」という一括りでアフリカ諸国を纏め上げるものであるために、それらを一国家として見たことのなかった自分に気がつきました。アフリカとは、私にとって暑さと混沌に縁取られた、騒々しい土地でした。赤道直下の強い日差しのもとで、原色の民族衣装や、路上の物売りの声が踊る光景を漠然と抱いていたのです。だから、太陽が去ったあとのアフリカのことなど考えたこともありませんでした。しかし、彼女の語る言葉をなぞっていると、その闇の深さの中で感じた彼女の心の揺れが、私の心にも、まるでそれが私自身の記憶であるかのように呼応するのを感じました。同時に、まだ見ぬエチオピアという国が静かに縁取られていくのを感じました。日本にいながら、私はまるで世界のなかに自分だけの秘密基地を見つけたような気分になりました。
　
この心の動きに急き立てられるようにして、それ以降私は自らも旅に出るようになりました。旅を続けているうちに、滞在先で出会った数々の出来事が、自分のなかのどこか懐かしい思い出に呼応し、静かに心の内に集積していくのを感じていました。浜辺に咲いていた、夜になるとその香りの濃度を増す白い花や、夜明けの甲板の上で聞いた波の音、朝の食堂で行儀よく列を作る子どもたちの表情、そうした些細な記憶の欠片が心のなかでつなぎ合わされると、私は白地図を拡げ、彼らが居た場所にそっと色を重ねました。この世界は、とても美しかった。

私は、彼女の言葉によって行動を起こしました。それは本を通じて、彼女は自分のなかにあったものを他人に伝えることに成功したからだと思います。しかしこの体験を通じて、私自身もまた語るべき言葉を得たことも重要な出来事でした。異国の地にて全く一人で世界と向き合うことで、自分の中で渦巻いていた様々な感情が整理され、心の領域が拡がっていったのです。この時真に、彼女があのエチオピアの平野で感じていた寂寥に触れた気がしました。誰かの言葉によってこれほどまでに揺さぶられ、自分が外に向かって開かれることは素晴らしい体験でした。

グローバル化が進行し、それぞれ異なるバックグラウンドを持った、世界中の人々が国境をまたいで行き交うようになりました。またSNSの普及により、私たちは日々膨大な量の他人の意見を目にするし、同時に発信することも容易になりました。人も情報も激しく入り乱れる時代だからこそ、私を含めたこれからの時代を生きる人々は、聞こえてくる声に対して注意深く耳を澄ませ、その声の大きさやレトリックだけには決して囚われるようなことがあってはいけないと思います。そして、その声が語る内容を自身のなかに取り込み、得たものを発信していく姿勢が大切だと私は考えます >

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