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タクシー
僕の実家がある場所は、繁華街に出るためにバスに乗らないといけない。バスは通勤退勤ラッシュの時間は10分に一便、それ以外の時間は25分に一便。そして、バス会社は遅延が酷いために余裕を持ってバス停に着いていけないといけない。
今日もバスに乗り遅れてしまって、20分後に来るバスを待っていた。急ぎでもなかったので寒さに耐えつつ立っていたところ、同じく待っていたお婆さんに話しかけられた。
タクシー呼んだから一緒に乗りなさい。お金はいらないから。
車内では話が弾んだ。その中で、僕は祖父母が毎日暇そうにしていることを話し、年寄りは何を楽しみに生きているのかを尋ねた。
72歳の彼女は娘から教えてもらった脳トレのゲームにハマっていること、頻繁に博多駅まで出ていって買い物や散歩をしていることを話してくれた。歳をとって目がすぐに疲れることに悩んでいて、それでもボケ防止のために脳トレを欠かさないようにしているらしい。彼女の口から出た、
「ボケたら死のうにも死ねないからね」という言葉が忘れられない。
タクシーを降りて地下鉄の改札に向かう後ろ姿が少し寂しそうに見えて、形容できない気持ちになった。
親切な彼女が、どうか最後まで幸せに生きられることを願うばかり。