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2020年M-1王者マヂカルラブリー「漫才王でーす。」

 お笑いについての記憶の始まりはボキャ天だ。フォークダンスDE成子坂が好きだった。 爆笑オンエアバトルなんかも見ていた。ラーメンズが好きだった。社会人になってからはイベントにも行くようになり、今から10年以上前にはM-1やダイナマイト関西といったイベント、ライセンスの軽い追っかけみたいな事をしてライブに行ったりもしていた。渋谷のヨシモト∞ホールからの配信でライセンスを見てるうちに、当時開催されていた『AGE AGE LIVE』という若手のライブイベントで自然と色々な東京芸人の名前も覚えた。  その頃のマヂカルラブリーは結成して2年目くらいで、ボケの野田クリスタルはタンクトップに破れたジーンズで裸足でジャンプしているガリガリの青年だった。ツッコミの村上は今より少し痩せていて眼鏡を取ると今より渡辺徹に似ていた(当社比)芸風は野田クリが「~したいよー」と自分がやりたい事を漫才冒頭で宣言した後、意味不明な小ボケを挟みながらムチャクチャな動きをして村上がそれにツッコミを入れていくというもの。いわゆる正統派しゃべくり漫才の対局にある、漫才というより中学生がはしゃいで作ったような動きネタだったが、野田クリのキャラがやたらシュールだった。ただウケは微妙でLIVEの順位も下層辺りでウロウロしていた。個人的には面白いなと思ったものの、その後はすっかり彼らの存在を忘れていた。  時は流れ2017年。その頃の私はお笑いを全く見なくなっていた。ツイッターかTVか忘れてしまったが、偶然久々に見た野田クリスタルの姿に衝撃を受けた。 〈?!・・・?!え?野田クリ・・・誰?!〉  服装こそカッターシャツにネクタイをして靴を履く、という普通のサラリーマンスタイルには変わっていたが、肉体があきらかに10倍くらいバルクアップしており、シャツはパッツパツで顔も何だか丸く表情も柔らかくなっていた。神経質そうな無表情が特徴のガリガリ不思議系芸人の「野田くん」は、よく喋りよく脱ぎよく笑う筋肉芸人「野田氏」に変貌していた。村ちゃんも体格は巨大化していたものの、ツッコミはより的確にソリッドになっていた。 〈どうしてそうなった・・・?!〉  昔より多少は売れていたものの、年末のM-1は初の決勝進出ながら最下位の点数を取り、上沼恵美子にガチで怒られていた。私は野田氏の変貌が気になりすぎてネタを見まくり経歴を調べまくっていた。姿形こそ変わったものの芸風は全く変わってなくて「こいつら馬鹿だ!!!!」と思いながら笑っていた。マジラブで好きなネタは色々あるが、私が最も好きなネタは「ベランダ」だ。気になった人はyoutubeなどで動画を見て欲しい。いい下の道って何だよ。ツッコむべき所は山ほどあるのに「ベランダー!」っていうツッコミもだいぶおかしい。  動画を見漁るだけでは気が済まなくなり、気がついたら彼らの本拠地である埼玉の大宮ラクーンよしもと劇場へ赴いていた。単独ライブも行った。一度だけ∞ホールで行われたライセンス藤原主催の大喜利イベントに出た野田氏の出待ちをした事がある。当時5sだった私のiphoneを「画面ちっさ!」とイジってくれた。インカメ撮影に慣れてなくてアワアワしている私を「撮ろうか?」と言って一緒に撮ってくれた。私は撮影だけで精一杯だったが、他の出待ち女性から話しかけられても真面目に対応する優しい好青年だった。  基本的にミーハーなので、ぶっちゃけ昔マヂカルラブリーを覚えたキッカケも単純に野田クリスタルの整った外見が印象的だったからだ。高身長(ほぼ180cm)だし、低音で良い声をしていて、正直ルックスは俳優並のポテンシャルがある。家族は公務員という真面目な一家でお笑いとは無縁。しかもあれだけ奇天烈なネタをやりながら、本人はとても真面目で繊細で動物を愛し(ペットのハムスターを溺愛)男気溢れる性格。黙って普通の生活をしていればきっとモテていただろう。実際2010年頃には元カナリアの安達率いる「Adachilds」というよしもとのアイドルユニットみたいな一員に入っていた過去もあり、その頃は売れてはないもののそれなりにワーキャー系のファンも多かったように思う(その頃のニコ動動画を見ると「野田君可愛い」や「カッコイイ」などのコメントで溢れている)ただ野田氏の面白い所はそんな周囲の雰囲気に流されなかった所だ。松本人志に憧れすぎて自分も身体を鍛え(何でやねん)ゲーム番組でエロゲーについて熱く語り、芸歴10年以上でも劇場で心底楽しそうに新作ネタを披露している。結果昔の一部ファンは離れたかもしれないが、男性ファンが増えているのは単純に嬉しい。私の好きなエピソード。母親に将来を心配されて普通の仕事につけば?と言われた時に 「それは俺に死ねって事か?」 と言った話。お笑いか死か。お笑いソルジャーと呼ばれるゆえんとなるストイックさ。 芸人としてカッコ良すぎる。  2017年のM-1恵美ちゃん事件以降、徐々に名前が売れてきてたまにTVでも見かけるようになった。そして遂に2020年R-1で野田クリスタルが優勝。勢いに乗って同年末に2度目の決勝進出。決め手になったのは「吊り革」というネタ。電車の中で揺れに耐えれず変な動きをしつつ、最終的にオ○ッコをまき散らしながら床をゴロゴロ転がりまくる。芸歴13年のM-1決勝でこんなシンプルにアホなネタをやるコンビを私は見たことがない。最高だった。暇な人は是非動画で見て欲しい。やり切った二人の顔は晴れやかだった。そして接戦の末…優勝。野田氏の男泣きが美しかった。村ちゃんの喜び方は乙女だった。彼らの芸風は『漫才か漫才じゃないか論争』まで巻き起こした。元旦に行った寄席の配信の売り上げはよしもと歴代1位を記録する・・・。  不遇の時を長年過ごし、大宮に飛ばされながら腐ることなく仲間達と必死に生き抜いてきた。時代が彼らに追いつき、大宮セブンを引き連れてアメトーーク!に出演という快挙も成し遂げている。次に目指すはキングオブコント優勝。マヂカルラブリーの勢いは止まらない。

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