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天下人の香木の名を冠する奇妙奇天烈漫才師・ランジャタイに憧れて

「3033番、ランジャタイ」
M-1グランプリ決勝進出者発表の瞬間。その名が呼ばれ、私は1人スマホを見つめながら「よっし!!」と叫んだ。自分でも驚くくらいまぁまぁデカイ声だった。画面の向こうではボケの国崎和也がおどけたようにWピースをふりまき、その横では衝撃のあまり立ちくらみでふらふら揺れているツッコミの伊藤幸司がいた。1年前に敗者復活戦で最下位に沈みながら満面の笑みで「国民最低ー!」と叫んだ不敵な漫才師コンビは、わずか1年でM-1のファイナリストになっていた。夢みたいだな、と思って柄にもなく感動してしまった。 ランジャタイとの出会いについて前回の記事はコチラ↓

敗者復活戦、そして伝説のマヂカルラブリー寄席を経て、彼らを取り巻く状況は少しずつ変わっていた。

2020年M-1王者としてマヂカルラブリーが怒濤の一年を駆け抜けるのを目で追いながら、私はいつしかその横で自由気ままに暴れているランジャタイにもどんどん目を奪われていった。コアなお笑いファンだけが知っている異端の芸人から、今最も注目されている芸人へと。あの千鳥の大悟にも「ワシの憧れ」と言わしめるまでになった。  

その決定打となったのは今回のM-1準決勝だったように思う。現場を見ていた人々が「ランジャタイは(決勝)行った」と口を揃えて言い、配信を見ればちょっと異常なくらい笑いが起きていた。だがしかし私は半信半疑だった。だって・・・。 

「あのランジャタイやぞ????」(ド失礼)

そう。去年一年で瞬く間に知名度を高めていきながらも、彼らは何も変わらなかった。バラエティ番組に出れば、ウッチャンナンチャンのお面をひたすらパカパカして終わったり、一日中鏡の中の自分を笑わそうとしていたりした。自らの冠配信番組(ランジャタイもういっちょ)の初回はひたすらカメラを探し続けて終わったし、youtube(ランジャタイのぽんぽこ生配信)では本当か嘘か分からない芸人についての噂をひたすら繰り返し爆笑しながら話していた。こいつらが・・・M-1の決勝に上がるだと・・・?(ド失礼二回目)

決勝進出が確定し歓喜するファンの思いをよそに、国ちゃんは鬼スベリして過去最低点をとると言い、伊藤ちゃんは大真面目に優勝宣言をするなど彼らはどこまでも対照的で我々を笑かせた。 

ドキドキしながら迎えたM-1決勝当日。トップでモグライダーがしっかり沸かせた後、ランジャタイは二番目に呼ばれた。呼ばれても中々立ち上がらなかったり、廊下で脱線して明後日の方向へ行ったりと、いつも通りボケ倒す国ちゃんに笑いながらもヒヤヒヤした。後日、本人が「あそこの廊下で4分間使い切りたかった」というような事を言っていて、冗談と分かっていながらもうっすらゾッとした。やりかねない男である。もはや相方というより母親のように舞台へと急かしている伊藤ちゃんを見て、つくづく彼の存在のありがたみを感じた。ネタは「風猫」。特注Tシャツ(本人談)で魅せる国ちゃんの動きはいつも以上にキレキレだったし、伊藤ちゃんもいつもよりポイントを狙ってしっかりツッコんでいた。最初は緊張のあまり息を詰めながら見ていたが、ムーンウォークの辺りから笑いがこらえきれなかった。客席からも拍手笑いが起きていた。漫才が終わった瞬間、私はTVの前で思わずゆっくり拍手をしてしまった。それは面白かったー!という意味とちゃんと4分で収めてくれたー!という安堵感からきた二重の意味での拍手だった。信じられないかもしれないが、日頃の彼らの言動を聞いていると、何食わぬ顔で10分以上漫才をして暗転ENDになるんじゃ?と疑う気持ちを捨てきれなかったからだ。彼らがプロで本当に良かった。審査員の困惑している表情に対して、国ちゃんのやりきったと言わんばかりのすがすがしい表情が印象的だった。結果は最下位。しかし、こんな楽しそうに最下位を喜んでいた芸人は後にも先にもいないのではないか。(伊藤ちゃんの腹の内は別として)その後の巨人師匠のコメントでは意外と常識人な所をバラされていて、オチまでも完璧だった。 

かくして「最高の最下位」「勝ち逃げ」などランジャタイらしい絶賛(?)で大会を終えた彼らは、年末年始とTVに出まくっている。若い子達からの爆発的人気もちょっととんでもないレベルだ。私みたいな1年ちょっとの新参ファンですらこの現状に驚いているのに、地下時代の昔からのファンはどれほど感慨深いだろう。今年はひょっとして去年以上のとんでもない活躍が待っているのかもしれない。それでも彼らは変わらないのか、それとも・・・? 今年もやはり私はこの奇天烈漫才師の沼から抜け出せそうにない。


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