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“ただの裏山”が舞台のホラー映画『ケース・バイ・ケース』 シタンダリンタ監督と共に駆け抜けた真夏ロケをメインキャストが振り返る

『或いは。』(19)で門真国際映画祭の最優秀編集賞・優秀作品賞に輝き、『東京まではあと何歩』(19)ではフジテレビヤ ングシナリオ大賞入選。以降、『どこからともなく』(20)、『もしや不愉快な少女』(20)、『ミス・サムタイム』(23)、『ぼくならいつもここだよ』(23)、『Amourアムール』(23)、『言い訳』(24)など、類稀なるセンスで自らの作家性を爆発させた作品を発表し続け、映画ファンから着実に注目を集めている20歳の映画監督•シタンダリンタ。そんな彼が手掛ける待望の最新作は、人間の潜在的な“恐怖心”を題材にした自身初となるホラー映画。これまでのシタンダ映画のエッセンスが詰め込まれていながらまさしく新境地とも呼べる刺激的な一作が完成した。

そんな同作でメインキャストを演じた横山奏夢、酒井美和、本田沙穏、澤多亮佑の4人にインタビューを実施。制作の裏側から、本作を経た彼ら彼女らの現在地など、たっぷりと話を伺うことができた。シタンダリンタ自身が撮影した4人の写真と共にお届けする。(編集部)

※このインタビューはネタバレを大いに含みます。作品をご覧になった後にお読みいただくことをお勧め致します。


常にブラッシュアップが繰り返される制作現場

ーーー公開ギリギリまで仕上げ作業をされてたとのことですが、完成した作品をご覧になって率直にいかがでしたか?
横山:予定通り公開されて、ただただ完成して良かったなっていうのが観に行くまでの気持ちでした。観に行ってからは、いやぁリンタ君エグぅって気持ちでした。本当単純に面白かったし。膨大なカット数、その中からの取捨選択もあって、それを1時間40分に収めては、あそこまでのモノを作り上げるっていうのが、凄いな凄すぎるな…と圧倒されていました。
酒井:現場に居なくて台本でしか知らないシーンも多いので、映像になって見ることへの興奮がまずありました。ラストシーンを含めて、どうなるのか想像もつかなかったようなシーンのオンパレードなので、ひたすら純粋に楽しんでました。その上で、あの撮影がこうなるんだっていう驚きとか、何度も返しを撮ったシーンでは、このテイクが使われるんだ、みたいな面白さがありました。
本田:台本は読み込んだつもりだけど、編集されて映画になった完成形を観て、やっと全貌が掴めたような印象でした。
澤多:公開されてからもう何度か観てるんですけど、見るたびに面白さが増していって、飽きがないし、発見が次々にある。こういうのを良い作品っていうんだろうなって感じます。
横山:めちゃくちゃ良い作品だよ本当に。

ーーー澤多さん以外のお三方はシタンダ作品初参加でしたが、オファーを受けた時のお気持ちを聞かせて下さい。
横山
:どんな役かっていう情報が、YouTuberのヤマトっていうので、某YouTuberのヤマトさんの動画をちょっと観たりしたんです(笑)。それで台本読んだ時も、へぇこんな風に捉えてるんだぁ彼らを…って思ったんですけど、どうやら全く意識してなかったみたいで。
本田:たまたまだったんだ(笑)。
酒井:私は映像自体も初めてだし、同い年の監督っていうのも、何もかも未知数すぎて最初はすごく緊張してました。メインキャストも紅一点だし、どうなるのかなぁって不安が大きかったです。けど、変な人ばっかりですごく面白かったです。
横山:本田沙穏を筆頭にね。
本田:いやいやいや、なんだかんだシタンダリンタでしょ。
横山:確かにそう本当にそう。
酒井:だからすごくやりやすかった。
横山:本当にやりやすかったですね。
本田:監督は自分を1番まともだっていうけど、あの人も相当変だと思います。

ーーー横山さん演じる大和は映画前半のクライマックスで唐突に死を遂げます。ホンを読む前からご存じだったんですか?
横山:確か聞いてたと思います。スケジュールのことがあったので、情報として『メインキャストだけどすぐ死ぬのでそこまで多くのスケジュールを要しません』って言われてて。でもメインキャストなんだよね? どっち? ってなってて(笑)。その後、主人公として出てきてすぐ死んじゃうミスリード的な位置だと聞かされてやっと掴めました。でも、死ぬって聞いてた割には撮影が多いし濃くて、こんなにやるんだ…って驚きでした。

ーーー大和が死んでからは撮影にあまり参加してないこともあり、知らないことが多かったそうですね。
横山
:それで言うと、もらってた台本と終盤の流れが全然違って。だいぶ変わってますって噂は聞いてたんですけど、ずいぶん説明がなくなって映像でグッと見せ続ける、ある種すごく余韻を残す形になっていて。それがもう、流石!素敵!それで大正解!と思いました。僕は監督の『こう伝わってほしい、こうやって説明したい』って気持ちが行き過ぎてエゴが見えると冷めちゃう節があるんです。けど今作は監督が見せたいものを見せるバランスが絶妙で、尚且つホラーというジャンルとも完璧にマッチしていて、すごく入りやすかった。しかもボリューミー。天才だ…ってなりました。試写が終わって、それすぐに伝えたくてすぐに伝えました。

ーーー大和が死んでからは酒井さん演じる岬が中心の物語になっていきます。
酒井:そこの台本も現場で二転三転変更されていて。後半はもうどこの何を撮ってるか分からず撮ってました。彗月を殺しちゃうところも、元の台本では殺してしまう瞬間の、感情のルートみたいなものも分かりやすかったし、突発的に殺しちゃうってことで演じやすかったんですけど、新たに届いた台本はそこもバッサリ切られてたし、その後の展開も怒涛すぎることになってて。監督が岬の物語をより分厚くしてくれたのは嬉しかったです。
本田:監督的には、岬が彗月を殺すカットを撮影した時に別の展開が浮かんで『こっちだな』って思ったらしい。おかげでというか、そのせいで新たなとんでもない台詞量が僕にまで届きました。
横山:あのワンカットのシーンは大変そうだった。
酒井:台詞量が本当にすごくて。
本田:最初はワンカットじゃなかったんです。監督的にもちょっとシーンとして回りくどいかなって悩んでらして。でも撮影当日に例えばこのシーンをワンカットで最初から最後まで見せられるならアリだと思うって言い出して。結果的にシーンの始まりから終わりまで全部ワンカットでやることになった。
横山:何発くらいでいけたの?
酒井:2発くらいだよね。
本田:1回目で行けたは行けて、でももう1発下さいってなっての2発でしたね。
澤多:それはすごい…
横山:刺す刺されるのアクションも完璧だった。
本田:あそこ結構ディスカッションし合って。本来は悲鳴を上げるんだろうけど、七也は悲鳴を上げるより抗いたい、けど溢れてくる血で声が出ない、をやりたいって言われて。
酒井:あれ撮ったの深夜3時くらいなんですけど、なんか凄い時間だった。撮りながら全員ゾクゾクしてました。
本田:静かに興奮してました。
酒井:面白かったのは、夜明け待ちの数分の間に監督が寝ちゃったんです。連日過酷だったからそりゃそうなるな、と思って。なのに時間になったら嘘みたいに『はいやろう!』って目覚めて。切り替えが怖かった。
横山:寝起きが強いからねあの人。
本田:でも撮影終わった瞬間にまた寝ちゃって、そっからは起こしても全然起きなかった(笑)。
酒井:私たちはそれで終わりだから帰るだけだったけど、監督はそのまま起きてすぐに世那と更紗のシーンの撮影に向かって行って、体力すごいな…って思った。
横山:僕が部屋で死ぬシーンの撮影も朝までかかって。その日も終わってそのまま僕らは終わりだったけど、監督は岬の死体遺棄シーンの撮影に向かいました。結構大変な大きめの撮影を連日続けてて、凄かった。
本田:あの人本当すごいよな体力。
酒井:内容も内容だから、2日続いての撮影だけでも結構疲労感すごかったのに、監督は日を跨ぐロケを何日も続けていて。1回聞いたんです。しんどくならないの?って。普通の顔で『体の疲労はあるけど、全然!』って言ってて。本当に映画を撮るのが好きなんだなって感じました。私はどれだけ好きなことでも、しんどかったらやっぱり嫌になっちゃうから。
本田:それでいうと、監督のヤバいエピソードがあって。ラストの川のシーンの撮影、自分も関係ないけどついて行ったんです。本当にしんどくて、僕もスタッフもみんな楽しかったけど疲弊しまくってて。山奥だから、バスがあるところまで20分くらいかけて歩いて戻らなきゃで。その時に、あの人何言ったと思う? 『うわぁ…今めっちゃ映画撮りたい…』って言い出して。この人マジでヤバい奴だわって思いました。どれだけ好きでも無理ですよ、って言ったのを覚えてます。

左から、横山奏夢、本田沙穏、澤多亮佑、酒井美和。

ーーー印象に残ってる撮影が沢山ありそうな現場ですね。
横山
:冒頭のバーベキューのシーンとかも楽しかったんですけど、大和の部屋のシーンが結構個人的には印象に残ってます。死を迎えるところも勿論だけど、普通に寝るシーンとかも。実際に撮られてる時に寝ちゃって、起きないと行けないシーンなのに起きなくて、奏夢くん? って声で起きたりしました。
本田:本番中寝るのだいぶヤバいよ(笑)。
横山:部屋のシーンは1日で全部撮ったんです。踊るシーンとかも。
澤多:あれ良かったです。
酒井:多分台本になかったよね。
横山:急遽というか、その場で決まって。踊った方が面白いかもって。それで1回踊ってみたら、『その踊りじゃないかも』ってリテイクされた(笑)。その時にそのシーンで使われる楽曲が既に届いてて、実際にそれを流しながらやりました。
本田:大和と岬は踊るシーンあるのずるいわ!
横山:岬のあれはなんなの(笑)
酒井:あれも台本通りに撮ってみてあんまり納得いかなくて、監督が踊ってるパターンの編集をイメージしてみて、いける!ってなったらしくて、それで踊ることになってセッティングが始まりました。
横山:でも確かにあのパターンで正解だよね。急にMVみたいになるの。
酒井:多分もう頭の中で編集をずっとやってたんだと思う。

本田:お守りのシーンとか、もう何をやってるのか分からず撮ってました。
酒井:こっち向いて、それ取って、睨んで、とかを言われてそれをただただやっていく。完成形のイメージが多分監督の中にあって、時間もタイトだったからもう割り切って素材だけを撮りに行ってたんだと思う。実際完成したものを見て、なるほどこう繋がるのか!って思いました。

唯一無二のホラー映画

ーーー監督的には、台本を変えながら撮ることも多かったけど、ここまで変わって行ったのは初めてだと語っていました。完成した映画を見るまで分からないところが多かったですよね?
本田:毎日のように展開が変更されていくのを見ていました。勿論信じてなかったワケではないけど、『決定稿がこんなに良いのに…?』と思っちゃったりもしてました。けどやっぱり完成した映像で見ると、すごくいい具合に削がれて、映画としてより見応えのあるものになっててビックリした。痩せすぎてない美女みたいな。
酒井:例えなんなのそれ(笑)
澤多:ヘタクソですよコメント(笑)

横山:それこそ空のお母さんが不倫をしていて、それがもしかしたら元凶かもっていう展開は当初のホンにもありました。けど、情報の出し方がもっと自然だった。終盤空のお母さんが襲ってくるっていう展開なんてなくて、それを監督が思いついた時に一緒にいたんですけど、どゆこと? って言いました。完成したものを見るとやりたかったことがすごく明確に伝わった。

ーーーホラー映画という視点では、今作はいかがでしたか?
本田:ゴリゴリのJホラー感がなくて、それがすごく好きです。本当に見たことないホラー、なのにしっかりホラーというのが気に入ってます。
横山:視覚的に入ってきてはパッと見でホラー映画だと分かるのが大和のパート。ちゃんとじわじわ来て、考えて感じて怖くなってくるのが岬のパート。いろんな種類のホラーが1時間40分に収められています。
澤多:空のパートはそれこそコメディですよね。
横山:コメディか?(笑)
本田:いや、あそこまで見た人間にはコメディとはもう思えないよ。
澤多:監督もあそこは笑い止まらないって言ってました。
本田:人によるとは思う。けど正直、20歳の映画監督が、本当に思い切ったなって感じるパートですよね。凄いものを見たって誰もが思うと思う。
澤多:秋山咲紀子さん演じる赤川を空が殴ってしまうところとか、台本ではめちゃくちゃ笑いました。
本田:ホンでは僕もめちゃくちゃ笑った。
横山:シリアスで引っ張るところが結構長くあるので、急に来るコメディ要素も笑えるけど笑って良いのか分からなくなる、不思議なバランスです。
本田:気持ち悪い怖さがある映画でした。
横山:そうね。気持ち悪い怖さが笑えてくるっていうあまりない形。
本田:お母さんが襲ってくるところも気持ち悪さが面白い。寝袋が立ち上がるとかそういうのも全部。

ホラー映画で最初に死にそうな大学生4人組を演じた4人

ーーー今作では4人でのシーンがいくつかありましたが、この4人で集まったことを振り返っていかがですか?
本田
:長くなりますよ。
横山:短めでお願いします。
本田:4人集まっての撮影って、実は3日間くらいなんです。でも、それぞれとの思い出が結構濃くて。大和は奏夢くんにしか出来ないし、千尋はりょうちゃんにしか出来ない。岬も美和にしか出来ない。本当に良い時間でした。
澤多:僕としてはひとつ年下なんですけど、皆さん可愛がってくれて。眩しいって思うところも沢山ありました。集まった時にただただ楽しいし、カッコ良いって思えるところが多かったです。
酒井:普通に人見知りなので、初めましてなのにこれをやるの? っていうようなシーンが多くてソワソワしてました。駆け抜けられたのは監督はじめスタッフの皆さん、そしてこのキャストチームの醸し出す空気のおかげだったと思います。
横山:みんながどう思ってたかは分からないけど、本当に居心地が良かったです。安心して続けられた。初対面の人ってやっぱ身構えてしまうし、頑張ってしまう。最初に顔合わせとリハがあった時に、仲良くなれるか、撮影も短いし手前で終わっちゃうかどっちかなって思ったんですけど、本当にここまで仲良くなれるとは思ってもなかったです。
澤多:最初の顔合わせからまだ2ヶ月くらいしか経ってないのビックリします。
本田:続編やりたいのにみんな死んじゃった(笑)。
横山:エピソードゼロやりたい。バウワウチャンネル結成の秘話的な。

ーーーシタンダ監督の現場はとにかくチームが仲良くなる印象です。
澤多:監督のフラットさが本当に効いてると思います。
本田:本当に、周りをよく見れる人だと思います。1番しんどいはずなのに、周りに気を回してくれてケアしてくれる。NGの沼にハマったりしても、時間が許す限りは何回もやらせてくれるし、こっちが焦ったり思い詰めたりしても、落ち着かせてくれる。立ち回りが上手いなと思います。
横山:こんな怒涛のスケジュールなのに、1度も空気が悪くなってないのは凄いと思います。ほとんどリンタ君自身の人間的なところを知らない状態で、しかも同い年、こっちは映画もあまり慣れてない、初めて呼ばれた監督…どんな奴だろう? がやっぱり最初はあって、すごく変な人か、めちゃくちゃ真面目でストイック堅物系、どっちかなって思ってました。でも初対面の物腰の柔らかさがすごく良かった。僕が彼を好きになったのはそこです。周りを見てるってのもそうだけど、あまり人に嫌われる要素がないというか、“憎めない奴”的な素敵さがありました。ここまで続けられて、みんながまたやりたいって思う理由はそこだと思います。
酒井:現場はあんなに大変なのに、そう思わせてくれるのは凄いことだよね。
澤多:脚本も書いて、役者としても出て、編集もあって毎日打合せばっかりだし、僕だったらもっと視野が狭くなって、横柄になってしまっても仕方ないと思えちゃうけど、視野をグッと広げて、作品の内容も勿論だけど、何よりも現場のことを考えてくれてるのがやりやすかったです。
横山:真夏だし本当に全シーン体力も精神力もいる撮影だったけど、嫌な思い出がひとつもない、本当に楽しいだけの時間でした。
本田:現場は全くホラーじゃなかったよね。

作品情報
映画『ケース・バイ・ケース』
公開日:2024年8月24日(土)
監督・脚本・編集:シタンダリンタ
出演:横山奏夢 酒井美和 本田沙穏 澤多亮佑 丹生尋子 秋山咲紀子 築地美音 菅原一眞 清水皓太郎 末山紗大 朝尾羽音 倉増哲州 古味亜紀 四反田凜太 他
制作:PRACTICALLYA CINEMA

■あらすじ
高校からの友人同士でYouTuber活動を行う4人の若者たち。再生数が伸びない中、彼らは心霊スポットへ行き動画制作することを決める。しかし土壇場で、実際の心霊スポットへ行くことに億劫になった彼らはたまたま見つけたただの裏山を心霊スポットに見立てて撮影を行う。当たり前に何も起きず帰宅し、動画を投稿した彼らだったが、ある日その裏山が想像以上の“ヤバい”心霊スポットだという事実を知らされる。やがて彼らの日々に現れ始める恐怖。しかし裏山の噂は、友人が彼らへの嫌悪感(はたまた嫉妬心)ででっち上げた些細な嘘でしかなかった……
思ったよりも奥が深すぎる裏山、謎の発熱、白い布の暗示、止まない非通知電話、何かがおかしい新居、止まらない死の連鎖。他人のついた些細な嘘が、彼らの潜在的な恐怖心を呼び起こしては、抗いようのない想像以上の恐怖が襲いかかろうとしていた───

©case-by-case


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