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Beginning

2020.6.5
PM 8:56

親分が我が家に到着した。

コロナの影響は計り知れず、
横浜に住み、職場は都内となると
感染予防をしていても
保菌者と見られてしまい、
家族や友人にも中々簡単に会う事は
出来なくなってしまった。

そんな中、久しぶりに実家に戻る事を
仲間に伝えると、親分との予定を合わせ、
久しぶりの採集が実現する事になった。

車に乗り込み、お互いの近況を伝えながら
先ずは金色の甲冑を纏うミヤマクワガタを
探しに出掛けた。

車は坂道を登りながら、
時折樹液の出具合を確認する為に
車から降りてフラッシュライトで
照らすも、その影すら見当たらなかった。

樹液は枯渇しており、現れたとしても
小さなコクワガタぐらいかと、
溜息を一つ吐いた。

車はやがて山頂に辿り着き、
金色甲冑は諦めて下山する事にした。

車は坂道を下っていき、
本命採集に切り替える事にした。

先程の樹液の出方から
期待などまるでしないまま、
流れる車窓には大きな薄赤い丸い月が
浮かんでいた。

本日はストロベリームーンと
後程メディアで知る。

車を目的地まで走らせ、
停車させ、頭にはヘッドライトを装着し、
ラダーを担ぎながら少し生い茂った
藪を超えて向かう。

本命に出会えるのかどうか
不安を抱きつつ、肩に伸し掛かる
ラダーの重みを受けながら
一歩一歩樹液木に向かって行くと、
また採集地に戻ってきたのだと
一年前の記憶が呼び戻される。

1本の樹液木に近付き、
ドルクスが隠れる隙間を照らす。

今年も50mmを超えるコクワガタにも
目を光らせる為、隈なく探す。

大型コクワガタとは言えないが、
久しぶりの樹液採集に酔いしれる。

この樹には本命の姿は無く、
次なる樹を目指して歩いていく。

昨年吹き出していた樹液は
嘘のように鎮まり返り、
まだ早かったかと思いながら
藪を掻き分けながら進んでいく。

御神木と呼んでいる樹も樹液は
疎らであり、全ての樹液木を見尽くした後、
もう一度御神木に立ち寄る。

ラダーをそれに立て掛け、
他の樹に付いていないかと
フラッシュライトを1本1本樹に
当てていくと、目を疑った。

私は大声を上げ、親分に報せた。

親分は急いで私の下に走り寄り、
2人でゆっくりと歩いている
黒い物体を見上げた。

私は確信し、
親分に本命であると告げた。

本日は網を持たず、ラダーでも届かない
その位置の本命をどのように採集するか。

親分には落下した際に備え、
本命の真下に立ち、見上げた。

私はラダーを樹に接触するまで伸ばし、
勢いよくラダーを打ち付けた。

本命はcockroachの動きは見せず、
ゆっくりと動いている。

再びラダーを打ち付けた所、
本命は脚を竦め、引力のまま落下していくが
親分の頭の上の位置で翅を広げ、
一瞬落下速度が変わった。

飛んで逃げられるか。

不味い展開になるかと一瞬頭を過ったが、
本命は親分が待ち受ける位置に落下し、
それを拾い上げ、大声を上げた。

私はラダーを立て掛けて
親分の下に走り寄り、手渡された
それを見て肩を叩きあった。


内翅が仕舞われていない
大歯を手にし、久しぶりの樹液採集に
身体の中がゾワゾワと身震いする感覚が
突き抜けた。

アナログノギスで計測すると、


64mmはあるようだ。

親分と交代で本命を撮影し、
他に居ないかと探し歩いた。

低い位置にヒラタクワガタが
見えた為、親分に格闘して貰う。


程なくして掻き出した
ヒラタクワガタを手にし、


親分も樹液採集を満喫された。

2人気を良くしながら、
樹液採集最高と口にしつつ車に戻り、
汗だくの2人はコンビニで
ノンアルコールで祝杯を上げた。

汗をタオルで拭い、
本日の採集を回想しながら
ストロベリームーンの下で
2人笑顔で会話を連ねた。

身体をクールダウンさせ、
帰路を目指し、親分と再会を約束し、
右手を振った。 

2020年の採集の始まりが、
小学生の頃に採集したような
幹這いオオクワガタで懐かしい
思い出が再生され、
独りリビングでビールを片手に、
頭の中でループする映像を思い返していた。


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