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カルチャー・クラブ ツアー2024 ライヴレポート
1984年から今年で40年。現在イギリスに長期滞在中の私は、レジェンドアーティストたちによるコンサートに行くことに努めているのだが、ここイギリスではいくつかのバンドで”アルバムリリース40周年”を記念するライブが開催されている。
私は3つの”40周年記念ライブ”を観た。1つ目はニック・カーショウのアルバム『The Riddle』と『Human Racing』を記念した”The 1984 Tour”、そして2つ目は、ビッグ・カントリーのアルバム『Steeltown』を祝う”Return To Steeltown - 40th Anniversary Tour”。
そして3つ目が、今回レポートするカルチャー・クラブの”Celebrating The First Iconic Albums『Kissing To Be Clever』&『Colour By Numbers』”だ。
(※『Kissing To Be Clever』は1982年、『Colour By Numbers』は1983年にリリースされたため厳密には既に40周年を超えている。)
このツアーにはHeaven 17と元スパンダー・バレエのトニー・ハドリーがサポートアクトとして参加するという豪華さもまた魅力だ。
アイルランドはダブリンから始まり、その後イギリス国内9都市を巡る計10公演のこのツアー。2024年12月3日に始まり、15日に幕を閉じるという、短期日程だった。イギリス国内に居る身としては見逃せないライブだ。
私はご縁あってノッティンガムへ滞在する機会に恵まれた。2024年12月11日、同ツアーのノッティンガム公演を観に、「モーター・ポイント・アリーナ」へ向かった。普段ロンドンの汚くてうるさい街を歩く私としては、美しくて静かなノッティンガムの街並みに心洗われながら、会場を目指した。
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入口をくぐると早速物販コーナーが目に入る。
私は迷った挙句、ツアーTシャツを購入した。£40だった。
Tシャツに描かれているのはフロントマンのボーイ・ジョージと、ロイ・ヘイ、そしてマイキー・クレイグの3人。もちろん、元メンバーのジョン・モスは居ない。昨年、ジョン・モスから訴えられていたカルチャー・クラブが、バンド側が一部利益を支払うことにより、裁判前に落着したというニュースがあった。代わりにジョンはコンサート、グッズを含むバンドの利益を享受する権利を放棄することに同意。そういった事情が今回の商品にも垣間見れた。
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Heaven 17
開場から僅か30分で、Heaven 17によるサポートアクトが始まった。オーディエンスはまだ入場中でざわざわしている。オリジナルメンバーのマーティン・ウェアー率いるバックバンドによって社会派な一曲「Crushed by the Wheels of Industry」がスタート。追ってフロントマンのグレン・グレゴリーも登場し、歓声に包まれると「ハロー、ノッティンガム?みんなに会えてうれしいよ」と笑顔で挨拶してくれた。
2曲目もまた社会派な「(We Don't Need This) Fascist Groove Thang」。圧倒的な歌唱力の女性ヴォーカル二人組と変わらないグレンの歌声で、次々とダンサブルな名曲が披露された。
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あっという間にHeaven 17のラストナンバー「Temptation」。グレンが会場全体に立ち上がるよう煽る。1983年の代表曲であるが、1992年に再リリースされたハウスアレンジの「Brothers in Rhythm Remix」バージョンだった。
グレンが歌詞のひとこと目「I've never been closer」を歌い、オーディエンスへ続くように促すと、客席からは「I tried to understand」と大合唱でレスポンス。マーティンとグレンは「Yeah, brilliant!」と嬉しそうに反応。印象的なキャロル・ケニオンのパートでは、バッキング・ヴォーカルによる迫力ある歌唱が観客を魅了した。このラストナンバーによって、それまでの開場時間の延長のような一種の気の抜けた空気から、一気にオーディエンスに一体感が生まれたように感じた。会場を温めるというHeaven 17による任務が果たされた瞬間だった。そんな任務を果たさせるには豪華過ぎるバンドであることは書き添えておきたい。
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Heaven 17 セットリスト
1, Crushed by the Wheels of Industry
2, (We Don't Need This) Fascist Groove Thang
3, Come Live With Me
4, Let Me Go
5, Penthouse and Pavement
6, Temptation
トニー・ハドリー
サポートアクトの二組目は元スパンダー・バレエのヴォーカリスト、トニー・ハドリー。トニーが登場すると一斉に歓声が上がるのだった。スーツ姿に首元はスカーフでとてもエレガント。昔から変わらない彼のファッションが嬉しかった。一曲目、スパンダー・バレエのデビュー・シングル「To Cut a Long Story Short」はオリジナルよりも僅かにゆったりなテンポで、トニーの伸びやかな歌声が映える演奏となっていた。その声もまた、昔とまるで変わらないのだった。
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冒頭からアップテンポなナンバーが続いたのち、トニーは「素敵な赤い椅子がある」と座り、「次はスパンダー・バレエで私のお気に入りの曲。そしてこれはジン。」と片手にグラスを持ちながら、バラード「Through the Barricade」を歌い上げた。
そして「True」の前奏が始まると、会場はどよめき、名曲が聴けるという高揚感に包まれた。サビの「I know this much is true」でしゃくりあげる歌い方も健在。
「I bought a ticket to the world」とトニーが歌うと、会場は「But now I've come back again」と大合唱。よく考えれば至極当然な状況ではあるが、この曲がいかにポピュラーであるかを実感し、じんわりと心が温められた。
名残惜しくもラストナンバーの「Gold」。「Nothing left to make me feel small/Luck has left me standing so tall」を歌い上げるとトニーは「ARE YOU READY??」と絶叫。会場は最高潮に盛り上がる中、トニーは「Gold」を熱唱。ヴォーカリストとしての実力を見せつけるステージだった。
この日披露した曲はオール・スパンダー・バレエ楽曲。トニーが帰ってくるまでスパンダー・バレエは活動を休止すると発表されてから早5年。オリジナルメンバー5人による演奏がまた観られる日は来るのだろうか。
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トニー・ハドリー セットリスト
1, To Cut a Long Story Short
2, Highly Strung
3,Only When You Leave
4,Through the Barricades
5,Chant No. 1 (I Don't Need This Pressure On)
6,Lifeline
7,True
8,Gold
カルチャー・クラブ
いよいよカルチャークラブの出番が控える中、場内SEではデュラン・デュランの「Girls On Film」、デッド・オア・アライヴの「You Spin Me Round」等々、華やかな80年代楽曲がかけられていた。中でもデキシーズ・ミッドナイト・ランナーズの「Come On Eileen」が流れると、来場者は大合唱。80年代当時に青春時代を過ごしてきたであろう世代が大半を占める客層なのもあり、この曲が圧倒的支持を得ているという事実を目の当たりにした。
会場が暗くなり、スクリーンには緊迫感漂うBGMと共に、およそ70年代から80年代頃であろう映像の数々が連続的に投影された。中でも個人的に嬉しかったのはスレイドのノディ・ホルダーやスウィートのブライアン・コノリーの映像がほんの1秒間ずつ映し出されたということ。グラム・ロックがカルチャー・クラブに影響を与えたということを表現したかったのだろうか。その他、マドンナやマイケル・ジャクソン等、時代を前後しながらアーティストたちの映像が映されていった。
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気が付けば、ステージ後方の壇上にはイギリスらしい赤い電話ボックスがせり上がり、バッキング・ヴォーカリストたちが回りを囲んだ。
ステージ前方にはロイとマイキーが上手と下手からそれぞれ登場。中央で笑顔でハイタッチすると、いよいよアルバム『Kissing To Be Clever』より一曲目、「White Boy」の前奏が始まった。電話ボックスが開くとボーイ・ジョージが登場。大きな歓声が上がる中、ジョージとバックコーラスがユニゾンで歌い始めた。
同アルバムからは、近年演奏していなかったレアな楽曲が次々に披露された。
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ボーイ・ジョージはMCでサポートアクトの二組について、こんな話をしてくれた。
「私とトニーが初めて会ったのは、私がウォーレン・ストリートのスクワット(不法占拠された建物)に居たときで、スパンダー・バレエがやってきたんだ。彼らは写真撮影に来たんだけど、(声色を変えて)”ファビュラス”だった。タータンの衣装に身を包み、とっても若くて、ゴージャスだった。私はバルコニー越しに彼らを眺めながら思った。”あいつら、何様のつもり?”ってね。だって、みんなポップスターになりたがっていたし、いつだって一番になりたかったからね。残念ながら彼らに先を越されてしまったけど。でも、こうして今回トニーが私たちと一緒にツアーを回ってくれて、本当に楽しいよ。」
「そして、Heaven 17だけど、彼らのことも見に行ったよ。1980年頃、マーティンがヒューマン・リーグに居るとき、ライセイム劇場まで見に行った。楽器を使わないバンドを観たのはその時が初めてだったから、とっても革新的だった。すべてがコンピュータで、現代的だったし、時代を先取りしていたよ。」
「だから、みんなは今夜レジェンドたちと同じ場にいるんだよ、ハハ!」
ボーイ・ジョージがスパンダー・バレエを敵対視していたエピソードが興味深い。「ファビュラス」と持ち上げておいて、「何様のつもり?」と毒づくあたりも、彼らしい楽しいMCだった。
また、自分たちのバンドについても語ってくれた。
「私たちは最終的にカルチャー・クラブと名乗るようになったんだ。それぞれのキャラクターをミックスさせようと考えたんだ。ロイはエセックス出身だし、マイキーはハマースミス出身だけどジャマイカにルーツがあるし、ジョン・モスはロンドン北部のとってもお金持ちでジュ―イッシュ。そして、私は南ロンドンの”ビッグ・アイリッシュ・クイーン”だったから。ハハ!」
その他、MCではニュー・ロマンティック・ムーブメントのきかっけを作ったと言われているブリッツ・クラブ(Blitz Kids)についても言及された。ボーイ・ジョージがクローク係として働き、ほんの一時期Bow Wow Wowに在籍時、演奏していた場所でもある。「Take Controll」の演奏では背景のスクリーンに”BLITZ”の文字が大きく表示。今回の物販にも「Blitz Kid」と刺繍された帽子が販売されていた訳がよくわかった。
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Bow Wow Wowにサウンドの影響を受け、レコーディングはしたもののお蔵入りとなった曲「Kissing 2 Be Clever」も披露された。
アルバム『Kissing To Be Clever』をフィーチャーしたコンサートの第一部を締めくくったのは、「Do You Really Want to Hurt Me」。大きな歓声が会場を包みこんだ。
曲が終わると、暗転し再びスクリーンには、すっかり有名になった後の彼らのインタビュー映像が映し出された。
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第二部『Colour By Numbers』の幕開けは「Church of the Poison Mind」。メンバー3人は衣装替えをして再び登場した。
「Miss Me Blind」では”ジャポニズム”なあのミュージック・ビデオを思わせる日本語の数々が背景のスクリーンに投影されているのが面白い。
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続いて、ロイがグランドピアノに座るとジャジーな一曲「Changing Every Day」や「Black Money」「Colour by Numbers」などのしっとりしたナンバーが続いた。ジョージが「次の曲は私のビューティフルなママに捧げます。」と言い、歌い始めたのは「That's the Way (I'm Only Trying to Help You)」。ヘレン・テリーのパートはバック・ヴォーカリストのパワフルな歌声でカバーされた。
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さらにロイはピアノを弾き続ける。「Victims」の前奏が始まると、ジョージはいつの間にか後方の壇上に立っており、シルクハットと黒いマントを身に着け歌い始めた。歌も演出も壮大!曲が終わると出演者は全員はけてしまった。
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会場が歓声を上げながら待機していると、ロイとマイキーが再び登場した。
マイキーは「ノッティンガム、みんなもMusic Loverなのかな?私たちにとってとても特別な夜だよ。そしてUKで演奏するのが大好きだよ。これまで演奏してこなかった曲もこうして披露する経験はとてもユニーク。みんなにシェアできて素晴らしい。今日は来てくれて本当にありがとう。」と語った。
ロイは「ハロー、ノッティンガム。どうだったかな?カルチャー・クラブの一員としてこれらの曲を演奏することはとてもカタルシスな経験だよ。」と一言挨拶をした後、続けて次のように語った。
「次に演奏する曲は、アルバム2枚組セットに入れることを考えていたんだ。でも、アメリカに居る誰かが良いアイデアを持っていて、『Kissing To Be Clever』の最後の曲として収録すればいいって気づいたんだ。実際アメリカ版のそのアルバムには収録されたんだよ。その曲は”Time”」
観客からの歓声に包まれながら、ボーイ・ジョージも登場し、アンコール「Time (Clock of the Heart)」が始まった。
さらにアンコールは続く。「10歳のとき、グラムロックを発見したんだ。そして、自分の人生の見方が変わったんだ。」とジョージからで紹介され始まったのはT.REXの「Get It On」。ショーのオープニングでスレイドとスウィートの映像が流れたことからも窺えるように、ジョージが70年代のグラムロックから影響を受けていることが明確に示された。
そして締めくくりは代表曲「Karma Chameleon」。観客は総立ちで、この曲からのエネルギーを一身に浴びた。
「みんなありがとう!美しいクリスマスを過ごしてね!みんなが大好きだよ。」と言葉を残して、ボーイ・ジョージは先にステージを後にしたのだった。
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素晴らしい夜だった。
ボーイ・ジョージの存在があまりにも大きすぎるバンドではあるが、ロイもマイキーも数々の名作を世に生み出してきた一員であり、40年を共にしてきた仲間なのだと、演奏する姿から窺えた。
アイルランドとイギリスでのみ行われた今回のツアー。バンドのホームであるファンたちの愛があってこそ、彼らの演奏する場所が今もあり、このアイコニックなアルバム2枚を盛大にお祝いすることができたのだろうと思う。
もう一つ言及すべきは、カルチャー・クラブのボーイ・ジョージ、元スパンダー・バレエのトニー・ハドリー、Heaven 17のグレン・グレゴリーは、ちょうど40年前、1984年12月にリリースされたバンド・エイドの「Do They Know It's Christmas」にヴォーカルとして参加しているということだ。イギリスの音楽史に名を刻んだ3名が、40年の時を経て一堂を介しているという点は非常に感慨深いものがあった。
会場敷地から出てすぐのところに何やら大声で叫ぶ男性が3人それぞれ立っていた。よく見ると海賊版Tシャツの売り子であった。
ブルーシートを敷いた上に雑然と商品を置き、「どのサイズでも一つ£10だよ!」と堂々と呼び込みをしていた。
当然買いはしなかったが、こういった違法ビジネスが寄ってくるあたりも、カルチャー・クラブの現在の人気ぶりを理解するのに役立つように感じる。
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私はモーター・ポイントアリーナを後にした。厳しい夜風が身体に強く吹き付けてきた。
カルチャー・クラブ セットリスト
1, White Boy
2, I'm Afraid of Me
3, Take Control
4, You Know I'm Not Crazy
5. Boy, Boy, (I'm the Boy)
6. White Boys Can't Control It
7, I'll Tumble 4 Ya
8, Kissing 2 Be Clever
9. Love Twist
10, Do You Really Want to Hurt Me
11, Church of the Poison Mind
12, It's a Miracle
13. Mister Man
14, Miss Me Blind
15, Stormkeeper
16, Changing Every Day
17, Black Money
17, Colour by Numbers
18, That's the Way (I'm Only Trying to Help You)
19,Victims
(アンコール)
20, Time (Clock of the Heart)
21, Get It On(T. Rex)
22, Karma Chameleon
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