豪華絢爛・濃厚ヴィジュアル~「ダイナー」
友人たちとよく、好きな作家や本の話をする。
平山夢明という作家をおススメされて知り、「ダイナー」を読んでその世界観に夢中になった。
相当エグい内容だとは聞いていたが想像以上で、冒頭を読み始めてすぐに「食後じゃなくて良かったー」と思ったほどだ。
ダイナーの舞台は、殺し屋専用の食堂。
イメージするだけで鳥肌が立ちそうな残酷な描写と、香りが脳まで届くような美食の描写が交互に訪れる、(原作は)「吐き気と食欲を同時にもよおす」という稀有な物語だ。
その、殺し屋たちの悲哀と、主人公であるオオバカナコの「大莫迦な子」の心情に深く共感した。
映画化は、大好きな写真家である蜷川実花がメガホンをとるということで期待が高まりまくり、心待ちにして意気込んで、公開初日に観に行ってきた。
結果、映画版ダイナーは、蜷川実花テイスト満載の映画だった。
大胆で鮮やかな色使い、細部までにわたる小物使い、美しい俳優陣、凝った衣装とメイク、絵になる描写……
ダイナーの壁には横尾忠則、フラワーディレクションは東信、主題歌はDAOKOとMIYAVI。
俳優は、全員が主役級。
どのシーンも、ビジュアル的に素晴らしく、蜷川実花の写真の世界が動いている、という感じがする。
アートな映像作品としては、そりゃもう素晴らしい内容だった。
一方ストーリーの方はというと、映画の尺と残虐な内容に配慮した結果か、たるんだ腹を持つオオバカナコは美少女になり、殺し屋たちの生い立ちの闇は薄れるなど、特徴的なキャラを格好よくして明るい内容に。
他人も自分も信じられなくなった居場所のない女の子が、居場所を見つけていく…という、かなり現代的でわかりやすいテーマになっていた。
これはこれで好きな人がたくさんいるんだろうなと思いつつ、原作の、身が縮むような緊張感や心の闇、やるせなさが映画には無かった。
(特に、キッドが好きだっただけに、単なる殺人好きのイカレた男の子みたいなキャラクターになっていてショック…)
※俳優さんは好きです
原作そのままの描写は映像化が難しいんだろうなとは理解しつつ、自分が小説で惹かれた根幹部分がごっそりなかったので、ショックが数日続くくらい落胆した。
そこで気づかされたのは、
私は、暗闇に癒されていたんだなということ。
(原作に出てくる)救いようのない物語や、どうしようもない登場人物たちを見て、安堵や癒しを得ていたのだ。
※自分と比較してとか共感してということではなく、もっと根本的な部分で。
(逆に映画は)残酷描写が苦手でも見られる内容。
小説と映画は、登場人物やストーリーの大枠は同じであるものの、作品としてのテーマや方向性は全く違うので、別作品として捉えるのが良いかもしれない。
<Spark Joy!>
★横尾忠則のアート。セットとも合っていて素晴らしかった。
(横尾忠則が大好きで、絵はもちろん、滝の写真の展示も観に行ったことある)
★東信のフラワーデコレーション。写真集持っています。超絶美しいです。
★俳優のビジュアルの完成度が高い。衣装も綺麗。
★料理。特にスフレの描写はこだわったんだろうなーというのが伝わってくる。
<Please!>
★金庫の鍵とかボトルの隠し場所とか、さすがに無理があるのでは。
(「開いちゃいました…」とか、演劇だったら場を温めるネタになった可能性もあるが)
★ボスの肖像画、フィギュアなど、仕込んだネタは好みが分かれそう。
個人的には、ネタを見るたびに物語から現実に戻ってしまって、集中できなかった。
分かる人にはわかるネタとか、お笑いとシリアスの合間とか、曖昧なところの見せ方って難しい。
<ダイナー>
監督 蜷川実花
原作 平山夢明
脚本 後藤ひろひと 杉山嘉一
音楽 大沢伸一
キャスト 藤原竜也 玉城ティナ 窪田正孝 本郷奏多