半歩進む勇気をくれる「バースデーワンダーランド」
予測しないタイミングで知り合いと一緒に電車に乗るのが苦手、なときがある。
一緒にご飯を食べるのも、おうちに遊びに行くのも楽しいし盛り上がるのに、ふと同じ電車に乗り合わせたときに「あ……」ってなる、宙に浮いた空白がなんとなく居心地が悪い。
フィットするときはいくらでも側にいられるのに、ぼんやりとした居心地の悪さを感じてしまうと、無性に一人になりたくなる。
だからといって人付き合いが嫌いなわけではなく、むしろ好きな方だと思う。社交的なのか孤独が好きなのか、他者との距離感が自分でもよくわからないまま現在に至る。
だから、映画館にはたいてい一人で行く。映画は一人で観るものだ、というこだわりはなくて、なんとなく気が楽だから一人で行く。
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映画「バースデー・ワンダーランド」の評判を目にしたのはTwitterだ。
「すごく良かったけど客席がガラガラ」
「まったく知らなかったけど、見に行ったら面白かった。お客さんが少なくてもったいない」
「良いのに・ガラガラ」という言葉が妙に気になった。
数年ぶりに出かけた文学フリマでは「バースデーワンダーランド非公式ガイドブック」なるものを無償で配布している方に出会った。その労力と情熱、すごくない!?と、やはり気になった。
ふと出先で3時間弱の空き時間ができたときに「あ、そういえば」と思って映画館を検索したら、ちょうど近くの映画館でまさに20分後くらいに上映開始というタイミングだった。
薄い偶然が何度か重なると、何だかご縁のように感じてしまう。
なんの予備知識もなく見た「バースデー・ワンダーランド」は、そんな「薄さ」がアツい映画だった。
アカネという少女が、異世界を救うために色を失いつつあるワンダーランドに向かい、色を取り戻しに行くというストーリー。
一見すると感動ものなんだが、従来の感動ものとは一味違う。
距離があるのだ。
・アカネは、仲間外れにされている友人が気になりつつ、関わりたくなくて学校をずる休みする。
・おせっかいでぐいぐいハグしてくる叔母を煙たがる。
・ワンダーランドの大賢者に「世界を救って」と言われても「えー、行かない」とノリが悪い。
あまりのノリの悪さに、賢者は「前に進む錨のネックレス」をアカネにつける。
そのネックレスに引っ張られて、半ば無理やりワンダーランドに連れていかれるアカネ。
ヒロインにやる気がない。
かといってアカネは冷たいわけではなく、困っている住人の話を聞いたり、できる範囲で助けようとはする。
そうして悪役と対峙するのだが、この悪役も「自分の役割がこわくなって目をそむけ続けたら悪い奴になっちゃった」というヘタレで、ある意味アカネの鏡のような存在だ。
そんな悪役を見てアカネは「こわかったんだね」と言う。
その言葉が、すべてのこわばりを解く鍵になる。
バースデーワンダーランドは、一歩を踏み出すのがこわいと思うもの同士が半歩ずつ進んで出会い、奇跡を起こす物語だ。
壮大な勇者の冒険は勇気をもらえるが、時に「自分とは別の世界の物語だ」と感じてしまう。
しかし、この映画がくれるのは、「半歩だけ進んだらいいことあるかも」と思えるような、日常に染み込む水のような優しい勇気だった。
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<Spark Joy!>
↑ときめきのお片付けを提唱する、こんまりさんの決め台詞を使ってみた…
「色」と「水」は両方とも生命の源。
この映画が「ちょっとだけ前に進むこと」をテーマにしているのなら、他者や世間に距離を持ちすぎて関係が薄くなることが、「命が失われていく」こととリンクしている。
とても身近なテーマを、色という美しい世界で表現してみせたのが素晴らしい!
<Please!>
★映画の開始時間は当然サイトに記載されているが「終了時間」が書いてないことが多くて、とても困る…。
お芝居等もそうだけれど、開始だけではなくて終了時間も一目でわかるように記載してほしい。
次の予定や帰りの電車など、終了時間がわからないと困ることがたくさんある。
★感想を書くときに「バースデーワンダーランド」なのか「バースデー・ワンダーランド」なのか、中黒あるなしがわかりにくい。
(公式のチラシは中黒なしだけれど、Twitterの公式アカウントは中黒がある)
細かくてスマン…!と思うが、こういう表記ズレで口コミが分散してしまったらもったいないと思うので、公式自らどんどんハッシュタグを推奨してほしい。
<バースデーワンダーランド>
公式サイト
監督 原恵一
キャラクターデザイン イリヤ・クブシノブ
キャスト 松岡茉優、杏、麻生久美子、東山奈央、市村正親