美容師の彼
私は、男に会いに行く前に
必ず美容院に行って丁寧に髪を洗ってもらう
キレイにブローしてもらう
恋人も、お店のお客さんも
女風のセラピストの場合も
男に会う前は必ず
美容院行って
自分に魔法の粉をふりかける
表参道にお気に入りの美容師さんがいて
20年ぶりに彼を予約した
シャンプー、ブローが、凄く上手で
ブローの時ブラシ1本で作り上げてくれる
私は都内から引っ越してしまったので
風俗辞めてから彼には会っていなかった
風俗で働いてた頃
仕事に行く前に朝一番で
シャンプーブローに行ってた
風俗のお店の店長から
「そんなふうに気を使ってくれる子は
Rinoさんだけだよ」
と言われた
1人目のお客さんで髪はグシャグシャに
なっちゃうし
シャワー浴びるから湯気で
化粧も全部落ちちゃって
はたから見たら意味ないんだけど
一応 これから会う男への礼儀として
キレイにしていきたい
と思ってるの
下着もドレスもヒールも
全部ね
予約の電話を入れたら私の担当だった彼が
体調を崩して今休んだり、早退したりだから
予約が取れるか
分からないと言う
20年経っても同じ店にいたんだ
やっぱり
と嬉しくなる
普通サッサと独立するとか
じゃない?
美容師さんの男の子だったら
彼はオカマじゃないけど
全然男っぽくなくて
ガンガン前に出るタイプでもなくて
体育会系のカッコいいお兄さん達とは
正反対で
キリンみたいに大人しそうだけど
芯は強くて
しなやかな常識人
仕事キッチリちゃんとやるタイプ
野心はない
女好きでもない
非常に中性的な不思議な人
だから変に意識することもなく
凄く楽だった
シャンプーも、凄く長い時間やってくれる
男の手の大きさと指圧の強さ加減が
本当に気持ちよくて
幸せに包まれる
シャンプー、ブローで
頭を触られてると
大体私は寝てしまって椅子から
落ちそうになって(笑)
目が覚める
「予約したいのは、来週の土曜日なんです。
それまでに、治してって
木村さんに伝えてください」
「はい。でも、あのー体調が分からないんで
一応伝えますが、あのー」
「大丈夫、治る治る その日だけ
治してくださいって伝えてください」
自分勝手なS全開の私
私の予約の時間だけ出て来てって
伝えてください
どこまでも空気を読まない
利己主義満点の私
木村さんがいないと
困るのよ
その後、男に会う予定だから
そんなこと言えないけど
伝えますけど 約束はできません
と言う新人君の言葉を思い出しながら
美容院のドアを開ける
髪を縛って白いシャツを着た木村さんが
笑っていた
木村さん!大丈夫なの?
大丈夫じゃないです
あっそ
木村さん私達20年ぶりよ
あー20年ですか
いくつになった?
僕ですか?
43です
ニコニコ笑う
電話したら、新人の男の子が
木村さん、ちょっと体調不良で...って
言ってたけど
私の予約の日には治るから大丈夫って
言ったのよ
あ 聞きました
治るわけないじゃないですか
と真面目に言ってて笑っちゃった
貴方が今ここにいてくれるだけで
じゅうぶん幸せよ
シャンプー行きますか?
温かな大きな手が私を包み込む
ゆっくり圧をかけながら
時間をかけてヘッドスパみたいな
シャンプーしてくれる
この人のシャンプーが一番好き
なんだろう 彼の掌から
愛情やエネルギーが私の中に入ってくる
セックスと一緒 丁寧に扱われている
優しく愛されてる
大事にされている
そんなかんじ
ブローされてると
私は又寝てしまい椅子から落ちそうになり
あ 思い出しました
よく落ちそうになってましたよね
と彼が笑った
仕上げどうしますか?
巻いていいですか?
ブラシ一本で仕上げていく
コテは使わない
仕上がりの私の髪を触りながら
木村さんはニコニコ笑う
どうですか?
良いかんじですよね
わあキレイになった
ありがとう
私貴方がいないとダメなの
木村さんじゃなきゃダメなの
これから又よろしくね
雨降りそう?
早めに行くね
この後すぐにベッドでグシャグシャに
なっちゃうことは
勿論知らない
汗かかないでくださいね
私を見送りながら木村さんが笑う