春ギター【毎週ショートショート】
部屋の中にぽつんと置かれたギターは、何も語らない。
私はそのギターを『春ギター』を呼んでいた。
春のように柔らかな音色を奏でてくれた彼は、
今はもうここにはいない。
「そんなに好きなら、このギターあげるよ」
といってふわっと笑った彼はいつもそんな調子で何にも固執することがなかった。
生きている意味ってなんだろう?
やろうと思えばなんだって器用にこなす彼は、何一つやりたいことを見つけられずにぼんやりと春の中に佇んでいるかのようで、口癖のようにそう呟いた。
ー生きてる、って実感が欲しいんだ。
彼は今頃、小さくてボロボロのアコギギターを背負って東南アジアを旅している。
英語圏でもない小さな村の、貧しい子供達に生きる喜びを与えたいのだ、と言った彼自身もまた、そうすることで生きがいを感じるのだろう。
私が欲しいのは、これじゃなかったのに。
私は春ギターを抱きしめると、弦を鳴らしてみた。
初心者にも簡単だよ、と言われて、
ワンフレーズだけ教えてもらったこの曲。
何もない部屋に春ギターの音だけが響き渡り、
微かな歌声が淡い青空に溶けていく。
新緑が窓の向こうでそよいで、
もうすぐ次の季節がくることを教えてくれていた。
(491字)
🎸まくらさんに主題歌を弾き語ってもらいました🎵カッコイイ〜(*ノωノ)💕
✖️
素敵なコラボをありがとうございます(。 •ω•)。´_ _))