電球志願者
歪んだガラス越しにお菊さんを見ていたのは、一人の学者でありました。ちょうど新しい電球の試験をしているところで、フィラメントがジジジジと音を立てながら光りました。お菊さんはその明かりに照らされて、初めてあの学者が女の人であったことを知りました。
「電球志願者というのは、あなたのことですか」
クリップボードを持った秘書が、お菊さんの髪をそっと撫でました。くすぐったいような、懐かしいような、妙な気分です。
「あなたのような可愛らしいお嬢さんが電球になられるなんて、なんだか勿体無いような気がいたしますね」
「あら、そう。わたしなんかどうせ電球になる運命なんだもの、もっと早くても良かったくらいだわ」
お菊さんはそう言って、冷たい金属の寝台にゴロンと寝返りをうちました。学者の女の人は笑って言いました。
「そうですか? まあそれがあなた様のご希望なら……」
お菊さんはもう一度、ゴロンと転がりました。なんだか急に眠たくなったのです。けれど眠気に負けてはいけないような気もしましたので、ゴロンゴロンしました。でも今眠ってしまったら、とても楽しい夢が見られそうな気がするのです。お菊さんはゴロンと寝返りをうって、学者の女の人に「電球になる」と言いました。すると学者の女の人は嬉しそうな顔をして、
「ありがとうございます」
とお礼を言うのです。それから秘書に向かって、では早速手続きをするように言いつけました。秘書がお菊さんの目の前に書類を広げますと、びっくりするようなことばかり書いてあるではありませんか!
「そんなこと、聞いてない」
そう言うまもなく、彼女の白い肌は、いつしか電極のおかげで光り輝いていました。