短編小説:私の秘密
こないだ、宝石を購入した。
なにかって?
それはエメラルド。
かつて、古代インドの人たちは鉱物を生き物として捉えていた。
元素が地球の熱と圧力により混ざり合ってできた奇跡の結晶。
それに命が宿るとされてきたのだ。
もし生き物で、鉱物は鉱物の時間を生きているのだとしたら
それを身に着けることで私たちにいろんな効果をもたらしても不思議じゃないわよね。
ってわけで、私、ちょっと高かったけど買ってしまったのよ。
というわけで、宝石を眺めているの。
エメラルドは初対面の彼女に少し突っ張っているようだった。
「はじめまして」
彼女はエメラルドをじっと見る。
「まあ、初対面ならこんなものよね」
「大丈夫よ。あなたの長い長い永遠の時、ほんの一瞬の時かもしれないけど、私といて頂戴ね」
「大丈夫。無下にはしないわ」
「これから、よろしくね」
なんだかエメラルドの濃い緑色が落ち着いたように感じた。
宝石は言葉を持たない。
会話する方法はただ一つ。
じっと見つめること。
自分の何かが宝石のそれに手を伸ばし、宝石は悠久の時間の中でそれを映す。
真実味のあるそれは、実は宝石に共鳴した自分自身と会話してるのかもしれない。
宝石は言葉を持たない。
ゆえに言葉を持つ。
それは音楽に近いかもしれない。
言葉にするなら共鳴。
それが彼らと私たちが唯一会話できる手段なのだ。
私はじっと見る。
そのベリルという鉱物は微量のクロムやバナジウムを含みその絶妙なバランスで宝石の色を作っていた。
地球中心の熱い熱はいまだに冷めぬ。
地球の圧力はいまだにやまぬ。
命って要するに奇跡だと思う。
それが命だと思う。
つまり
「君、みつけた」