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#14 強制執行と謎の解明

明け渡し裁判は半年ほど続いた。その間もフォーシーズ(家賃保証会社)が家賃を保証してくれたので助かった。

時々、弁護士事務所から進捗の手紙が来た。結局、入居者は一度も出廷する事なく判決までいき、勝訴した。

強制執行の日が決まり、当日の朝10時に物件で待ち合わせとなった。

当日、物件に行くと防弾チョッキを着た男の人とスーツ姿の男性が居た。この2人はフォーシーズの現場担当者と名古屋支店長だ。

支店長は長身の男性で30代くらいであろうか。スーツを着こなし颯爽とした風を纏っている。

出来る男のオーラが漂っており、そのあまりの風の強さゆえに立って居るのがやっとだった、と野次馬でついて来た父と妹は語った。

しばらくして執行官と助手がやって来た。こちらはいい感じにくたびれたおじさんコンビだ。

物件には車も無いし、留守のようだ。

執行官が呼び鈴を鳴らすが応答はない。

「今日裁判所から強制執行がある知らせは行ってると思うんですが。」と執行官が言う。

私が「ウチはセカンドハウスとして借りていて、普段住んでいるのは裏手の家みたいです。」と伝えると、

「近くならそっち行ってみましょう。」と執行官が言い、裏手の家に行った。

だが、もぬけの殻だ。

私が数ヶ月前にここに来た時には生活感で溢れていたのに、今はすっかり空き家になっている。

どう見ても空き家だが、執行官は一応玄関をノックしながら「〇〇さん、いらっしゃいますか。裁判所から来ました。」と言うが応答はない。

「夜逃げしましたかね。」と執行官が言い、私が貸している物件へと戻った。

執行官が今度は私の物件の玄関をノックしながら「〇〇さん、いらっしゃいますか?強制執行で立ち入ります。」と言った。

支店長が「オーナーさん、鍵を開けて下さい。」と言い、私は玄関の鍵を開けた。

防弾チョッキの男が先陣をきって中に突入する。

夜逃げの様子は、ない。それどころか、結構いい生活をしている。

観葉植物があちこちに飾られ、畳の部屋にはフローリング調のシートが敷かれて洋室化されている。

壁にはJESUS CHRIST(ジーザス キリスト)の文字が掲げられ、こちらのオーマイゴットな状況を見下ろしている。

コロナ禍だが、縁側にはランニングマシンとシューズが置かれており、おウチ時間を満喫している。

猫のトイレやキャットタワーもあるが、猫の気配はない。

やはり執行日は分かっていて、猫を連れて逃げたのか?

キッチンの机の上には果物やパンが置いてあり、冷蔵庫は2つもある。

「こりゃあ物が多いな。今日はあるものを記録して、強制執行日を改めて決めて張り紙をして帰ります。」と執行官が言い、助手と一緒に家の中の物を記録し始める。


執行官が、冷蔵庫にマグネットで貼られていた電気料金の請求書を見つけて、「ジャクソンさんという方は入居者リストにありましたか?」と支店長に聞く。

支店長は「そのような名前は入居者リストにはありませんね。」と答える。

私が「最初の契約の時に親戚の人も住むような事を言っていたので、親戚かも知れません。」と伝えた。

私は、ある物に目を奪われて見ていた。ソフトバンクAirが、百均のプラカゴの中に収まって柱の上の方に固定されている。

なるほどこれが本当のソフトバンク・エアーか、と感心して見ていると、支店長もある物を見付けた。

500円玉貯金箱である。冷蔵庫の上に置かれており、透明なので中身が見えるのだが数万円分はある。

執行官に「今日これ持って帰ったらダメですか?」と聞いていたが、「今日は記録だけなのでダメです。」と言われ、渋々冷蔵庫の上に戻した。

外で防弾チョッキが家の向かいに住むお爺さんと話をしている。

「ここの家の外人さんは朝7時くらいに出て行って、夕方5時頃に帰ってくるよ。」と情報をくれる。

このお爺さんはよく外に立っているのだが、忍びの末裔か何かであろうか?諜報の才覚がある。

執行官が玄関扉の内側に張り紙をして、次の執行日を決めて、また鍵を閉め直して退室した。


2日後の夜に動きがあった。支店長から電話が来た。

「オーナー様、あの物件ですが入居者のフィリピン人がブラジル人のジャクソンさんに又貸ししていました。賃貸借契約書も交わしてます。ジャクソンさんはフィリピン人が大家だと思い毎月家賃を振り込んでいました。今日のお昼にジャクソンさんと面談して、賃貸借契約書と通帳を確認しました。オーナー様と直接契約したいと言っています。」と言われた。

この衝撃をどう伝えたら良いだろう。店子(たなこ:賃借人)に店子が居たのだ。私からしたら店孫である。


ある日突然、孫だと名乗る人物が現れたら誰でも驚くであろう。それぐらいの衝撃だ。


どうりで家賃滞納するぐらい困窮しているはずなのに、ウォッシュレットを付けていいかと聞いてきたり、やたらQOL(生活の質)が高そうな室内だったわけだ。

ウォッシュレット、入居者リストにない名前、500円玉貯金、宙に浮いたソフトバンクエアー、、そうか!これで全ての点と点が一つの線で繋がった!とコナン君の名ゼリフを言ってみたくなる。


だが1つ解せないのは、猫が居なかった点だ。ジャクソンさんは執行日も知らなかったし、猫を連れて逃げる必要はないではないか!

だが、居たのである。物音ひとつ鳴き声ひとつ上げなかったが、猫はベッドの下に居たらしい。

ジャクソンさんはめちゃくちゃ大人しくて怖がりの猫を飼っていたのだ。


次回、メシアとの賃貸借契約


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