あるモンクの話すこと
ことの発端
その日はね、パーティを組んでる仲間と武具屋に来てたんだよ。
エルマーはパラディンだし、グレイタもレンジャーだろ?ジャハナはバーバリアンだから防具には興味なさそうだったけど、武器はやっぱ気になるみたいでさ。みんなわりかし興味津々だった。
とくに熱心だったのはドルイドのシルワで、店内がマジックアイテムだらけだ〜ってきょろきょろしてたな。
おれ?ウルフ触ってた。
いや、だってさ〜、武具屋ってモンクにとっちゃあ暇なものなんだよ。
おれの武器は拳で、使っても短剣くらいかな、武具に頼らないのがモンクってもので〜〜・・・
って、ウルフに話しかけて遊んでたよ。
は???誰が少年みたいだ、だ。こちとら26歳だっつの。おい、童顔って言うな。
ん?ウルフはおとなしかったよ。
あーーー、このウルフはな、シルワが手懐けたんだ。アニマル・フレンドシップで。
つまり敵だったってこと。それがこーーーんな・・・しかもいつの間にかポチだなんて名前をつけられてまあって感じ。
でね、店主がそれはもう丹念に磨き上げている甲冑があったんだよ。
曰く、高値で売れる!とか、貴族のお坊ちゃんが気に入ってるとか、屋敷に飾りたがっているとか。
他にもいろいろ言っていたけれど、ようは大きな商談が進んで嬉しいって話だ。
約束の時間を過ぎているらしくて、まだかなーとウキウキしてた。
かわいそうに、シルワは客でありながら延々と店主の話を聞かされていて、仲間も呆れきってたよ。
そんなとき、とっても唐突だが、鎧が音を立てて立ち上がり、スタコラサッサと外へ駆け出していった。
ほんとうに突然だったもんで、ぽかん、と、全員でそれを見送ってた。・・・ら、店主が「魂が入ってやがった、捕まえてくれ!」って叫んだ。
商品だもんな、慌てるよな・・・うん。
ちょ〜っと詳しく説明するとな、この街はかつて、魔法帝国の都市群のひとつだったらしい。今は滅んだが、当時のマジックアイテムが今もよく出土する地域なんだ。
・・・って、グレイタが言ってた。
グレイタはエルフだからな、年齢不詳だけど、そういう古い話を聞くこともあったんだろ。
まあつまり、あの甲冑はそういう街で出土した、意思あるマジックアイテムってこと。
悪くない額のお金くれるっていうし、まあいいかと思って依頼を受けた。
マジックアイテムだけに、あとで厄介な騒ぎになっても後味悪いしね。
甲冑が逃げた!!
で、追っかけたらこれがまあ厄介なのよ。
甲冑が露店の商品に何か呼びかけてたのは見えてたんだけどな。
インテリジェンスアイテム……そうだな、古ーい、意思がうっすら宿った骨董品ってやつだな。
それが襲いかかってきた。
ひとつバッキバキにしたら、それにキレた別のアイテムに思いっきり殴られたよ。いや、ほんと、それなりに体鍛えてるつもりだったんだけどね。相手の怒りが尋常じゃなかったっていうか。。。
それらを倒して、また追っかけたら、今度はよく似た甲冑を着込んだ騎士団に紛れ込みやがった。
エルマーが特徴をよく知ってる騎士団だったからすぐに甲冑を特定できたけど、そうじゃなかったら大変だったよ。
で、まぁ、甲冑を捕まえてな、ロープでぐるぐる巻きにしてやった。
ただ、なんというか。
ちょっと憎めないんだよな、この甲冑。
なんせ、倒す間際に打ってきた攻撃は『高潔の輝き』っていう、不徳の輩に対してだけ有効な術だ。
そう、こいつ善属性なんだよ。秩序にして善ってやつかな、聖騎士みたいに誇り高いやつだ。
ジャハナが紙とペンを渡すと「勇者とともに悪と戦うことこそ我が使命。我が王の遺言である。広間の飾り物になるつもりなどない」と古風な言葉遣いで訴えかけてきたし。
つまり、飾りになるのが嫌だったんだよ、この甲冑。
そんで逃げ出した。
これがことの顛末ってやつだ。
ハーフオーガの人拐い
そんなわけで、武具屋に戻ろうかって話になったんだけど、ちょうどその時、騎士団の女が声をかけてきた。
どうやら、この街の貴族のお坊ちゃんが行方不明らしい。
従者を撒くなど、普段からおてんば癖があるらしいが、どうにも様子がちがうらしくてさ。
女はレイアと名乗り、そのお坊ちゃんの捜索を依頼してきた。
曰く、「こういうのは冒険者に任せた方がいいことがある」んだってさ。それも「身をもって知っている」とか言う。
なーんか、気に掛かる言い方だと思わない?
彼女も冒険者だったのか、冒険者に縁があったのか・・・。
まあ考えてもしょーがないよね。
子どもがいないのは心配だってわけで、とりあえずボンクラ息子を探すことになった。
ヤンチャ坊主だったらやだなー、むかついてほっぺたつねるくらいしちゃうかもなーなんてそのときは思ってたわけなんだけど・・・・。
その子供はすぐに見つかった。
ちょうど近くに、奇妙なフードの3人組がいてさ。持ってる袋がさ、うごうご動いてんのよ・・・。入ってるよな、ヒューマン的な、子ども的な何かがさ。
エルマーが人好きする笑み(でもどこかちょっと怖かった)で話しかけてったわ。
パラディン相手に焦ったのか、フードの3人組は次々にボロを出したよ。
どうやらハーフオーガでさ、「オレはかしこいハーフオーガだから身代金をもらう」とかなんとか言って、別のハーフオーガに殴られるっていうギャグみたいなやりとりでな・・・。
真っ黒だよ。
まあ戦闘になるよな。
手前にハーフオーガが2体で道を塞ぎ、その奥にもう1体。そのさらに奥に子どもが転がっている。
まずは子どもの所までいかないといけなかったんだけど、ハーフオーガ2体が邪魔だった。
普通は厄介なんだけどな、子どもを拐ったことが相当許せなかったらしいエルマーが、ひと振りでハーフオーガの首をはねとばしてみせた!
稀に見るクリティカルヒットだったよ。
これで最奥に陣取ったハーフオーガと、子供までの道が開けた。
おれは移動力なら自信があるもんで。子どもとハーフオーガの間に体を滑り込ませた。すぐにポチも駆け寄ってきてくれたよ。
が、残念ながらおれの記憶はここまでなんだ。
ハーフオーガの杖がバチバチしてたのまでは覚えてんだけどな…。ポチ共々やられたよ。おもくそ意識を飛ばしちゃった。
目が覚めたら、ハーフオーガは倒れてて子どもも無事だったけど、隣ではポチが息絶えてた。
惜しいことだよ、ほんとに。
子どもの保護を騎士団に伝えて、甲冑を連れて武具屋にもどるとレイアが来た。
子どもの無事の確認かと思えば、どうやらそれだけでなく、甲冑の鑑定をしにきていたようだ。
なんとか甲冑の意志を伝えたい。そう思って甲冑が書いたメモをひっそりと渡したんだけど、彼女はそれを見もせずに握り潰した。
びっくりするよな。
でも、それで丸く収まった。
飾りにするのはもったいないって。冒険者…つまりおれたちに預けてはどうかってね。
お貴族様は渋ってたけど、意外にも援護射撃をしてくれたのは買い取りたいと言い出したお坊ちゃんだった。
未来への、部の悪い投資にすればいいのでは、と。
ボンクラだと思ってたけど、とんでもない。10歳とはとても思えない利口さだったよ。
そういうわけで、甲冑は晴れておれたちの仲間入り………というか、獲得アイテムとなった。
唯一甲冑を扱えるエルマーが、聖騎士らしい誓いを甲冑と交わすと、甲冑は文字通りエルマーの鎧となった。
なんというか、すごくドラマチックな光景だったな。
ああいう場面、なかなかお目にかかれないよ。
正直、あのレイアって女性は気にかかる。
やけにこっちの要望を的確に汲み取ってたな、とか。冒険者のことを妙に知った風があるというか。
…とまぁ、その日あったのはこんな感じだな。
え?終わりだよ、終わり。
今日はここまで。
ほら、おれは瞑想するからお前らはとっとと帰りなよ。
機会があればまた話してやるよ、またね。