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日記「マッチングアプリ推し」

(2,600文字 読了まで約5分)

 先日の10月26日に、名古屋に出張した。そして、仕事終わりに名古屋の支店長と2人で飲んでいた。

 支店長の彼は、私より7つ歳上である。

「お前、離婚してから1年経つけど、彼女作んないの?寂しくないか?」
 乾杯のビールも飲み終わって、仕事の話も終わって、ある程度つまみも食べ終えて、何杯めかのハイボール片手に、彼はそう聞いてきた。

「寂しいですけど、出会いがないですよ」
 私は、テーブルの上の残ったお新香を食べた。

「出会いなんて、マッチングアプリすればいいじゃん」
 マッチングアプリ!?若い子がするもんでしょ?と、私は思った。というか、歳上の彼から言われるのは、少しビックリもする。
「マッチングアプリ、やったことがなくて。ちょっと怖いじゃないですか、どんな人かも分からないし」

 彼は、ハイボールをぐいっと飲み干した。
「次、何飲みます?」
 私の言葉を遮って、彼は言葉を被せた。
「離婚した友達がいるんだけど、マッチングアプリで彼女見つけたって言ってたから、いけるいける」
 ノリが非常に軽い。

「あー、でも、オレは無理っすよ。自信ないっす。で、次は何飲みます?」
「悪いことは言わんから、マッチングアプリやってみな?」

 副業でマッチングアプリの紹介でもしているのだろうか。やたらと、マッチングアプリを推してくる。

「◯◯さん、亡くなったじゃないか。ただ、亡くなる前に、再婚なされたから、ちゃんと病院にも行けて、綺麗な顔を見ることが出来たんだ。お前、死んだら、誰も発見してくれないじゃん」
 彼はそう言った。

 ◯◯さんは、静岡から西の全てを統括なされてた統括部長で、この間、50代半ばで突然亡くなられた。亡くなる少し前に、2年ほど付き合っていた彼女と結婚していた。

「まあ、まだ私は若いので大丈夫ですよ。心配してくださるのは、嬉しいのですが」
 私は、ハイボールを2つ、スマホから勝手に注文した。

 見つからず亡くなるのは、仕方ない気がする。出来れば、病院に行って亡くなりたいが、突然死は防ぎようがない。

「それに若いうちに行動しておいた方が、まだ人生あるんだからさ」
 彼は、そう言って、お新香をつまんだ。


 安居酒屋なので、周りがかなりうるさい。しかし、お客さんは老若男女、バラバラである。
 それを見渡して、年齢は関係なく、出逢いはあるんじゃないだろうかと、私はそう思った。

「でも、マッチングアプリで知り合っても、相手の事、何も分からなくて好きとかっていう感情が湧かないですよ。普通に知り合った人がいいかな…」
「お前は、普通に知り合った人なら、その人のことを知っていると思うの?」
「ええ、まあ。どんな人かっていうのは分かりますよね」

「そうか?付き合ってみないと本心は分からないし、隠していることもいっぱいある。普通に知り合ったというのが、どういう知り合いなのかは分からないが、結局は中まで見れる環境じゃないと、いくら外から見てても一緒だと思うぞ」

 確かに一理ある。仕事の顔、友達に見せる顔、家族に見せる顔、パートナーに見せる顔、全て違う。
 だから、普通に知り合うという定義は私が言った言葉だが、私自身もよく分かっていない。
 そして、本質的には、付き合ってみないと、パートナーに見せる顔は分からない。

 どうやら、とても長く恋愛をしていなかったので、もう忘れてしまっている感覚である。

 けれど、私は、その人の考え方とか思考を知らないと、安心できない。ただ、それは偽りを見せているだけで、付き合ったら変わるかもしれないが。

 頭の中で堂々巡りを繰り返し、腕を組んで考えている私に彼は言った。

「今のお前を見ていると、心も体もつらそうだ。別に、心から分かり合えなくてもいいから、体が触れ合える相手を見つけて安心する場所を探すのも1つだと思う。両方、充足しているのがいいんだが、別にどちらか片方でもあるだけで、楽になると思うぞ」

 また難しい発言だ。私にはとても難しい。ただ、私はどちらかと言うと、精神的な方を欲しているのだが、彼の言葉にも一理ある。
 しかし、そんな人を見つける方が難しい気がする。

「うーん、でも、もう歳だし、なかなか無理じゃないですかね」
 私は彼の問いには答えることができなかった。

「お前は、黙っていれば、そこそこいけると思うよ」

 黙っていれば??
しゃべったら、ダメなの??

「え?しゃべっちゃダメなんですか」
 私は素直に聞いた。

「男同士だったら、笑かそうとしてくるし、突拍子もないことしてきて、面白いからいいんだけど、女性は引くんじゃないかな。酔って話をしない方がいい。黙って、うんうん、と頷いておけば、彼女出来ると思うぞ」

 なかなか鋭いアドバイスだ。
私は娘にも「パパ、ちょっとはいけると思うで、しゃべらんかったら」と同じようなことを言われている。

 そこまで、私のしゃべりがダメなのか。

「それは、無理じゃないですか?笑かさないと、あかん気がするんですよ。それに、なんかしゃべらないと面白くない」

「それはな…」彼は、ハイボールを手に取った。
話に白熱しすぎて、ハイボールを頼んだことを忘れていた。

「お前が面白いだけなんだよ。女の子は全く面白くない。男同士だったら、モテるんだけどな、お前のしゃべり」

 ガーン!!
かなり痛いところを突かれてしまった。
 でも、私は話すのが好きなのだ。ついつい喋り過ぎてしまう。

「そ、そうですね…」
 私はかなり落ち込んだ。しかし、言われた言葉はごもっともである。
 自分が楽しんでいるに過ぎない。悪ノリは、男同士だったら、楽しく見てもらえるが、女性には嫌われる。
 当たり前のことで、頭では分かっているつもりだったが、こう的確に言われると、我が身を振り返ってしまった。

「その練習だと思って、マッチングアプリやってみたらどうだ?」
 彼はハイボールを飲み干してから言った。


 とても楽しく2人で終電まで飲んだ。
ただ、その日は、飲んでも全く酔えなかった。

 私の悪いところをズバリと言ってくれるのは、いい先輩だと思う。
 また、名古屋を手伝っているので仕事のうえでも、必要としてくれており、私のこともとても心配してくれている。
 そのことに関しては、かなり感謝している。

 駄菓子菓子、やっぱりマッチングアプリには手を出せないでいるのだ。

 心の充足ができないのであれば、体の充足だけでも求める…
「なんか違うんだよな」
 App storeを見ながら、私は呟いた。

 精神的にも分かり合えるパートナーが欲しい。
そう思うのは、私の驕りなのだろうか。

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