デジマ担当者がみたジャパニーズ・ド田舎の町興し策の可能性「なぜ今さらブロガーなのか」#大台町PR
Riopoです。
1/30(木)~31(金)の一泊二日で、三重県の大台町観光協会主催の大台町魅力発信ツアーに参加してきました。
このツアーの狙いは各業界で活躍するブロガーを大台町に実際にお招きし、身をもって自然の豊かさやアウトドア・アクティビティ、グルメ等を体験してもらう事で、その魅力を発信してもらおうというものです。
ツアーの詳細はこちらになります。
登山やトレッキング、世界遺産、旅行、主婦、雑記、アニメと様々なジャンルで活躍されるブロガー10名が選抜され、全国から集まりました。
幸運にもその一人としてお声掛けしてもらえ、参加させて頂くことが出来ました。
ただし、僕の場合は他のブロガーさんと事情が異なる特殊な点があります。
私の立ち位置
僕が生まれ育った大台町
実は、僕は大台町出身者です。
生まれてから高校を卒業するまでの18年間を大台町で過ごしました。その後、大学進学に伴い上京し、現在は東京・横浜エリアで大台町とは無関係の会社で働いています。本業はシステム開発全般。最近はデジタルマーケティングの企業向けコンサル案件をやったりもしてます。
ちなみに両親や兄弟は現在も大台町に住んでいます。
よく地元の人間には「何を東京で生活しているくせに」と、言われてしまうのですが、それでも地元が衰退していく様を見るのは悲しいなぁと常々思っていました。
日本全国の地方出身者で同じ境遇の方は、この気持ち分かってもらえると思います。
町内の各地で地域行事やお祭りもたくさん開催されていた時代
そんな中、たまたま今回の企画を知り、もしかして自分にも何か出来ることがあるかもしれないと思い応募を決めました。
町内の各地で地域行事やお祭りもたくさん開催されていた時代
そんな大台町をよく知る地元の人間である僕が他のブロガーさんと同じように大台町をPRしてしまうと、まるで親バカのように、どうしても贔屓目にみて情報発信してしまう可能性があるため、町興しの観点で見たときの魅力発信ツアーの可能性について感じた事を普段やってるデジマ的な視点で深堀りしたいと思います。
可能な限り一個人のフラットな意見として書いてみます。
このエントリが観光政策を進める多くの自治体関係者やメディアの目に留まり、結果的に大台町のPRに繋がる事を祈っています。
そもそも大台町ってどんな町?
三重県多気郡大台町(おおだいちょう)は、三重県中部に位置する東西に細長い町です。文字通り伊勢の奥の方にあるので「奥伊勢」とも呼ばれています。
約90kmに及ぶ県下最大の河川「宮川(みやがわ)」の大部分が町内を横断し、町土の約90%以上を森林が占めています。つまり、山村と宮川で全てが語れてしまうくらい、小さい小さいザ・日本の田舎街です。
現在の人口は約9千人。僕が町を出た頃の2005年(11,099人)から2015年(9,557人)の10年間で10%強の人口が減っています。
これは一ヵ月で約13人が街から姿を消している事を意味します。都会の感覚からすると、たった13人かと思う方もいらっしゃるかもしれませんが、田舎の人間からすると周りの世帯が恐ろしいスピードで消滅しているような感覚です。
当然、今後も指数関数的に人口が減少し、2045年には現在の約半数の5千人を下回ることが予想されています。
出所)国立社会保障・人口問題研究所 『日本の地域別将来推計人口』(平成30年推計)より筆者作成
豊かな自然を武器にエコツーリズムに勝機を見出す大台町
一方で、光の芽もあります。
大台町は、町内全域がユネスコが実施する生物圏保存地域(国内呼称:ユネスコエコパーク)に指定されている自然豊かな町です。
2020年現在で日本の登録件数は10件のみ。「志賀高原」、「白山」、「屋久島」、「南アルプス」といったあたりがメジャーどころです。こうして比べてみると錚々たるエリアと肩を並べている事が分かります。
また、大台町を流れる宮川は国土交通省の一級河川水質調査において、2000年から過去11回も日本一に輝くほどきれいな水質が自慢です。
きれいな水を活用した商品も徐々に開発が進みつつあります。
大台町のめし処「月壺」で食べた子持ち鮎は絶品
大台町は世界が認めた貴重な自然資源の宝庫であり、町を挙げて、自然と人間の持続可能な社会の実現に向けて取り組みを加速させています。
ダボス会議2020での議論の対象はもっぱら、環境や格差など持続可能性に関わる議論が中心でした。消費者もSDGsを強く求めており、環境によくないものへの視線は日増しに厳しくなるばかりです。
マイクロソフト社が「2050年までにカーボンネガティブになる」と発表し、世界最大の資産運用会社であるブラックロック社もESGを基準にした投資をすると宣言しました。多くの企業がSDGsを成長戦略として掲げる時代です。
大台町には強力なフォローの風が吹いています。
大台町のエコツーリズムを引っ張る「Verde大台」
Verde大台ツーリズムの野田代表
今回の大台町魅力発信ツアーの核となるアクティビティである
『水』×『食』 大台ピクニック
『水』×『森林』仙人と行く。大杉谷ピクニック
はVerde大台ツーリズム(以下、ヴェルデ)の野田さんに全てご案内して頂きました。
ヴェルデは地域DMO法人として、地域の多様な主体と連携し、大台町の自然を活かした大台でしか味わえないアウトドアプログラムを多数開発。アウトドア体験を通じて、交流機会の創出や観光客の地域内の滞在性・周遊性向上、観光消費額の増加など、地域の活性化に貢献。あわせて、ユネスコエコパークに指定されている大台町の魅力を国内外に発信しています。
2018年には人口1万を下回る大台町に2000人近い観光客を集め、多くのメディアにも取り上げられています。
一方で大台町への興味関心レベルはまだ低い
これはGoogleが蓄積している膨大な検索データをもとにしてキーワードやトピックの検索回数トレンドを確認できるGoogleトレンドというサービスです。
このGoogleトレンドで三重県の有名どこの他市町と興味関心の度合いを比べてみると、伊勢神宮を有する「伊勢」、松阪牛の「松阪」に比べ、圧倒的に「大台町」や「大杉谷」に対しては興味関心が薄いと言えます。
生活者1万人アンケートにみる旅行者の趣向と大台町観光情報の課題
ネット検索による下調べは年々増加傾向にある
NRIの2018年の生活者1万人アンケートによると、商品・サービスを購入する際の情報源のうち「ネット上の売れ筋情報」や「評価サイトやブログ」を参考にする10代~50代は年々増加傾向にあります。
しかし、実際にネットで検索して情報を拾おうとしても、大台町の観光情報が乏しいのが現状です。
試しに手元のデバイスから「大台町 観光」のキーワードで検索してみると、トップに大台町観光協会のWebサイトがきて、じゃらん、トリップアドバイザーの観光スポットランキングと続きます。これらのサイトを見ていて感じるのが、観光客側から発信されている情報の少なさです。インスタやTwitterを見ていても同様の傾向が見られます。
現状では旅行者がみんな何を目的にして大台町に遊びにいっているかが分からないのです。
今回参加した30代のブロガーのなかには、その点を指摘する声もありました。
ではシニアに対してはどうでしょうか。
デジタルシニアは消費も旺盛、趣味にも積極的でアクティブ
じゃらん宿泊旅行調査2019(リクルートじゃらんリサーチセンター調べ)の調査結果によると、18年度の延べ宿泊旅行者数は20歳~49歳が6,987万人回、50歳~79歳が7,790万人回と既にシニア層が10%以上も上回っている事が分かります。将来人口推計を考慮すると、今後この傾向は益々顕著になっていくと予想されます。
セグメントボリュームの大きなシニアはエコツーリズム事業でも狙うべきメインターゲットの一つです。前述の生活者1万人アンケートでもシニアにおける行動のアクティブ化やネットで能動的に情報を取得するデジタル情報志向も高まりについて言及されています。こうしたシニアは消費においても付加価値志向を持ち、趣味などの活動も積極的であることが指摘されています。
また、著名コンサルタントの大前氏の著書「大前研一 日本の論点2020~21」のなかでも60代~50代半ばのバブル世代がリタイアを迎えた時に、それまでと全然違う行動を取り消費欲を開放する可能性に着目されています。
最後にインバウンドの増加と情報提供の重要性は言うまでもありませんが、今回のモニタツアーのターゲット層とは異なる為、議論を割愛させて頂きます。
観光客目線の情報を充実させる為の体験型モニタツアー
モニタツアーに参加し積極的に情報収集するブロガー
つまり、認知度を上げると同時に観光客目線での情報をネット上に充実させる必要があると言えます。そのうえで、ターゲットとなり得る幅広い年代層(30代~50代)の著名ブロガーを招待して観光客目線で魅力を発信してもらう今回のツアーはこの課題に対する打ち手として理にかなっています。
では、観光客からの情報を引き出すには他にどのような施策が考えられるでしょうか。
よくあるのは、利用者に口コミを投稿してもらう代わりに割引を提供するというものですが、玉石混合の個人に口コミを書いてもらうのは費用対効果が悪くなりがちです。
その点、今回の体験型モニタツアーのようにスクリーニングされたブロガーを招待する事で費用対効果に見合った情報発信が期待できます。
体験型モニターツアーの実施動向
PR写真の撮影もお手のもの
今回参加したブロガーのなかには、過去に海外政府観光局や自治体のPRを手伝った経験がある方が複数名いらっしゃいました。
そこで、他の自治体の実施動向についても調べてみました。
まずは「体験型モニターツアー」と検索してみて下さい。自治体観光協会主催でたくさんのモニターツアーが見つかりませんでしたか?
開催趣旨は大台町魅力発信ツアーと同じですが、他の自治体は参加者への縛りを設けず割引価格で実施する体験ツアーが多くみられます。
2015年の観光庁の観光地ビジネス創出の総合支援事業「選定地域の取組概要(選定45地域及び追加選定3地域)取組」を見ていると地方の新たな観光資源の掘り起し策としてモニターツアーに力をいれていたようなので、この名残もあると思われます。
インフルエンサーマーケティングとしての大台町魅力発信ツアー
大台町魅力発信ツアーはインフルエンサーマーケティングに近い
次に「旅案件 インフルエンサー」と検索してみて下さい。
インフルエンサーの募集ページや企業とのタイアップ事例がたくさん出てくると思います。例えば以下です。
今回大台町観光協会が実施した、体験型モニタツアーの参加資格は、
・18歳以上で一定の読者をもち、継続的にブログを書いている
・月間3万PV以上
・本企画の趣旨を理解し、執筆内容やスケジュールに対応すること
であり、いわゆるインフルエンサーマーケティング(多くのフォロワーや読者を抱え、影響力のあるインフルエンサーに企業や政府観光局、自治体がPRをお願いするマーケティング手法)の部類に入ります。
リーチしたいターゲットや訴求したいイメージ、情報の内容により、
・媒体毎に特徴がある為、どの媒体を利用するか(youtube/Instagram/Twitter/Facebook/noteやブログなどのテキストメディア)
・どのカテゴリのインフルエンサーを起用するか(旅、美容、グルメ等)
・どの程度の影響度を持つインフルエンサーを起用するか(チャンネル登録数、フォロワー数、読者数、PV数など)
の観点と予算を勘案してPRを依頼します。
企業が直接DMを送って依頼するケースもありますが、通常はインフルエンサープラットフォームや仲介業者を通して依頼するケースが一般的です。当然その分、手数料が取られるかたちになります。
インスタグラムやTwitterは20代~30代がメインでありかつ、それなりに影響力のあるインフルエンサーに依頼しようとするとPR費用が高額になりがちです。
人気絶頂プラットフォームのYoutubeもしかりです。ちなみに昨年に著名Youtuberの「シバター」が企業案件の相場を暴露して話題になりました。
しかし、今回の企画を実施した大台観光協会の担当者に話を伺うと、こうした仲介サービスを一切使う事なく自分たちが運営するWebやSNSだけで告知して著名ブロガーを集めています。
「なぜ今さらブロガーなのか」
今回ツアーではオリジナルな体験として大杉谷の仙人を訪ねた
道中も飽きない自然と景観があった
誰もが情報発信する時代になり、みんなユニークでオリジナルな体験を強く求めています。それはYoutuberもインスタグラマーもブロガーも同じです。
日本最大のインフルエンサープラットフォームであるSPIRITを運営する福田氏の著書にから引用すると
「企業(や政府、自治体)のPRをやっている」ということは、インフルエンサーにとっては、人気のある証であり、ソーシャルメディア上ではステータスなのです。
平日かつこのレベルの謝礼と費用負担で、なかには月間100万PVを超える大物ブロガー達を集める事が出来ているのが何よりの証拠です。
ちなみに、まともなWebライターに依頼すると1文字あたり最低4、5円はかかります。今回の参加ブロガーに出された必須条件が5記事×1000文字以上の執筆なので、Webライターに依頼するよりも、まずこの時点で価格優位性があります。
さらに大台町はおそらく月間数万~数十万台のPV数を誇り、かつエコツーリズムのメインターゲットとなる主に中京圏、関西圏の30代~50代、50代以降のデジタルシニアにリーチできるメディアはお持ちでないでしょう。今回参加されているブロガーの属性であればそれが可能です。
つまり、大台町のように小さな自治体が実施可能な予算内でメインターゲットが求める観光客目線での適切な情報発信を得る目的において、ブロガーにフォーカスした戦略はベストマッチしていると考えています。
大台町魅力発信ツアーの価値整理
以上を踏まえ、大台町魅力発信ツアーの価値を整理します。
定性的価値
前述のとおり、各ブログを通してメインターゲットへ情報提供できる事に加えて、さらに潜在的な旅行者の外部視点での意見が手に入るメリットについて補足します。
今回のツアー設計には大台町長含めた街の要人との懇親会も含まれており、外部視点での要望を町長や要人に直接伝える事ができました。
ブロガーの方々は普段から書く事に慣れているので、改善点や提案、感想がスラスラ出てきます。これがインスタグラマーだったらそんなに出てこないと思うんですよね。それもメリットの一つです。
かの本田宗一郎はこう言いました。
「新しい発想を得ようと思うなら、まず誰かに話を聞け」
参加ブロガーから出たアイデアの中でも個人的にはMr.Dashさんの提案に目から鱗が落ちました。
彼は地元関西のお客さんを中部圏の山々へお連れして個人ガイドする事も多いそうです。三重県には何度も来ているとのこと。
地元に住んでいなくても、外から個人ガイドとして直接お客さんを引っ張ってこれる可能性がある事は僕にとって新たな気づきでした。
Mr.Dashさんは大杉谷の裏に位置する奈良の上北山村が管理する大台ケ原の認定ガイドにも登録されています。
この認定ガイド制度は、「利用者に対してより質の高い自然体験の提供と自然環境保全に関する普及啓発を可能にすること、ガイド付きツアーの増加に伴う利用者や滞在時間、宿泊利用者の増加や地元ガイドの増加による地域経済への波及効果など地元への経済的効果の発現に寄与すること」を目的にしています。
「大台町でも大杉谷のガイドについて同様の制度を導入するべきだ」というのが彼の提案です。
地元への経済効果を狙うためには「認定ガイドは必ず地元の宿に泊まらせるルールにする」といったものから
当時の大杉谷森林鉄道
現在、大杉谷森林鉄道跡地は立ち入りが禁止されている
現在は立ち入りが禁止されている風光明媚な当時の森林鉄道跡地を認定ガイドだけに開放するなど具体的なアイデアを多数お持ちでした。
この視点って絶対、外からの人間でないと入らない意見ですよ。
基本的には僕もこの提案に賛成です。今すぐにでも具体的な検討に着手すべきだと考えています。
定量的価値
今回の参加ブロガー10人合わせて月間150万PVほどあります。
各ブログが抱える読者が記事を読んだ回数や、大台町関連のWebやSNSへの流入増加数、その中でもターゲットセグメントへのリーチ数が定量的な価値となりますが、情報が出揃っていない現段階では何とも言えません。
上記をKPIとするならば、KGIは観光客数、町内消費額の増加を含めた経済効果。あるいは住民数の増加かもしれません。今回の情報発信をきっかけにして大台町を訪れた観光客を補足できるようにする為の仕掛けも必要です。
これらは継続的な取り組みを続けていく事で、企画毎の成果や改善内容を検証する為の数値情報として活用されるはずです。仮に適切なKPIを設定しデータに基づいた評価や改善策の立案・推進ができる人材がいなければ有効な次回策が打ち出せず迷走してしまう可能性がある事を指摘しておきます。
まとめ
「ネット上の売れ筋情報」や「評価サイトやブログ」を参考にする10代~50代は年々増加し、シニアにおける行動のアクティブ化やネットで能動的に情報を取得するデジタル情報志向も高まっている。
上記の顧客セグメントに対して観光客目線の情報を発信してもらう為のブロガー活用はベストマッチ。金は無くとも必ず参加者は集まる。予算が乏しい自治体こそ見習うべき取組である。
外部からの視点を取り込むためのブロガー活用も有効。街の要人やキーマンと交流させることでさらに活きる。
街の魅力を見つけようと積極的な取材姿勢を見せる外部ブロガーとの交流は地元の人にとっても良い刺激策となりマインドも活性化される
このエントリが不振にあえぐ自治体関係者の一助になれば幸いです。
※この内容は全て一人の参加者として感じた個人の意見になります。
本イベントの詳細について興味を持たれた方は主催者である大台町観光協会まで問い合わせください。