ネットワールドアパートメント~101~
こんばんは。
今日もようこそいらっしゃいました。
かしこまりました。
どうぞこちらのセカイへどうぞ……
「今日も雨かぁ……」
彼女は雨が嫌だった。
濡れると髪型も崩れるし、制服も濡れてしまう。
何よりいつもの自分を作るのに時間がかかるからだ。
でも唯一嬉しいこともある。
そのためには雨もなんのそのだ。
何とか朝の難関を突破し、駅に急ぐ。
雨音が激しくなると共に彼女の鼓動も高まる。
「もうすぐ会える」
春の日想いを伝えられなかった
彼への思いは募るばかり。
雨の日に電車に乗ると吊革につかまって外を眺める愛しい姿が見えたのだ。
思わず涙が出た。
その日から雨の日が恋しくなった。
一層自分磨きが楽しくなった。
「今日こそ…」
いつまた会えなくなるかわからない。
だから…
駅のホームに着いた。
いつもの乗車口へ行く。
雨音と、胸の鼓動と、電車の音。
どんどんと早まる・・・
電車の中は雨の日にしては空いていた。
彼の姿を探して見つける。
「先輩、となりいいですか。」
「おはよう。おいで。」
「…先輩、実は。」
「俺も話があって。」
急遽、お父さんの転勤で、彼も遠くの高校へ転校が決まったとのこと。残留したいと直談判したが、お父さんの意向も固く断念したとのこと。
「先輩好きです。」
「ありがとう。でも今、余裕なくて。」
「大丈夫です。大変な時にすいません。」
「ごめん。友達としてこれからもよろしく。俺からも連絡するから。あと、いつでも俺に連絡していいから。」
雨の日の彼との会話。
どんどん雨がひどくなる。駅のホームでは人々のスマホから土砂災害の注意報のアラームが一斉に鳴り響いた。
そのおかげで私の鳴き声はかき消された。
終わりではなくはじまり。
そう思えるには時間がかかりそうだ。