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耳浴-MIMIYOKU-
耳がかゆい!
3年ぐらい前から左耳にかゆみがある。
ずっとかゆいというわけではないけれど、瞬間最大風速50m級のかゆみが突然襲ってくるのだ。
そして人間、かゆいところを掻くと気持ち良いじゃないですか。なので、掻いちゃいけないと思いつつも耳かきを繰り返していたのです。しかも毎日。
そんなある日、「耳かき棒で耳掃除をするのはやめた方がいい」と母に言われた私は泣く泣く耳かきを捨て、しばらくの間めちゃくちゃ元気を失っていた。
耳かきがしたい。
待てよ。これって一種の依存症なんじゃないか?
だったら耳かきのことを忘れるくらい完璧に治したい!
そう思った私は、近所にある大きな病院の耳鼻咽喉科に行くことにした。
先生は女性の派遣医さんだった。かなり優秀そうだ。しかも標準語でテキパキと話しかけてくる。
「かゆいのはいつからですか?」
私は一瞬迷った。和歌山弁で返そうか、それとも標準語で返そうか。人生の2/3を東京で過ごした身である。ここはひとつ、純度100パーセントの標準語で迎え撃つことにした。
「3年ぐらい前からです。」「じゃ、椅子に横向きに座ってください。」
和歌山の片田舎で標準語を話すのは多少違和感があったが、もう引き返せない。
そして初めて自分の耳の中を見た。
カメラに映し出された巨大な耳の中…
「これは質の悪い耳垢ですね。」「質…!?」
「本来、耳垢は耳を守るためにあり、時期がくれば自然に剥がれますが、これは耳を守る前に剥がれてしまってます」
そして先生は巨大なノズル(注:実際はとても小さい)で耳垢をすべて吸い取り、きれいサッパリと耳掃除をしてくれた。
「じゃ、点耳薬を出しときますね。耳に数滴垂らして、しばらくそのままにしてから布などに出してください。」
「耳に液体を入れるんですか!? わ…かりました.…」
動揺しながらもなんとか最後まで標準語で乗り切った私は、帰宅するなりYouTubeで「点耳薬 使い方」と検索した。
別名「耳浴」(じよく)とも呼ばれる療法らしい。
じよく。なんか響きが爺さん婆さんっぽくないですか。
「みみよく」の方が響きもかわいいし、波音やせせらぎの音を聞いて瞑想するモーニングルーティーン的な感じもあって流行りそうだ。
ということで、
「耳浴 -MIMIYOKU-」
1、点耳薬を手のひらなどで人肌に温めます
2、悪い方の耳を上にして横向きに寝ます
3、耳の穴に数滴やさしく垂らします
ほーら。爽やかな気分が耳いっぱいに広がり…ませーん!!!
ズザザザザーーーーーーー!!!
めっちゃ爆音!!!!!
私は恐怖で硬直した。このまま10分待たなければならない。かろうじてスマホのアラームはセットできたが、はっきり言って瞑想どころではなかった。
「♪〜」
ん?
どこかでスマホのアラームが鳴っている。どうやら、おふとんが気持ちよくて寝落ちしちゃったようだ。ははは…
さて、アラームを止めたいのだがスマホが見当たらない。確かに音はするけれど、どこで鳴っているのかがわからないのだ。どうやら、片方の耳に液体が入っていると、音はステレオでは聞こえないようだ。結局、とても近くにスマホはあった。不思議な体験だった。
身体を起こして耳にティッシュをあてたまま下に向ける。
タラーーーン。温まった点耳薬が出てくる。これがまたなんとも言えない感覚で…
あれから4日経ち、耳浴にもずいぶん慣れた。
水滴が耳の中に落ちていく時の「ズザザザー!」という音にはまだびっくりするけど。
何よりも耳のかゆみがなくなったのが嬉しい。
だけど、少しさびしい気もしている。