2124gのスーパーマン
2年前、わたしは小さな男の子を産んだ。
妊娠7ヶ月の時に切迫早産になり入院になった。頑張りの甲斐もなくそのまま出産まで家に帰れることはなかったのだが(そもそも頑張ってどうにかなることではない)、結果から言うと予定日より1ヶ月も早く息子を産んでしまった。
およそ3ヶ月間の入院生活は、それはもう壮絶で、涙なしには語れない話なのだがここでは割愛させてもらう。病院では暗いマタニティライフを過ごしたわけだが、あの頃に「あつまれ!どうぶつの森」があったならばわたしは毎日を無人島で楽しく過ごせていたに違いない。
そんなことはさておき、これは小さな息子はわたしにとってのスーパーマンならぬスーパーベイビーだと確信した話である。
命の恩人
産まれるその瞬間息子はわたしの命を救ってくれた。35週と3日。予定日より1ヶ月も早く出てきてしまった息子。2100gちょっとの大きさだった。出産時にわたしは上手くいきむことができず、出口が裂けた。そして大量に出血した。膣の裂傷は激しく、複雑に裂けてしまっているため、産科の先生も中々縫合ができない。その間もどぼどぼと血が流れる。麻酔もなく、いくら出産時のアドレナリンが出てるとはいえさすがにこちらも我慢の限界が。そして緊急オペとなった。
出血多量で血圧は40まで低下。真夏であれだけ暑かったはずなのにガタガタと唇が、身体が震え始める。手を握ってくれている看護師さんに「あの、わたし、死にますか?」と聞くほどに震えた。そして早く息子にも会いたくて会いたくて余計に震えた。
「輸血!サチュレーション低下!」と聞こえてきて、あぁこれドラマでよくみるなぁと思いながらわたしの意識は遠のいていった。
赤ちゃんは自分のタイミングで産まれてくる
と聞いたことがあるが、息子はわたしのために早く産まれてきてくれたのだろう。予定日までお腹で大きくなっていたら、あと100g大きかったら、それを考えると震える。わたしは大大大出血で死んでいたと思う。産まれたときからなんて空気の読める息子なんだろう。グッジョブ!命をありがとう!
名探偵
わたしには旦那がいない。が、結婚はしていた。あれだけ痛い思いをしながら命をかけて産んだ我が子。それから2ヶ月。息子が産まれてたった2ヶ月。見つかったラブホのカード。もう2度としないと謝罪する旦那をみて、こちらにも悪いところがあったかもなぁと情状酌量に。しかしその後も何度も疑惑が浮上。ただ物的証拠がない。わたしは苦悩の日々を過ごしていた。
ある日、床に落ちる避妊具を発見。え?頭の中はクエスチョンマークでいっぱいである。もちろんわたしの物ではない。最近使った覚えもない。どこから?そんな心の声が聞こえたかのように、息子がスーパーハイハイでこちらにやってきた。そして屈託のない笑顔で握らしめていた何かをポイっと投げ捨てた。床に落ちる避妊具。そうそう、これね、キラキラしててね、中に風船が、ってちがーう!なんでやねん!
息子が先ほどまで居た場所を見ると旦那の鞄が荒らされていた。計4つ。容疑者発見。
全て息子が見つけたことにして、その夜事情聴取が行われた話は割愛させてもらってもいいだろうか。
どこかの誰かの何かに、
良い文章には無駄がない!省け!削れ!
と書いてあったのを見たことがある。
わたしにとって旦那の話は無駄なのである。省く!削る!忘れる!!ご了承いただきたい。とにもかくにも息子よ!グッジョブ!証拠をありがとう!
恋のキューピット(仮)
そんなわけで息子はパパという言葉を知らない。最近になって、仲の良いお友達のパパが、自分の息子がパパと呼んでくれないことを嘆いて、我が息子にパパを仕込むことに成功。「パパぁー、パパぁー」と抱っこをせがんでいた。可愛いの極みであるが、ただ1つだけ問題がある。
スーパーの店員さん。電車に乗る会社員。郵便配達のお兄さん。男の人(しかもイケメン)全てがパパなのだ。ターゲットを見つけると「パパぁー」と駆け寄っていくのだ。公開ナンパ。やめてくれ。すみません、パパじゃないよーと引き剥がすわけだけど。いや、ちょっと待てよ。よく考えてみたら、これは「お茶しませんか?」に代わる新たなナンパの口説き文句になるのでは。ここから生まれる恋もあるかも。(しかもイケメン)
このご時世、不要不急の外出はしてないからまだ出会えてないけど、息子よ、グッジョブ!キッカケをありがとう!新しいパパみつけようね!
といったように、あらゆる場面でわたしを助けてきた息子。これはスーパーベイビー認定である。きっと何年かしたら「バイキンマンからママを守る!」ってアンパンマンに変身するだろう。そのまた何年後かには「地球を守る!」って3分間だけウルトラマンになるだろう。その度にわたしはジャムおじさんやウルトラの母になれるように、パパにもママにもなれるように。
助けてくれるこの愛すべきスーパーベイビーを守ってこう。あー頑張ろう。ママ3年目。
もうすぐ2歳になるうちのスーパーベイビー。今はアンパンマンよりパーシーが好きです。
noteに文章を残す機会をくださった岸田奈美さんに敬意と感謝を込めて。
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