その3:魔の手はのびる 誘惑の告知板
前置き
著作権が切れた文献を無料公開している「国立国会図書館デジタルコレクション」。10年以上以前、近代デジタルライブラリ—時代からウォッチしている私が、何の専門知識もなくご紹介しております。
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「魔の手はのびる 誘惑の告知板」昭和11年
http://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/1445976
表紙の蜘蛛の巣といい、「魔の手」だの「誘惑」だの、三文小説の様相を呈していますが、それよりもっと猥雑な戦前のゴシップ誌。
「スターを夢みて魔の淵へまつ逆さま!新聞廣告に警戒せよ」
そもそも読売新聞社婦人部が編集しているというのに、「新聞廣告に警戒せよ」もあったもんじゃないがおもしろいからいいや。
新聞広告にオーディションの告知を載せ、田舎から少女を呼び出しては金品と貞操を奪い、少女たちが気付いたころにはもう田舎には帰れない…ああ怖い…。
あ、ちなみに
情熱的なタイトルの割にどれもこれと言ったオチがない。いや、婦人部編さんという事もあってか、かなりボカしてある。
キスですら「隅田公園で頬にKされた」とか言う。なんだ?キックか?
「あ、これ、やったんだろうな~」ってのも「一生でいちばん大事な日いけないと心を鞭打つたが」とかいう描写で推察せねばならないややこしい。
こっちはやったかやってないかはっきりしてほしいんだ!
ただそれだけなんです。
ここからはタイトルと雑なあらすじを気になったものだけ適当にお送りする。
「乙女の胸は高鳴る 魔の「告知板」憧れるレビューの切符!」
D劇場のレビューへ行くため友達と待ち合わせしたのにすっぽかされた女学生木下八重子は、自称D劇場(なんで劇場名伏字なのに被害者はフルネームなんだ)勤めの男にプラチナチケットで釣られ、食われちゃったというお話。もちろん男はD劇場の人間ではなかった。
「とかく狙はれ易い店頭の看板娘 近所の名士の友人と見せかけて」
田舎の商店の看板娘が主人公。近所でも有名な名士を訪ねると見せかけ、チェリーを買いに来る男。なんだかんだでKされてやられちゃったあと、男が消える。チェリーが高級果物であった点がポイント。
「古風な手だが美人局 風変りで面白からう−なんて変な気を起すまいぞ」
これは男性が主人公。風俗の客引きに連れられて宿へ行ったら、美人局だったという話。
内容はともかく、客引きの「旦那、ご案内しませう、デパートのガールですよ」「素人、えゝ、ダンサーも未亡人も、レビューガールもゐます。」てのがいい。いつの時代も男は素人が好き。
「天使のやうな乙女らの肌に痴漢の毒牙 咄!呪はれてあれ!」
このエピソードだけ唐突にいくつかの実例が列挙されている新聞記事風。前から順に読んでいると、違う国に迷い込んじゃったかなって思う。んなわけねぇわ。
一、浅草龍泉寺町附近で、少女十数名が、飴売爺さんに弄ばされた。
一、下谷竹町の幼児は誰も知らぬ間に御用聞きの病毒を感染されてゐた。
一、江東方面で或る紙芝居師が幼女に魔手を伸ばした。
「試みに神経病的で幼児姦を犯す危険性の多い不良少年がどのくらゐ早熟っかを、七五八九名の保護少年に就いて調べてみよう」つって18歳以下で性交渉経験がある人数とか列挙してるけど多分それあんま関係ないな。調べたかったんだな。そっかそっか。
「純白のエプロン姿 筋肉の律動!女中さんには荊棘の途」
2エピソード。雇い主の主人に肉体関係を迫られるっていうよくある話と、大学生と偽っていたクリーニング屋の男と関係を持ってしまう話。
ふたつめの話は女中さん関係ねぇわ。
「信用させておいて寡婦の懐ろ喰ひ下がる 多い荷物と白紙入りの書留で」
母娘ふたりの住居に間借りしにきた男長谷川、警戒する娘信子に対し、好感を持つ母町子。やがて信子は嫁入りして出ていき、男が町子の情夫として居座ってしまう…。
え?これハッピーエンドじゃない?娘ならともかく、お母さん幸せならいいじゃん!
「キモノが欲しい!女給の望みは叶へられた だが次に待ってゐたものは?」
住み込みで働くカフェーの女給・園子の元に、高級反物を持って通う、自称実家が染め物屋で当人はサラリーマンという紳士。女給仲間にも、これだけしてくれてんだからデートくらいしろと焚きつけられ、体の関係になり…。
やがて警察が現れ、男が洗濯屋の悪外交(この時代によく出てくる表現。クリーニング屋の御用聞きってところか)で、持参していた反物は盗品だったと知らされる。
ま、これは着物目当てに寝たほうも寝たほうなんだが、末文が、クリーニングを出す時は信用ある店へ持っていけって言ってる。警告したかったのはまさかのそっちだったか!
「不覚に撮られた写真 おゝ村山の一日!あれが生涯の破滅とは」
友達と屋外スケッチをしているところを撮影され、さも男といたように合成されて脅されるという話。どんだけコラージュうまいのか知らないが、それでほいほいついていく女の方が問題あると思うんだが如何に。
本日のキーワード「洗濯屋の悪外交」